遺跡とダンジョン 6

 遺跡への距離はおよそ300メートルと、遠くはないのだが、森に視界をふさがれ、川に行く手をはばまれ、僕たちはたどり着けずにいた。


 僕らは再び塔に登り、遺跡の位置を確認する。タカオが遠くの川を指さして言う。


「あそこら辺までは行ったけど、あの場所で俺は川に流されたんだよな。あの時、ユウリの魔法で川に橋を作って渡れば、流されずに行けたかな」



 するとマクダさんが、こんな質問をしてきた。


「橋って、どのくらいの物が作れるの?」


 その質問には僕が答える。


「まだ限界を試してないので、よくわかりませんけど、意外と大きい物も作れると思いますよ。魔法の射程距離もけっこうありそうですし」


「へぇ~、もしかして、この場所から、あの川の場所まで橋を架けたりできる? もし架けられるなら、道の目印にもなったりするから、迷わず行けるようになるんじゃないかな?」


「そうですね。試してみましょう」



 呪文の詠唱を始めようとした時に、タカオが余計な事を言う。


「そうだ、目印にするんだったら、ロンドンにあるタワーブリッジみたいな、豪華なヤツが良いんじゃないか」


「えっ? そんな急に…… ええと、塔を備えた大きな橋よ、あの川に架かれ『城壁!』」


 どうやらこの魔法は、僕の想像どおりに石の建築物を作るらしい。

 タカオに言われて、ロンドンのタワーブリッジを思い浮かべながら、呪文を唱えてしまったので、川幅2~3メートルほどの小川に、高さ50メートルほどの塔を備えた、長さ100メートルほどの巨大な橋を架けてしまった。



 タカオが橋を見ながら言う。


「あれだけの大きさの物が作れるのなら、この塔との間にも、道みたいな物を作れば良いんじゃないか? 移動が楽にできるぜ」


 小さな橋を架けるつもりが、とんでもない橋をかけてしまった。こうなると、バランスとか、もうどうでもよくなる。僕はタカオのリクエストに答える。


「ああ、そうだね、空中回廊くうちゅうかいろうよ現われろ『城壁』」


 塔から橋までの間を、万里の長城のような、上が道になっている城壁を作り出して繋げる。

 これで、遺跡まで直線で繋がったので、もう絶対に迷う事はないだろう。



 タカオが塔の階段を駆け下り、出来たばかりの空中回廊を進みながら言う。


「よっしゃー、これでダンジョンにたどり着けるぜ!」


「喜ぶのはまだ早いと思うよ。遺跡があるっていうだけで、まだダンジョンが存在している訳じゃないし」


 はしゃぐタカオを僕が落ち着かせようとすると、マクダさんも援護えんごしてくれた。


「そうだよ。ユウリくんの言うとおりだよ。たまにハズレもあるんだから」


 そう言われて、タカオが少し大人しくなった。


「マクダのあねご、ハズレってどのくらいの確立なんですかね?」


「うーん、何とも言えないけど、1割くらいがハズレかな。こういった場合は、ほとんどダンジョンらしき施設が見つかるみたいだし」


「じゃあ、もう、あるようなもんじゃないですか。さあ、急いで行こうぜ!」


 9割の確立でダンジョンがあると知って、興奮こうふんしたタカオがさらに先を急ごうとする。



 マクダさんが、いつもののんびりとした口調でタカオに言う。


「そんなに急がなくたって良いよ、ダンジョンは逃げないんだし。ところで、タカオくんはどんなタイプのダンジョンを期待しているわけ?」


「どんなタイプって…… 何か系統みたいなのがあるんですか?」


「えっ? もしかして知らない?」


「知りません」


「……あきれたねぇ。その調子だと、ダンジョンの成り立ちとかも知らなそうだけど」


「ええ、全く知りません」


「じゃあ、ダンジョンに関して、軽く説明をしようか」



 マクダさんのダンジョン講座が始まる。


「まず、ダンジョンというのは、人のエネルギーをかてにする、巨大な生命体のような存在なんだ。分かりやすい例だと、宝物とかで人を呼び寄せて、罠にかけて捕らえる、食虫植物しょくちゅうしょくぶつみたいな感じかなぁ。いつのまにか出来ていて、人をおびき寄せようとするんだ」


 僕が深刻な顔で質問をする。


「ダンジョン探索は、危険で命がけなんですね」


「いや、危険なダンジョンもあるにはあるけど、本当に危険なダンジョンは少ないよぉ。だいたいは安全なダンジョンだし」


 ……安全なダンジョンとは何だろう? この異世界には、そんな物があるのだろうか?



 マクダさんの説明を聞いて、タカオも混乱したようだ。


「あれ? ダンジョンにはお宝と、それを守る危険な罠、強靱きょうじんなモンスターが、定番なんじゃないんですか?」


「モンスターが出てくるダンジョンもあるけど、それは難易度が高い一部のヤツだけで、あまり一般的なダンジョンじゃあないね。おっ、もう着いたみたい」



 僕らは遺跡にたどり着いた。

 石造りの建物は、幅15メートル、奥行き10メートル、高さは2階建てくらいの、少し大きな住宅ほどで、正面に大きな入り口があり、何か文字のような物が入り口の横に掘られている。


 タカオが文字に走り寄り、読み上げた。


「ええと、『リバーサイド・ダンジョンへようこそ。このダンジョンの難易度はEランク、年齢制限は6歳以上です。入場料は、大人は銀貨1枚、子供は銅貨5枚です』……なんだこりゃ?」


 不思議がるタカオの横で、マクダさんが納得したようにつぶやく。


「なるほど、入場料を取るタイプか。これは安全なダンジョンだね。さて、ダンジョンのタイプも難易度も分かったし、帰ろうか」



 マクダさんは文字を読み取っただけで帰ろうとした。これにはタカオが食い下がる。


「ちょっと待って下さい。せっかくここまで着たから入りましょうぜ、マクダのあねご」


「でも、私は入場料を払いたくないよ。もったいないし」


「銀貨1枚くらいだったら、俺が払いますから」


「本当? 出してくれるなら入ってみようか」


「だってさ、ユウリ。お金を出してくれ」


「はいはい、出しますよ」


 説明書きの横に『コイン投入口はこちら』という文章と、硬貨を入れる穴が開いている。僕が3人分の料金を入れると、入り口が薄く光り、どこからともなく声が聞えた。


「ようこそリバーサイド・ダンジョンへ。これから数々の冒険が待ち構えています、どうぞ中へお進み下さい」


「おう、全部、攻略してやるぜ」


 タカオがダンジョンに突っ込んで行くのだが……

 これは、なんだろう? ダンジョンというより、一種のアトラクションの施設のようだ。

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