魔術師ギルドの依頼 3

 僕はアネットさんと二人で、街の温泉施設へと向う。

 橋の土台を建設するクエストを受けたので、タカオに説明しに行くためだ。



 歩いて移動している途中に、アネットさんが僕に聞いてくる。


「ユウリさんは『城壁』以外に、どんな魔法がつかえるんですか?」


「ええと、生活魔法と白魔法を少し使えますね」


「白魔法も使えるんですか? それは珍しいですね。どんな白魔法を使えるんです?」


回復ヒール治療キュアくらいですかね。初歩的な回復の魔法が使えるだけだと思います」


「そうなんですね。まあ、てん二物にぶつを与えずと言いますからね、白魔法がショボくても、『城壁』という超魔法をさずかっただけでも凄いですよ」


「あっ、はい。そうですかね」


 僕としては、怪我を治す白魔法の役割がメインで、『城壁』の魔法は、キャンプの時に便利な、補助的な魔法だと思っていたのだけど、どうやらアネットさんはそうは考えていないらしい。

 しかし、『城壁』の魔法がメインと考えると、僕の役割はキャンプ係だろうか…… さすがにその役職ジョブは嫌だ。



 アネットさんが、少し得意気とくいげに語り始める。


「温泉に着いたら、私、やらなきゃいけない作業があるんですよ」


「へえ、どんな作業ですか?」


「少し特殊な魔法を使うんですけどね。おおっ、あれが温泉の施設ですか? 大きい建物ですね」


「ええ、あれがそうですね」


 話ながら歩いていると、あっという間に温泉についた。そういえば、タカオはかなり臭っていた。あまり汚れていると、温泉の入場を拒否されそうなのだが、タカオはどうなったのだろう?

 少し心配をしていると、こんな旗が上がっているのが見えた。


『ただ今、絶世ぜっせいの美女、入浴中』


 どうやら、タカオは無事に場内に入れたらしい……



 受付で会計を済ませて、中に入る。女湯の中を、ざっと見てもタカオは居なかった。どうやら男女共有スペーズの、温水プールの方に居るらしい。僕とアネットさんは水着に着替えて、プールへと向う。


 プールでは、タカオがゆっくりと優雅に泳いでいた。僕が近寄って行くと、向こうも気がついたようだ。タカオはプールから上がって、僕に声をかけてくる。


「よう、ユウリ。魔術師ギルドの話はどうなった?」


「その前に、臭いはちゃんと落ちたの?」



 気になっていた事を聞くと、タカオはこう答えた。


「そうそう、その事だけど、この温泉施設に入る前にオーナーに見つかってさ、いきなり『洗浄せんじょう』の魔法をかけられたんだよ。その時に汚れや臭いが綺麗に落ちたんだけど、考えてみれば『洗浄』の魔法はユウリも使えただろ?」


「……そうか、僕がタカオに『洗浄』の魔法をかければよかったんだね?」


「ああ、俺も後から気がついた。最近は体が汚れると、すぐに風呂に入っていたからな。この魔法の存在を忘れていたよ」


 魔法は便利だが、術者の使い方が悪いと、その効力を上手く発揮できない。今度からは、汚れたら何にでもすぐ使うようにしよう。



「それで、魔術師ギルドの方はどうなったんだ?」


 タカオに言われて、話を戻す。


「それなんだけど、実際に魔法使ってみて欲しいって話になって。その手のクエストを受ける事になったんだ。辺境のザックソン村という所で、橋の橋脚を作る依頼なんだけど……」


「へえ、面白そうな場所だな。辺境の村だと、なんか強いモンスターが出そうだし」



 いつも通りの調子で話していると、アネットさんが会話に割り込んできた。


「……あっ、ザックソン村には、あまり強いモンスターは居ませんよ。ところで、このお姉さまはどなた様でしょう?」


 そう言って、僕に聞いてくる。


「そうだ、ちゃんとした紹介がまだだったね。この人が僕のパートナーのタカオだよ」


「えっ、あの、ボロ布をかぶった人ですか? あの人が、こんなステキなお姉様だったなんて……」


 そう言えば、ギルドで顔合わせをした時に、タカオは頭から布をかぶっていた。あの時は臭っていたし、この美人とは同一人物と考えられないのだろう。



『ステキなお姉様』と言われたタカオが、ちょっとその気になる。


「嬉しい事を言ってくれるね。君もなかなか魅力的だよ」


「そんな、私なんか…… 顔も整っていませんし…… スタイルも悪くて胸もないですし……」


「俺から見れば充分に魅力的さ」



 少し良い雰囲気になりそうなので、僕があえて空気を読まない質問をする。


「そういえばアネットさん、ここでやらなきゃいけない作業があったんですよね?」


「あっ、そうなんです。師匠が魔法で女性の裸を覗くとマズいので、防御結界を張っておこうと思いまして」


 するとタカオが反論をする。


「この温泉施設には、光防御魔法ひかりぼうぎょまほうが掛っているから平気だぜ」


 光防御魔法とは、見えてはいけない部分が見えそうになる時、自動的に閃光で隠してくれる、便利な防御魔法の事だ。



 タカオの反論に、アネットさんは答える。


「いえ、単純な光防御魔法だと、師匠がその気になれば解除してしまうでしょう。さらなる強化が必要です」


 どうやら魔法を強化するらしい。なるほど、そうなると温泉施設のオーナーに、話を通しておいた方が良いだろう。


「じゃあ、僕がオーナーに許可をとってくるよ。アネットさんは魔法をかける準備をして」


「わかりました。お任せ下さい」



 オーナーに事情を話し、OKをもらってきた。

 プールに戻り、アネットさんに伝えると、魔法の詠唱が始まる。


いやしき心で覗かんとする者に、大いなる光りの天誅を与えん『閃光結界陣せんこうけっかいじん』」


 魔方陣が現われて、光防御魔法が辺りに掛った。おそらくこれで大丈夫だろう。



 この後、プールで一通り泳ぎ、女湯の湯船で体を温めてから、上がろうとした時だ。


「アネットちゃんのスレンダーなボディ、よく見せて…… まぶしっ!」


「ではかわりに、お姉さまのプロポーションを見せてもらっても…… まぶしい!」


 タカオとアネットさんから悲鳴のような声が聞えた。光防御魔法を強化したのを、2人とも忘れたのだろうか……



「ユ、ユウリ。目を治してくれ」


「わ、私にもお願いします」


「はいはい、この者たちの目を治せ『治療の奇跡キュアー』」


 しょうがないので、2人にキュアーの魔法を掛ける。ザックソン村までは、片道1週間。このパーティーメンバーで大丈夫なのだろうか……

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