遺跡とダンジョン 7

 お金を入れて、遺跡の中に入ると、いきなり下り階段があり、その横に注意書きが書いてある。


『あわてずゆっくりと移動して下さい』

『冒険者のマナーを守って攻略して下さい』

『ダンジョン内では飲食は禁止です』


 ……う~ん。これは完全にアトラクションの施設のような気がしてきた。


「よし! 行くぜ!」


 タカオが先頭を切って階段を降りる。



 地下1階に降りると、こんな看板があった。


『トレーニングエリア。罠に気をつけて進んで下さい』


 床や壁の一部分に、赤い塗料で印がつけられている。

 いくらなんでも、これは露骨ろこつすぎる気がする。これだけ分りやすかったら、罠の意味が無い。おそらくコレは人目ひとめを引くダミーで、本物の罠は分りにくく設置されているはずだ。



「おっ、この赤いのが罠だな。避けて行こう」


「そうだねぇ、気をつけよう」


 タカオとマクダさんは何も疑わずに進んで行くので、僕はあわてて止める。


「ちょっと待ってよ。罠があるんだから、もっと慎重しんちょうに進まないと」


「おう、だから赤い場所には、気をつけて進んでるぜ」


 そう言いながら、タカオは進み続ける。


「あっ、ちょっと!」


 そのまま歩き続ける事、およそ100メートルくらいだろうか。廊下を抜けると、小さな部屋があり、地下2階に降りる階段が現われた。

 どうやら、赤い部分に触れなければ大丈夫なようだ。

 このダンジョンは、あまりにも親切すぎないだろうか……



 地下2階に降りると、今度はこんな看板がある。


『まだトレーニングは続きます。罠の位置は地下1階と同じです、気をつけて進んで下さい』


 地下1階と同じような道が続いているのだが、今度は赤い塗料は無い。

 看板を見たタカオとマクダさんの2人が、そろって僕を見つめる。


「だってさ、ユウリ。罠の場所を覚えてるか?」


「ユウリくんなら覚えているよね?」


「いえいえ、覚えてませんよ。確認するために地下1階に戻りましょう」



 するとタカオはそのまま進み出す。


「まあ、何とかなるだろ。罠が発動しても、サッと避ければ良いんだし」


「いや、無理でしょ。引き返そうよ」


「大丈夫だって、俺にまかせろ!」


 廊下を歩き出して数歩で、足元からカチャリと音がした。どうやら何かのスイッチを押したらしい。すぐに 正面から矢が飛んできて、タカオの胸に突き刺さる。



「う、うわぁ、この者の傷を治せ『回復ヒール!』『回復ヒール!』」


 すぐにヒールの魔法をかけると、タカオは冷静に僕に言ってきた。


「大丈夫だ、本物の矢じゃない。これを見てくれ」


 そう言いながら、矢をつかんで引き抜く。すると、キュポンという音がして矢が抜けた、矢の先端は吸盤みたいになってる。



 マクダさんが矢を見ながら言う。


「まだこのフロアの罠は、おもちゃなのかもね。さっきの看板に『トレーニングは続く』って書いてあったからねぇ」


「おもちゃだったら怖く無いな。どんどん進もうぜ!」


 タカオが構わず進んで行く。カチャリ、カチャリと罠を作動させると、たくさんの矢が飛んできた。僕らはハリネズミのようになりながら、地下2階の廊下を抜けた。



 廊下を抜けると、地下3階への階段があり、こんな看板がある。


『この先は、ペナルティーエリアとなります。自信のない方は、右にある階段で地上へとお帰り下さい』


「いざ地下3へ……」


 タカオがそこまで言いかけると、マクダさんが大きな声で言う。


「よし、帰ろう! この先は無理だよ」


「そうですね。帰りましょう」


 僕もその意見に乗っかった。



「えー、大丈夫だって、行こうぜマクダのあねご」


 食い下がるタカオを僕が説得をする。


「無理だよ。矢が20本以上刺さってるでしょ。それが本物だったら何回も死んでるよ」


「いや、でも……」


 まだ先に進もうとするタカオを、マクダさんがヒョイと肩にかつぐ。


「ほらほら、今日はもうおしまい。お腹も減ってきたし、この続きは明日にしましょう」



 タカオは暴れて逃げるかと思ったのだが、意外と大人しくしている。


「マクダのあねご、胸があたってるんですけど……」


女同士おんなどうしだし、そんなに気にしなくていいでしょう。じゃあ、帰ろうか」


 ……なるほど、じっとしている理由が分った。

 階段を上がり、僕らは地上に戻ってきた。タカオはかつがれたまま上がってきたのだが、その間、ずっとニヤニヤとしていた。



 遺跡を出ると、もう夕方だ。キャンプをするために、昨日過ごした塔へと戻る。

 帰り道の途中、川を橋を渡っている時に、マクダさんがこんな事を言い出す。


「さっぱりとして行きたいなぁ、ちょっと水浴びをしていかない?」


「あっ、それだったら、僕がお風呂を作りましょうか? 石の風呂だったら、簡単に作れますよ」


「本当に? それなら久しぶりにお風呂に入りたいなぁ。いつもはシャワーで済ませてるから」


 すると、タカオがこんな事を言い出した。


「それなら、このタワーブリッジのてっぺんに、お風呂を作ったらどうだろう。見晴らしが良いと思うぜ」


「そうだね。頂上にお風呂を作ってみようか」



 橋についている階段を登ると、頂上に展望台のようなスペースがあったので、その中心にお風呂と、お湯が湧き出る場所を作る。


「石の風呂を作り出せ『石の壁』、水よ永遠に湧き続けろ『製水クリエイトウォーター』、湧き出た水を温める続けろ、『火柱ファイヤーピラー』」


 お湯がコンコンと湧き出て、湯船へと注がれる。するとマクダさんは服を脱いで、すぐに風呂に入ろうとする。

 ちなみにお湯は出始めたばかりで、湯船の4分の1ほども埋まっていない。


「お、俺も入ります。お、女同士ですし……」


 タカオがマクダさんの裸を覗こうとしたので、僕はタカオの耳を引っ張ってつれて行く。



 このタワーブリッジは、橋なので二つの塔が立っている。

 この二つの塔は、展望デッキで結ばれているので、反対側に渡り、僕は同じお風呂を作った。


 タカオはこちら側の風呂に入るように言うと、僕は展望デッキの中央に居座り、タカオが悪さをしないか見張る。

 塔と塔の間は100メートルほど。タカオは悪さはしなかったのだが、しきりに反対側のマクダさんの方を見ていた。これだけ距離があれば、人は米粒こめつぶくらいにしか見えないと思うのだが……

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