遺跡とダンジョン 2

『遺跡とダンジョンの調査』というクエストを受けたいのだが、僕たちは冒険者レベルが足りないらしく、この依頼を受けられない。

 何か依頼を受ける方法がないかと、エノーラさんに聞いたところ、上位の冒険者に同伴どうはんしてもらえば、クエストに参加できるらしい。


「あそこに居る方が、C級冒険者のマクダさんです。彼女に同伴してもらうのはどうでしょう?」


 エノーラさんの指さした先には、大柄の女性がいた。筋肉質で、いかにも戦士といった体格だ。

 遠くからでよく分からないが、どうやら昼間からお酒を飲んでいるらしい。


 クエストを受けたいタカオは、彼女の元に走って行く。



「俺はタカオって者だが、一緒にダンジョンの調査をしないか?」


 タカオが強引に誘おうとすると、マクダさんがゆっくりと返事をする。


「いやぁ、そういった依頼は断るよ~。私は、危険は橋は渡らないようにしているんだ」


「あ~、ダメかぁ、エノーラさん、他に誰かC級以上の冒険者はいないかな? もちろん女性で」


 断られたタカオが振り返ってエノーラさんに聞く。


「C級以上の冒険者は他にも居ますが、女性で手が空いている冒険者となると、現状ではマクダさんくらいしか居ませんね。他の女性の冒険者の方は、別のクエストをこなしている最中です」



「……そんな、俺はダンジョンに行けないというのか」


 絶望したタカオが膝から崩れ落ちる。そこで、僕がこんな提案をしてみる。


「それなら、男性のC級以上の冒険者に声を掛けてみようよ。タカオが声を掛ければ、引き受けてくれると思うよ」


 タカオは異性に好まれるスキルを持っている。少し話せば、すぐにOKをしてくれるだろう。


「いや、ダメだ! 俺は男となんかパーティーを組みたくない! パーティーは美女だけで組みたいんだ!」


 タカオが力強く言い切った。

 ……うん、まあ、なんだろう、ダンジョンに行くよりも、パーティのメンバーの性別が大事らしい。



「えへへ~、ソレってもしかして、私を美人だと褒めていたりする?」


 マクダさんが照れながら言う。それを見て、タカオが何か思いついたようだ。


「ええ、そうです。美人だから冒険に誘ったんです。どうです、一緒にダンジョンに行きませんか、マクダのあねご。その立派な筋肉を、冒険に生かしてみましょうよ」


 急にタカオが下手に出た。どうやら褒めまくって、その気にさせるつもりらしい。



「ダンジョンに行かなくても筋肉は生かせるよ。土木工事とか、荷物の運搬とか。安全に稼げるなら、私はそっちの方が良いなぁ~」


 マクダさんは、再び否定をする。彼女なりの持論じろんをもっているみたいなので、説得するには手強てごわそうな相手だ。


「そこのウェイトレスさん、マクダのあねごと同じ酒をくれ。とことん飲みましょう」


 すぐに説得が無理そうだと分かると、タカオは長期戦の構えを見せる。



「ほら、ユウリもそこに座って。エノーラさんもいかがです?」


「いえ、そろそろ職務に戻らなければならないので、失礼します」


 エノーラさんはタカオのお誘いを断る。まあ、これからお酒を飲もうというお誘いなので、これは当然だろう。


「マクダのあねご、俺がおごりますぜ、どんどん行きましょう」


「本当におごってもらって良いの? いやぁ、悪いねぇ」


 マクダさんは、おごって貰えると聞いて、まんざらでもなさそうだ。

 しばらくすると、ウェイトレスさんがお酒を持ってきてくれた。



 運ばれてきたお酒は透明で、いつも飲んでいるエールとは全然違う。匂いを嗅いでみると、懐かしい香りがした。


「あれ? このお酒って……」


 僕がそう言いかけると、マクダさんが正解を教えてくれる。


「『ポン酒』ってヤツだねぇ。食の勇者、スドウさんの故郷こきょうの酒らしいよぉ」


 どうやら日本酒のようだ。食に関してスドウさんは何でも作っているみたいだ。



 タカオが運ばれてきた日本酒を、みんなのコップについた。


「おお『ポン酒』ね。じゃあ、飲みましょう。乾杯!」


 そう言って、タカオはコップの酒を飲み干した。


「いい飲みっぷりだねぇ、じゃあ私も」


 マクダさんも続いて飲み干した。日本酒はエールと比べると、アルコール度数がけっこうある。マクダさんは平気そうだが、タカオは大丈夫だろうか……



「それでぇ、ユウリのヤツがぁ、オッパイを触らせてくれないんですよぉ」


 しばらくすると、タカオがべろんべろんに酔っ払っている。


「私のオッパイだったら触っていいよぉ~」


 マクダさんは平気に見えるが、胸を触るのを許している所を見ると、酔っ払っているのだろうか?


「本当ですか、じゃあ触らせてもらいます。おおぅ、凄いはりと弾力だ。ところで、いっしょにダンジョンへ行きませんか?」


「ダメ、危ない所には行かない」



 ダンジョン行きを否定されて、タカオが泣き崩れた。


「うおおぉぉ…… そういえば、ポン酒とマッシュポテトって合わないですよね」


 酔っ払いらしく、脈絡みゃくらくの無い会話をする。控え目に飲んでいて、あまり酔っていない僕が、適当に返事をする。


「そうだね。マッシュポテトには、エールは合うけど、ポン酒にはあんまり合わないかもね」


「思い出した! ユウリ、前に作った『ぶり大根』が残っていたよな。あれを出してくれよ」


「いいよ。はい」



 僕がぶり大根を出すと、タカオは美味しそうに食べ始めた。


「ああ、ポン酒には、やっぱりコレだな。マクダのあねごもどうです?」


「ではお言葉に甘えて、少しもらうよ…… 何これ! すごいポン酒に合う! すごい美味しい!」


 マクダさんは目を見開いて、ぶり大根と日本酒を交互にあおる。レストランでは洋食しか出てこない。日本酒にあうのは、やはり和食だろう。



「これ、いいなぁ、今度、作り方を教えてよ」


「良いですよ。材料があれば簡単にできますよ」


 マクダさんと僕が、そんな会話をしていたら、横からタカオが割り込んで来た。


「マクダのあねご、いっしょにダンジョンに生きましょうよ。パーティーを組んでいる間は、ユウリが飯を作ってくれます。毎日、ごちそうが出てきますよ」


「ダンジョンは危ないけど、毎日、こんな凄いごちそうかぁ……」



 マクダさんの心が揺れ始めた。酔っ払っていても、タカオはそこを見逃さない。


「ユウリ、アレを出してくれ。少し前に作った、ジャッカロープの照り焼き」


「いいけど、はい」


 僕が倉庫魔法から出すと、マクダさんが料理に飛びついた。


「ん! これもすごく美味しい! ……そうだね、ダンジョンの入り口くらいだったら付き合ってもいいよ」


「やったぁ、今すぐ行こうぜ」


 そう言って、タカオはふらふらと千鳥足ちどりあしでどこかに向おうとする。


「はいはい。分かったから、出発は明日にしよう。マクダさんもそれで良いですか?」


「私はそれで良いよ。ところで、他の料理ってまだあるの?」


 この後、僕がいくつか料理を出すと、マクダさんは美味しそうに全てを平らげる。

 こうして、僕たちのダンジョン調査のクエストが決まった。しかし、なかなか折れなかったマクダさんが、僕の料理を食べただけで、主張しゅちょうを変えるとは意外だった。

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