遺跡とダンジョン 5
塔の上でテントを張り、一夜を過ごした。
塔の上は風通しが良く過ごしやすい。朝までぐっすりと眠れた。
朝日に照らされて、僕は目が覚める。かまどを使い、簡単な朝食を作っていると、匂いにつられてマクダさんが起きて来た。
「おいしそうな匂いだねぇ、何を作っているの?」
「チーズフォンデュという料理です。白ワインや牛乳にチーズを溶かして、それをパンに付けて食べます」
「おいしそう。食べるのが楽しみだね」
「そうだ、もうそろそろ出来上がるので、タカオを起こしてもらっても良いですか?」
「いいよぉ、任せて」
タカオの事はマクダさんに任せて、僕は料理に集中する。しばらくすると、遠くでガタガタと大きな音がして、遅れてマクダさんの「タカオくん、起きて~」という声が聞えた。けっこう荒っぽい起こし方のようだ……
「おっ、おはようユウリ」
タカオがボサボサの頭のまま起きて来た。
「さあ、みんなそろったし、早くご飯にしよう!」
マクダさんがニコニコと笑いながら言う。どうやら料理が早く食べたくて、無理やりタカオを引っ張ってきたようだ。
これ以上、マクダさん待たせても悪いだろう。
「では食事にしましょうか。焼いたパンをちぎって、チーズフォンデュにつけて食べて下さい」
「待ってましたぁ! ん~、見た目より、さらにおいしい」
マクダさんがパンを大きくちぎって、口にほおばる。こんなに美味しそうに食べてもらえると、早起きして作った
モソモソと寝ぼけながら食べていたタカオだったが、そのうち目が覚めてきたようだ。
「ユウリ、パンの間に溶けたチーズとベーコン、あとトマトとレタスを挟んでくれ」
「いいよ。こんな感じかな」
タカオが豪快にサンドイッチをかじる。バリッとレタスの噛みきる音が、周りに響いた。
「うん、美味い。チーズフォンデュだけだと、さすがに飽きてくるからな。こうするとサッパリと食べられる」
「お、おいしそう。私にもソレを作って」
マクダさんにお願いされて、2個目を作る。
「はい、分かりました。こんな感じでどうでしょう」
「ありがとぉ。うん、とってもおいしい。いやぁ、このクエスト受けて、本当によかったなぁ」
マクダさんが食べながらしみじみと言った。この人の食べている姿を見ていると、なんだか癒される。
「遺跡を探さないダンジョンに入れないしな。しかし、今日も川沿いを歩き回るのか……」
タカオがちょっとうんざりしながら言う。
そういえば、僕だけ『神託スクリーン』で遺跡の位置を知っている。かなり近かったハズなので、こんな提案をしてみる。
「そうだ。この塔の上から探してみない。もしかしたら見つかるかも?」
するとタカオはこう反論する。
「さすがに、そこまで都合よくいかないんじゃないか? 昨日、ずっと歩き詰めでも見つからなかったんだし……」
「それっぽい建物があったよ。アレじゃないかな?」
マクダさんが指さした先には、小さな遺跡があった。その距離は直線でおよそ300メートル。どうやら、思った以上に近くにあったようだ。
「よし、今すぐ出発だ!」
その気になったタカオが
「ちゃんと着替えてから出発しようね」
「おう、そうだな。
30分ほど時間をかけて
「見通しの悪い森の中では、太陽の位置で方向を知るんだ。遺跡の位置と、太陽の方向はバッチリ覚えた! 俺についてくれば直ぐに到着するぜ!」
すると、マクダさんが感心する。
「おー、頼もしいねぇ、じゃあ後をついて行こうか」
こうして、僕らはタカオの後を歩き出す。
300メートルといえば、舗装された道なら4~5分。歩きにくい森の道でも、10分も掛ければ到着するだろう。ただし、方角が間違っていなければ……
『神託スクリーン』で、僕は遺跡のある位置が分かる。歩き出しからタカオの方向はズレていて、そのズレはだんだん酷くなっていった。
タカオは『太陽の位置を覚えた』と言っていたのだが、もしかして、それは出発前の太陽の位置で、時間の経過で太陽が動いている事を考慮していないのかもしれない。
1時間ほど歩いていて、さすがにおかしいと、タカオが気がつく。
「もう到着して良いはずなんだが、おかしいな……」
マクダさんが、塔を指さして言う。
「あの塔から、もう1キロ以上は離れているよぉ。この距離はさすがに離れすぎなんじゃないかな」
「うーん、そうだな。しょうがない、一端、塔に戻りますか、マクダのあねご」
とりあえず僕らはスタート地点に戻ることになった。
塔は高く目印になるので、迷わずに20分くらい歩いて戻ってこれた。
再び頂上まで階段で上がり、遺跡の位置を確認する。
すると、タカオが気がついたようだ。
「あれ、太陽と遺跡の位置がズレている!」
僕が正解を言う。
「時間で太陽が動いてるの、計算してなかったでしょう」
「……まあ、そういう失敗もあるさ、次は大丈夫だ」
位置を
塔から降りたタカオは、一つの方向を指さして言う。
「コッチだ、この方向に進めば間違いがない!」
どうやら、方角を何となく覚えて、そちらの方向に進む作戦のようだ。
神託スクリーンで確認すると、おおよその方向は合っている。長距離なら間違いなくダメなやり方だが、短距離なので何とかなるかもしれない。
「じゃあ、行こうかぁ。再びしゅっぱつ~」
マクダさんの
タカオの指し示した方向に、出来るだけ一直線に進んでいると、目の前に川が現われた。
川幅はあまりなく、浅そうなのだが、水の勢いは意外とある。この川をみて、タカオが言う。
「これなら歩いて渡れそうだな。突っ切って行くか」
そのまま歩いて行こうとするタカオを、僕が止める。
「ちょっと待って、川が意外と深かったら危ないよ。僕の『城壁』の魔法で、橋を作って渡れば良いんじゃないかな」
すると、マクダさんが武器のロングメイスを川に突っ込んで言う。
「うーん。川の深さはだいたい30センチくらいかな? そこまでは深くないねぇ」
「じゃあ、このまま突っ切りましょう。お、おお、川底が
「タカオー!」「タカオく~ん!」
進み出したタカオが、足を取られて流された。
水深が30センチなので、完全に水に沈み、溺れるという事はなかったが、水に揉まれながら、タカオは50メートルほど流される。
50メートルほど先で、ようやくタカオが立ち上がる。
この辺りの川幅は広く、水の流れはゆっくりだ。
「大丈夫、タカオ?」
「ああ、水は大量に飲んだが、大丈夫だ。さて遺跡を目指そうか……」
そう言うと、タカオは
「どうしたの?」
「……川で揉まれているうちに、方向が分からなくなった」
僕が塔を指さして聞く。
「もう一度、塔に戻って場所を確認する?」
「……そうするか、やみくもに進むよりは早そうだ」
こうして僕らは再びスタート地点の塔に戻った。またやり直しだ。
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