魔術師ギルドの依頼 4

 橋の土台を作る依頼を受けた翌日。僕とタカオ、そしてアネットさんの3人で旅に出る。目的地はザックソン村という場所で、馬車で3日移動して、そこから徒歩で4日という、かなり遠くまで行かなくてはならない。



 朝食を済ませた僕とタカオは、アネットさんと合流して、街の南西へと移動する。この区域には、街道に繋がる大きな広場があり、物流の拠点となっていた。馬車の停留所もここにあり、目的地へと向う駅馬車えきばしゃを探す。


 辺りを見渡していると、タカオが目的の馬車を見つけたようだ。


「おっ、あれだろ。ザックソン村にいく途中の『バーデン街』に行く馬車は」


 指さした先には、『バーデン街 行き』と、小さなプレートをつけた、大きめの馬車があった。



 馬車は2頭立て、およそ10人くらいは乗れるだろうか。荷台は、だいぶ簡素かんそな作りで、板張りのベンチシートと、ホロの屋根があるだけだった。


 かなり安っぽい作りだが、バーデン街まで3日間の交通費が、1人あたり銀貨5枚と、実際に安いのだから、あまり文句は言えない。


 僕が、近くにいた御者ぎょしゃさんと思われる人に、声をかける。


「すいません。『バーデン街』への馬車はこれで合ってますか?」


「ああ、合っているよ。昨日、予約があったお客さんか?」


「ええ、そうです。3名で予約しているのですが……」


「おう、その話は聞いてるよ。悪いけど、出発まで少し待ってくれ」



 僕と御者さんが話していると、タカオが会話に割り込んでくる。


「待たなきゃ行けないってのは、他に乗客がいるからか?」


「いや、他に乗客は居ないんだが、この重い荷物を積まなきゃなんねぇんだ」


 そう言って、そばにあった酒樽さかだるをペチペチと叩く。高さが腰あたりまでありそうな、大きなワインの酒樽が6個ほど置いてあった。ラベルには120リットルと書いてあるので、これだけでおおよそ720キログラムある事になる。



 タカオが御者さんに、こんな提案をする。


「この重量だと、馬に負担が掛るんじゃないか?」


「掛ると思うが、急がせずゆっくりと行けば大丈夫だ。いつもこのくらいは載せてるからなぁ」


「でも、できれば荷物は軽い方がいいだろ?」


「まあ、そりゃあ、軽いにこした方が良いに決まってるが……」


「実は俺の相方が倉庫魔法を使えるんだ。重い荷物を収納して、重量をゼロにできるんだぜ」


「おっ、そんな魔法が使えるのか。それなら是非とも頼むよ、少しだけ料金を割引するから」


「よし、わかった。やってくれユウリ」



「あっ、うん、分ったよ」


 僕が収納しようとすると、魔法という事で、アネットさんが食いついてくる。


「ユウリさんは倉庫魔法も使えたんですね」


「うん、まあ、いちおう使えるよ」


「なるほど。でも、重量が120キロの樽は収まりますか?」


「大丈夫だよ。酒樽を全て収納せよ」



 そういって、手のひらを酒樽にかざす。するとアネットさんが軽く笑いながら言ってきた。


「またまた、ユウリさん、冗談はきついですよ。『倉庫魔法』を習得するのは難しく、きわめてもせいぜいこの樽が2つ入るのがやっと……」


 そう言いかけた横で、樽が6つとも消えて、僕の倉庫魔法の中に収まった。


「ふぁ! ど、ど、どうなってるんですかユウリさん?」


アネットさんが問い詰めてきた。どうやらこれだけの量が入るのは異常らしい。



「あっ、ええとですね。隙間すきまを詰めるような感じで収納すれば、意外と入りますよ」


 僕は適当な言い訳をしていると、タカオが余計な事を言いかける。


「隙間なんてあんまり関係ないんじゃないか? キャンピングカーみたいな馬鹿でかい『居住馬車きょじゅうばしゃ』だって、簡単に収納してムグゥ」


 僕は慌てて口を塞いだのだが、間に合わなかった。


「えっ? 『居住馬車』って……」


 アネットさんがドン引きしている。樽を6つ格納しただけで驚いていたのに、大型の居住馬車まで格納していると知ったら、いったいどうなってしまうのだろうか……


「お、おもちゃの馬車ですよ。本物が入る訳がないじゃないですか」


「そ、そうですよね。そんな規格外きかくがいの物は入りませんよね、ハハハ……」



「おう、嬢ちゃんたち。酒樽をしまったのなら、もう出発できるんだが、どうする?」


 御者さんに言われて、タカオが答える。


「じゃあ、すぐにでも出発しよう。乗り込もうか」


 僕らが馬車に乗り込むと、馬車はゆっくりと進み出し、僕らの旅がはじまった。


 この世界は魔法が発達していて、みんな使いこなせていると思っていたのだが、もしかして違うのだろうか?

 アネットさんの居る前では、魔法を少し控えた方がいいのかもしれない。

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