六話 所長への依頼
昨日。
カイトとセレカティアにミリの事を頼んでしばらくして。
クリスは事務所より少し離れたレストランへと足を運んでいた。
ここに今日、会う筈である人物が来ている。
中に入り、待ち人である人物を探していると、男性がこちらに向けて軽く手を振ってきた。
「あぁ、はじめまして、クリス・サリウスです」
男性が座っているテーブルに歩み寄るなり、彼に手を差し伸ばす。それに対して、男性は好意的な笑みを浮かべて握手に応じてくれた。握手を終えると、男性の向かいにある椅子に腰かけ、事務所に送られてきた手紙を胸ポケットから取り出してテーブルに置いた。
「まさか、貴方にご依頼にされるとは思いませんでした」
「クリスさんの評判を聞き、安心して依頼できると思った次第ですよ」
男性はテーブルに置かれたコーヒーを一口飲み、小さく笑う。
「あぁ、どうぞ。好きな物を頼んでください。コーヒーがお好きなのを存じています。ここのものはとても美味しいですよ」
――そこまで、調べてますか。
「ありがとうございます。すみません、コーヒー一つ。砂糖、ミルクは無しで」
近くを歩いていたメイドに注文をすると、『かしこまりました』と営業スマイルをし、歩いて行った。
「評判通り、綺麗なお方だ」
男性は白髪交じりの髪を撫でながら、目を細める。
「ご謙遜を」
実際のところ、自分が世間的に見て綺麗な顔つきをしているのは自覚している。男性からの仕事の依頼を受ければ、終わった後には必ずと言っていいほどに食事に誘われる。そして、何度か誘いを受けるのだが、次第にそれも無くなる。理由としては、酒癖の悪さだと分かっている。男性と付き合う事に拘っていない為、離れていくのには大したショックを受けない。誘われ、離れていくまで過程が日常化すらしているからだ。
自分が美人の部類である事を鼻にかけているつもりも毛頭無い。それ以前に、女性だからという理由で片づけられる事が、他の女性に比べて贔屓されてしまっている為、憤りを感じてしまう程だ。
「今まで見てきた中で、一、ニを争う程だよ」
「またまた。でも、ありがとうございます」
クリスは軽くお辞儀をし、
(どこでもやってる手口だろうね。さっさと本題に入ろ)
と内心で舌打ちする。
「では、本題に入っていただけますか?」
「あぁ、すまないね。実は、私の屋敷にミストと思われるものが出ているようなんだ。発生している現象の特徴に全て当てはまっているから、おそらくそうだと思うんだが……」
「数は?」
「四つだ」
ミストが現れるのはその場所に思い入れなどが関係してきている。普通に考えれば、近場でいくつものミストが出現するという事は考えにくい。
「いつ頃からそれらが現れました?」
「半年前から一つ現れ、そこから数が増えてしまってね。メイド達も困っているんだよ」
時期がバラバラに現れ、近い範囲に存在している。ミストは親類なのかもしれないが、この時点でこの事を聞いてしまえば、男性にミストの正体を教えるも同然の行為となってしまう。
仕事は受けよう。だが、事実関係は、彼の屋敷に着いてから調べる事が必要になる。
「わかりました。お受け頂きます」
「ありがとう」
「いえ、ファルト・ノシアムーアさん。必ず、ミストの問題を解決します」
クリスはメイドが持ってきたコーヒーを受け取った後、軽く頭を下げてコーヒーカップに口を付ける。目を閉じ、ほんのりとした匂いを堪能しながら一口飲んだ。
「あ、美味しい」
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