第9 花火大会

「雄平、あなた花火大会行く相手いたりするの?」


「花火大会?あー、そういえば今度あるな。毎年、友達と行くけど今年はみんな彼女いる感じだし予定には入れてないし、そういう話しもしていない」


「じゃあ、梨生ちゃん連れて行ってあげたら?」


「えっ!?」


「同じアパートだし行きも帰りも一緒だから親御さんも安心じゃない?」

「藤原も都合あるだろうし、ましてや恋人同士じゃない俺達だし周囲の目があるからなぁ~」

「親から勝手に計画たてられたって言えば怪しまれないわよ」

「はあぁぁぁっ!?つーか、それって計画実行みたいな感じに聞こえるんだけど?」


「何言ってんの?良かったらで良いんだから」


「…………」




――― そして花火大会当日 ―――




「はい、梨生、これに着替えて」

「何これ!浴衣!?どうして?」

「花火大会に行っておいで」

「えっ?花火大会に一人で?」

「迎えが来るから大丈夫よ」

「迎え?誰が?」



私は強制的に浴衣に着替えさせられる。



「ちょ、ちょっと!お母さんっ!」



そして、玄関先に連れて行かれ部屋から追い出すようにすると鍵を掛けられた。


「えっ!?鍵……掛けられたし!ちょっと!お母さんっ!」



すると ――――



「近所迷惑だぞ!藤原 梨生っ!」

「えっ!?」



ドキッ

私の胸が大きく跳ねる。



「駿河……君!?」



≪わ、わ、どうしよう……恥ずかしい所見られた……≫



「……花火大会……」

「…えっ?」

「お前と行けって追い出された」

「えっ!?……お、追い出された……?嘘…」

「しかも鍵までかけられたんじゃ行くしかねーだろ?」


「いや…でも……。だ、駄目駄目!私達は…」

「確かに彼女でも何でもねぇお前と行かなきゃならない理由は分かんねーよ!」



「………………」





私は否定するも正直嬉しかった




だけど ――――




彼にとっては


迷惑だったんだろうと思う


だって


彼女でも何でもない


ただの同じアパートの住人なだけで


ただのクラスメイトなだけで


そんな相手と行く理由は


確かに分からないと ―――




「ごめん…付き合わされていい迷惑だよね……良いよ。私は行かないから駿河君行って来なよ」


「行かないって…お前追い出されたんだろ?」

「そうだけど……大丈夫だよ。適当に時間……」



私の手を握る。



ドキン



「せっかく浴衣着てんだし行こうぜ」

「……でも……」

「親達が計画的にしてんだし無理だって。行くしかねーよ」



「………………」



頭をポンポンとする。


ドキン



「一人じゃ危なすぎだから」




いつもより優しく感じるのは気のせい?



グイッと繋いでいた手で歩き始める。


繋がれた手の温もりを感じながら私の胸はドキドキと加速する。







ねぇ……




今日だけ……




あなたの特別な女の子に




なって良いですか?




私は……




あなたが……




好きです…………






「ねぇ、駿河君、彼女つくらないのはどうして?モテモテなら告白される事はあったんじゃないの?」


「あー、1年の時は告白絶えなかった。だけど恋愛よりも遊ぶ方が良かったし。それに変なファンクラブあったからな。付き合う相手に迷惑かかるから辞めた」


「そうか……」


「それに……性格違うし」


「あー」


「唯一、お前だけだし。俺の性格知ってる奴。同じアパートに引っ越して来て、同じクラスで同級生って明らかに嫌がらせだろう?」



私はクスクス笑う。



「だから隠さずにお前と接して行こうと思った。まあ、一人位、本音で話せる異性いても良くね?」


「そうだね」



私達は色々話をし楽しい時間を過ごした。



花火が始まり混み合う前に時々足を緩め花火を見る中、私達はアパートに帰る事にした。




「今日はありがとう」

「別に。追い出されたから仕方なく」

「それは私も同じだから」



私達はエレベーターに乗る。



「慣れない浴衣は嫌だ。さっさと脱がなきゃ」

「本当、似合わねぇ浴衣着て見せる相手違うだろう?」



「本当、私の親、何考えてんだろう?それじゃ、おやすみ」

「ああ」



エレベーターが2階に着き降り始める私。



グイッと引き止められたかと思うと、再びエレベーターに乗せられた。



「えっ?ちょっ…す…る……」




キスされた。




突然の出来事に、胸が大きく跳ね、ドンッとエレベーターの側面に押し付けられた。


角度を変え何度かキスをされる。




≪嘘…≫



唇が離れ、駿河君の顔がまともに見れず顔をそらそうとすると両手で両頬を優しく包み込むようにされ、おでこ同士をくっ付ける。



「悪い…いつも言い合ってるけど、今日のお前、雰囲気違うから我慢出来なかった」




ドキッ



かあぁぁぁ~


至近距離でさらりと言われ爪先から頭のテッペンまで私は熱くなったのが分かった。



「どんだけ素直だよ…」



もう一度キスをされ、エレベーターが止まる。



「じゃあな!浴衣似合ってたぜ!おやすみ」



頭をポンポンとされ駿河君は降り、エレベーターの扉が閉まる。


そしてエレベーターが到着。


気付けば2階のようだ。



まさかの不意のキスは私の胸をざわつかせた。


そして、彼への想いが更に確信した。



















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