第2話 学年最強

      ◇


 試験会場である実践闘技場。体育館とはまた異なる殺風景なまでにだだっ広いスタジアムには、試験に参加するペアが二組向かい合うようにして対峙している。


(うわ、まさかの第一試合だし……)


 俺とグレイは闘技場の西門側に立ち、檀上に『よっこらせ』とあがるグラム校長の話に耳を傾けていた。


「え~、本日はお日柄もよく、無事に卒業試験の日を迎えることができました。我らがグレイスアーツ学院はこの街が誇る最高峰の学力・戦力研究機構。魔法科、魔剣科、薬科、医学科。あらゆる科の在校生の皆さんがここから世界に巣立つことを私は楽しみにしておりまして……」


 相変わらず校長の話は長い。胸元まで伸びる白髪がそよ風に靡き、毎日手入れしているであろう上品にカットされた顎下の髭をにこにこと弄りながら、グラム校長は闘技場と観客席にスタンバイしている俺達を見渡した。


「あ~、皆さんが住んでいるこの国、フラムグレイス独立国は世界でも数少ない『魔剣と人の完全なる平等と自治』を認められた国です。今は人と一緒に仲良く暮らしている魔剣ですが、かつてはただの『武器モノ』として扱われ、生きる権利を無視されてきた時代もありました。我々は、この悲劇の時代を繰り返してはならない。この国を作ったかの『白の英雄 ラスティ』も、こう言っています。『全ての人と魔剣は等しく、その絆こそが魂を輝かせるのだ』と――」


 あまりに長すぎる校長の話に、隣で待機しているグレイはうとうとし始めた。

 どうしてこう校長の話は眠気を齎す効果があるのか。俺の良い意味での緊張感もこうなると台無しというもの。


(あぁ、早く終わってくれ……)


 そんな切なる願いが届いたのか、校長は不意に俺の方に視線を向けた。


「おや? スタンバイしている生徒さんには申し訳なかったですね。お話はこれくらいにして、そろそろ試験を始めてもらいましょうか。ここにいる皆さんと高校でまたお会いできるのを楽しみにしていますよ? では、『小さきラスティの卵たち』に祝福あれ――」


 にっこりとした校長が手にした木の杖でこつこつと地を叩くと、開け放たれたスタジアムの空から白く美しい花弁が一面に降り注いだ。

 『わぁあ!』と一斉に歓声を上げる生徒たち。魔法使いなのか何なのかは知らないが、話の長い校長が学院の生徒たちに好かれている理由はこういったサプライズ好きでお茶目なところにあるだろう。だって、皆が驚く顔を見て『むふふ』と満足そうに去っていく姿を見れば、長らく待たされていた俺もついつい許してしまうというもの。

 魔法科の先生が風魔法でスタジアムに散らかった花びらを掃除し終わった頃、俺は試験官に促されて闘技場に足を踏み出す。


「それでは、魔剣科の生徒はこの場で引き続き進級試験を開始いたします。第一試合の生徒は前へ。それ以外の科は速やかに撤収してください」


 前に出る俺達を見守るのは試験監督と担任の教師、万が一に備えた救護教諭に、クラスメイト達だ。


「御園さん! 今日もお美しい!」


「研斗とグレイなんて目じゃないぜ! やっちまえ!」


 俺達の向かいに颯爽と現れた御園は、腰に携えた銀細工の美しい剣をすらりと抜く。


「出てきなさい、レーヴァテイン!」


 呼び声に応えるように剣が鈍い蒼銀の光を発する。引き抜かれた刀身が炎のように蒼く揺らめいたかと思うと、次の瞬間――


「……なぁに? お嬢……」


 肩まである薄蒼色の髪をふわりと払って、十歳くらいの美少年が姿を現わした。

 だが、そんな小さな子が出てきたところで俺とグレイの緊張の糸が緩むことは微塵もない。だって相手は学年最強と謳われる蒼き炎の魔剣、『天啓の魔術師』の異名を持つ『魔法剣レーヴァテイン』なのだから。

 睫毛の長い眠そうな瞳。私立小の制服のような白のリボンタイにショートパンツ姿の少年は、気だるげな表情に反してどこか高貴な雰囲気を醸し出している。さすがは名門柊家次期当主、ひいらぎ御園みその様にはお似合いの魔剣というわけだ。その様子に、客席の女生徒が黄色い声をあげた。


「「きゃ~! レーヴァくん可愛い~! こっち向いて~!」」


「今日も髪綺麗だね~! どんなお手入れしてるの~? なんかいい匂いがここまで届きそう~!」


 やいやいと騒ぎ立てる外野を鬱陶しそうに一瞥する御園。そして、大事な試験だというのに余裕たっぷりにあくびをするレーヴァテインに視線を向ける。


「とっとと終わらせて帰りましょう?」


 その言葉に、レーヴァテインはゆらりと背後の御園を振り返った。


「……戦闘は、一日三回までって約束だったよね?」


「…………」


「いくら学校に来ている僕が本体とは別の分身体レプリカだとしても、約束は約束だ。首席獲得に向けた深夜の打ち合わせと朝の稽古……今日はこれで三回目だよ? なのに肝心の相手があのポンコツ魔剣のグレイだなんて。なぁんか拍子抜け。だから朝練までする必要ないって言ったじゃん? お嬢ってば、ほんとーにくそ真面目なんだから」


「……いいのよ。今日はこれで終わりなんだから」


「そう――」


 『まぁいっか』という感じに頭をぽりぽりと掻いて、レーヴァテインは俺達に向き直る。


「僕、昨日夜中までお嬢に付き合わされて眠いんだ。早く帰りたい。だから一瞬で消えて貰うけど……いいね?」


 透き通るような、それでいて歳不相応な威圧感を放つ声。俺達は思わずつばを飲み込んだ。


(あの見た目でこの迫力……流石『十剣』は違うな……)


 魔剣は、その刀身が朽ちない限り死ぬことはなく、外見は『最盛期』を保持したまま止まるため、あいつの歳が見た目通りとは限らない。

 いくら普段は外見相応の子どもっぽい振る舞いをしているといっても、噂によると御園の家は代々家宝であるレーヴァテインを受け継ぐと聞いたことがある。だとすると、中身は軽く百歳を超えている可能性だってある。


 それにレーヴァテインは、あの伝説的魔剣研究者のラスティ博士によって建国時よりこの国の守護を任されたという十本の魔剣――『十剣』の一振りだ。

 そんな強強つよつよ魔剣がどうして学校なんかに……というのはクラスの皆の疑問だが、当主である御園の後学の為に、実力をセーブした分身体レプリカの状態でなら登校を許可されているとかなんとか。

 噂によると『面倒くさいから分身体レプリカに学校行かせてる』なんて話も聞くけど……今は関係ない!! いくらこの場に居るのが本体の力の一部を引き継いだだけの分身体とはいえ、その実力は計り知れないわけで。

 『十剣』であるレーヴァテインの二つ名は『天啓の魔術師』。だとすると――

 

 俺はスタジアム内で警戒するグレイに声をかけた。


遠距離攻撃まほうが来るぞ、注意しろ!」


「うん!」


 その様子にレーヴァテインがにやりと舌なめずりをする。そして、御園たちの活躍を待ちきれない観衆に後押しされるようにして場内にホイッスルが響き渡った。


「これより、進級試験第一次、『魔剣による能力実技テスト』を行います。パートナーである契約者は背後より戦闘の指示と手助けをして、魔剣を勝利に導いてください。尚、今回の採点項目は『魔剣の基礎能力』以外にも、『契約者が魔剣の能力を把握し、活かせているか』『適切な手助けを行えているか』も重要なポイントとなりますので、手出し無用というわけではありません。剣を握っていないからといって気を抜かないように! 契約者の方々、いいですね?」


「「はい」」


「それでは両者構え――試合、開始!」


 その声を聞いて、グレイが自身の足元から魔剣を呼び出した。ズズズと影がうねるように体内の金属物質と反応して、グレイの右腕にまとわりつく。漆黒の闇を具現化したような魔剣――グレイの分身でもあるそれは、『呪いの魔剣・深淵の墓守ダーク・イン・グレイヴ』だ。


 グレイの父親から『死にゆく者に少しでも安らぎを与えられたら』という願いを込めて『墓守』の名を与えられたと聞いている俺にとって、その闇は、静かに手招きをする安息を湛えているように見える。

 しかし、禍々しく意思を持つように蠢くソレを見て、場内から『うげぇ』『グロい』とかいう悲鳴が聞こえた。その声に、グレイはちょっぴりしゅんとする。


「外野の言うことなんて気にするなグレイ! 一気に距離を詰めていくぞ。そうすれば、遠距離魔法も怖くない!」


「わ、わかった!」


 レーヴァテインに向かって駆け出すグレイに、華奢な右手が向けられた。


「……させると思う?」


「……!」


 レーヴァテインが手から放った蒼い火の球がグレイに襲い掛かる!

 加速していたグレイは避けきれず、咄嗟に剣で弾いた。


「熱っ……!」


「大丈夫か、グレイ!?」


「大丈夫! これくらいなら……イケる!」


 その目の輝きに、レーヴァテインが御園を振り返った。


「お嬢、火力を上げたい。サポートしてよ?」


「え……いいの? いつもなら『疲れるからイヤだ』って……」


「とっとと終わらせるんでしょう? 出し渋っている方が余計に長引いて面倒だ。いいから詠唱を」


 こくりと頷いた御園はレーヴァテインに向かって両手をかざすと、なにやら呪文のようなものを唱え始めた。


「――【ゆらり、照らせ。幽玄の炎――】」


(御園の奴、まさか魔法の詠唱を……?)


 以前の授業中に演習場を炎の渦で包んでスプリンクラーを作動させる騒ぎになったことから、御園は校内での大規模魔法の行使が禁止されていたはずだ。だが、おそらくは試験に際して使用許可を取ってきたのだろう。


「まずい! 炎の渦が来るぞ! 受けるな、避けろ!!」


「えっ、えぇっ……!? 何処に!?」


「と、とにかく! 場内の端っこ!!」


 だが悲しいかな、グレイはレーヴァテインを眼前に見据えてスタジアムのど真ん中を突っ走っていた。


「急にそんなの無茶だよぉ!?」


「炎に包まれたら終わりだぞ!!」


「わかってるけどぉ!」


「ふふっ……! さぁ、熱風で場外に放り出させてもらおうかな?」


 レーヴァテインが楽しげに手の中で蒼炎を遊ばせ始めた。ぐるぐると蛇のようにレーヴァテインの周囲でとぐろを巻く炎が、詠唱に合わせてゆらゆらと美しい蒼を舞い踊らせる。


「――【揺れ、踊れ。魅せて。炎の楽園――】」


「「わぁあああ……!」」

「蒼い、火の粉が!」

「すごい綺麗……!」


 クラスメイト達はまるでキャンプファイヤー気分で歓声をあげている。


「くそっ! 人の気も知らないで!」


 だが、今の俺達に打つ手がないのも事実。


「ど、どどど、どうしよう!!」


 急ブレーキをかけたグレイがこちらを振り返る。


(このまま場外アウトで負けを待つしかないのか!?)


「バイバイ、呪いの魔剣のグレイちゃん♪」


 年相応ににっこりと笑ってみせるレーヴァテインに、御園が声を合わせる。



「「――【蒼炎の舞踏会フランシエル・ロンド】」」



「グレイ!!」


「やだっ! 助けて……!」


 ――『研斗……!』


 そんな声が、聞こえた気がした。

 みるみる炎に包まれる場内で途方に暮れるグレイ。


(今助けられるのは俺しかいない! くそっ、どこかに逃げ道は……!)


 開け放たれたスタジアムの上空に見える空の蒼と、目の前に広がる蒼はあまりにも美し過ぎて――


(ん……?)


 そして閃いた。


「グレイ上だ! 空があいてるぞ!」


 炎の渦はグレイを包むようにして円を狭めながら迫っている。しかしよく見ると、真上はバウムクーヘンみたいにがら空きだ!


「熱風に乗って飛べ! そんでもって、レーヴァテインに向かって落下できるか?」


「えっ? どうするの?」


「近づいたら一気に喉元を狙って――いいから早く! 俺に任せろ!」


「私飛べないよぉ!?」


「何のためにそんな身の丈以上のバカでかい剣持ってる!? 無駄に頑丈なのが取柄だろう!? ほら、アレだよアレ!」


 俺がフラダンスのようなジェスチャーで伝えると、グレイはぴこーん!と理解したようだ。言葉が足りなくてもお互いを理解し合える、そこは幼馴染パワァー。グレイは手にした魔剣を地面に突き立て、その柄を足場にして一気に空へと跳躍した。そして――


「おいで! ダーク・イン・グレイヴ!!」


 地に刺さった魔剣がふわりと消え、今度はグレイの足元に現れた。影を操る闇属性ならではの自在な芸当に、試験官がほう、と声を漏らす。そして、グレイは自身の魔剣をまるでサーフボードのように操って炎の渦を登っていった。

 そう、グレイは魔法が使えないポンコツだけど、運動神経だけはイイのだ。親の遺伝子さまさまだな。


「熱っ! あついあつい! 早く渦の外に出ないと、コゲコゲになっちゃう!!」


「急げ! がんばれ!!」


「へぇ……僕の炎を波乗りするなんて、やるじゃないか。それにしてもいい眺めだね、おねーさん? 可愛いピンク……ふふふっ♪」


 呑気なレーヴァテインの声に、ハッとしたグレイは思わずスカートをおさえた。


「レーヴァテインのばか!! えっち!!」


「僕にそんなこと言うの、キミくらいだよ? 全く……その言葉遣い。お父様あいつとは似ても似つかないねぇ? お行儀わる~い」


「うるさいっ! いくらお父様と同じ『十剣』だからって、余裕こいてると痛い目見るわよ!」


 グレイの父親と旧知だというレーヴァテインは危機感など微塵もなく、楽しげにくすくすと笑っている。そんな余裕綽々な態度にグレイは――


「潰れちゃえっ! レーヴァテイン!!」


 サーフボード魔剣ごと突っ込んでいった!!

 俺もタイミングを合わせ、即座に右目に手を当てる。


「よしっ! 作戦どおりだ、そのまま行けっ!」


 そして、俺は詠唱を始めた。


「――【深淵に、響く呼び声。微睡の歌】」


「……えっ?」


 御園が驚くのも無理はない。だってグレイは魔剣のくせになんにも魔法が使えないことで有名だから。そのせいで気味が悪いだけのポンコツ魔剣呼ばわり。だが、魔法が使えるのはレーヴァテインだけではない。グレイ以外は知らないけれど、俺だって親が研究者だったせいでちょこっと魔法が使えるんだから。


(内緒にした方がいいとは言われてたけど……進級がかかった大事な試験なんだ、出し惜しみしたらきっと後悔する! 手出しは無用じゃないんだよな!?)


「うそ……御劔君、あなたどうして……!」


「――【ときよ、止まれ――】」


「どうして『魔眼持ち』なのに、魔法科じゃなくて魔剣科にいるのよ!? 避けて、レーヴァ!!」


「ん? ミツルギ……? そうか、ダーインスレイヴの秘蔵っ子か……」


「――【刻止めの瞳】」


 その瞬間。俺と目が合ったレーヴァテインの時間が止まる。


 ……三秒だけ。


 そう。三秒しか止められない。だから、俺が魔法科に行ったところでどの道落ちこぼれなのだ。


(物心ついたときから持ってるこの瞳以外、魔法なんて使えないからな。それに俺はグレイと一緒に魔剣科へ行きたかったんだ。俺達は幼馴染で、それまでずーっと一緒にいた。これからもずっと一緒にいたい……)


 だからこそ――


(この試験、負けるわけにはいかないんだよ!!)


「グレイ! 喉元に剣を当てたら勝ちだぞ!!」


「知ってるってば! 間に合えーっ!!」


 急降下するグレイは足元の魔剣をすくい上げて一直線に構えた。

 狙うは、レーヴァテインの首ひとつ。


(さん、にぃ……)


 ――いち。 で間に合うはずだった。


「……ぷはっ! なにコレ、時間停止!? ふざけた能力だなぁ!?」


 レーヴァテインは、二秒で拘束を解いたのだ。


「――【氷華の結界ジーヴル・レギオン】!」


 咄嗟に喉元に氷の華を纏わりつかせ、グレイの攻撃を防ぐ。剣先を弾かれたグレイは体勢を大きく崩してレーヴァテインの目の前に尻餅をついた。


「きゃっ……! あいたぁ!」


「うそだろ!? 魔眼の拘束に逆らうなんて――!」


 ぶっちゃけ防がれたのは初めてだ。動揺が隠しきれない。


(魔眼に関しては、ダーインスレイヴさんのお墨付きだったのに……!)


 ちょっとショックだ。食い逃げとか痴漢を捕まえるとき以外、あんまり使ったこと無いけど。だが、御園も同様にショックを受けていたようだ。


「うそ……! レーヴァテインが、防御の魔法を使わされるなんて……!」


 相方であるレーヴァテインの実力に絶対の自信を持っていた御園は、その事実に打ちのめされていた。だが、当の本人はいたってご機嫌に氷の魔法を振りかざす。


「ああ、丁度僕も涼しくなりたいと思っていたところなんだ。ありがとう、グレイちゃん?」


「うっ……! 早く、剣を手元に……!」


「ほら、無駄な抵抗はやめなよ? ――【氷の足枷グラース・ペナルティ】」


 パチンっ♪


 指を鳴らしただけでいとも簡単に顕現する氷の魔法。

 両手足を氷で拘束されたグレイは為す術がない。


「はうっ! 冷たい! レーヴァテインのやつ……炎以外も使えたの!?」


「まぁ、『天啓の魔術師』と謳われた優秀な魔法剣ですから? これくらいできないと博士の名前に泥を塗ることになっちゃうもん。僕の体内には複数の元素と反応を起こす金属物質が流れている。ラスティ博士の最高傑作たる人造魔剣……それがこの僕。要は、フツーの魔剣とは作りが違うのさ? キミの父親だって特殊な再生能力を保持し、不死――『命を喰らう魔剣ダーインスレイヴ』と呼ばれていたんだ、似たようなモノだろう?」


「ぐっ……! 今、お父様は、関係ない……!」


「そぉ? けど、そんなキミは“あの”伝説の魔剣の娘なのに、パートナーの手を借りてもこれが精一杯なのかい? キミと彼は、僕らより余程相性がいいように見えるけど?」


 くすくす。


「うぐぐ、チートめ……!」


「そっちもね?」


 ちらりと俺を見たレーヴァテインが、手からめらめらと蒼銀の魔剣を取り出した。スカートの中身をおさえることもできないまま尻餅をついて忌々しげに見あげるグレイ。その喉元に、揺らめく炎を纏った剣先を当てて――


「はい終わり。惜しかったね、呪いの魔剣のおねーちゃん? いや、僕から見たら、『お嬢さん』かな? ふふふっ♪」


「――試合終了! 柊・レーヴァテインペアの勝ち!」


 歯噛みする俺達をよそに、歓声を送るクラスメイト。


「さっすが御園さん!! 今日も鮮やかな太刀筋だ!」


 そんな賞賛の声を浴びながらも、御園はどこか浮かばない表情をしていた。そして、ぼそりとこちらを見やる。


「……いいわよね、あなた達は。いつも一緒にいられて」


「「……??」」


 勝利したというのに、まるで負けたような苦々しい顔つき。

 その理由を、俺達はこのとき知らなかった。


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