遺跡とダンジョン 3

 マクダさんを僕の料理で口説くどき落として、『遺跡とダンジョンの調査』のクエストを受注した。

 話がまとまったのは昼過ぎだったが、タカオが既にベロンベロンに酔っ払っている事もあり、出発は翌日となった。僕はスーパーマーケットなどを巡って、食料を買いあさり、遠征にそなえておく。



 翌朝、僕らはギルドのレストランで合流する。朝食を食べ終わると、エノーラさんにクエストの詳細を聞きに行く。


「『遺跡とダンジョンの調査』の件ですね。この街から歩いて半日ほど先にある、西北の森の中で見つかりました。ワイルドボアを追っていた狩人が、偶然ぐうぜん見つけたらしいです。遺跡はおよそ2階建ての建物で、あまり大きくはないようですね」


 エノーラさんはそう言って、地図で場所を示してくれる。地図には丸で囲われた場所があり、遺跡の位置がなんとなくわかるようになっている。



 ただ、地図上の丸の範囲がけっこう広い。僕がエノーラさんに確認してみる。


「捜索するエリアが意外と広いですね」


「ええ、ロルンダ川という川沿かわぞいに有ったらしいのですが、当日は霧がでていて、あまりハッキリとした位置は分からないそうです。今回はダンジョンの調査というより、遺跡の場所の調査といった意味合いの方が強いですね」


 すると、タカオが胸を張って答える。


「大丈夫です。俺たちなら直ぐに見つけて、ダンジョンの攻略も簡単にやっちゃいますよ」


「心強いですが、くれぐれも無理をしないでください。それではお気を付けて」


「じゃあ行こうか、行こうぜユウリとマクダのあねご」


 タカオがエノーラさんに力強く言い切って、いよいよ冒険に出発しようとしたのだが……



 出発する前に、宿屋の部屋に戻って荷物を取ってくる。マクダさんもギルドの宿に泊まっているようなので、自分の部屋に戻って荷物も持ってきたのだが、その格好は、棍棒こんぼうに革の服という、ありえないほど軽装だった。僕が思わず確認をする。


「すいませんマクダさん、装備はそれだけですか?」


「うん、そうだよぉ。毛布も持ったし、野宿のじゅくもバッチリだよぉ」


「いや、さすがにそれだと無理だと思います。ロジャーさんのお店に行って、装備を買いましょう」


「でも、お金がないし……」


「僕がとりあえず立て替えておきます。後で経費として、クエストの成功報酬から引いておきますので、必要な道具は揃えておきましょう。武器は僕が予備を持っているので、それを渡します」


「あっ、うん、それならOKだね。じゃあお店に行こうかぁ」


 こうしてロジャーさんのお店に寄ってから、冒険に出かける。

 マクダさんは、本当にほとんど道具を持っておらず、ほとんど全てを購入する事となった。

 この人は冒険者として、大丈夫なのだろうか。この先、少し不安になってきた……



 準備が終わると、いよいよ出発だ。初めは大きな街道を歩いて行く。


「マクダのあねごは『カレー』を食べた事はありますか?」


「雨の日にレストランで作ってるヤツだよねぇ。気にはなっているんだけど、食べた事は無いんだよねぇ」


「あれ、ユウリが作ってるんですよ。野営やえいになったら、作ってもらえますよ」


「本当に? いやあ、食事が楽しみだなぁ」


 タカオとマクダさんが話をしながら、ロルンダ川に掛かった橋を渡り、通り過ぎようとした。目的の川なので、僕は慌てて止めに入る。


「タカオ! マクダさん! ここが目的の川です! 通り過ぎないでください!」


「おっ、もうそんな所まで来てたのか」


「本当にありがとね。通り過ぎちゃう所だったよぉ」


 のんきに返事をするタカオとマクダさん。この2人は、危険な冒険に出かけているという自覚が無さそうだ。これは、いつも以上に僕がしっかりしないとダメかもしれない。



 大きな街道とは別に、ロルンダ川に沿って小道が伸びている。僕らはその小さな道を、上流へと歩き始めた。

 森の中なのだが、ダンジョン攻略が楽しみなタカオは足取りが軽い。上機嫌じょうきげんで、僕に向って言う。


「遺跡って川沿いにあるんだろ。これならすぐにたどり着けそうだな」


「いや、大変だと思うよ。捜索するエリアは、けっこう広そうだし」


「なんでだ? 川に沿ってあるけば良いだけなんだから、迷う訳がないじゃん」


「そう上手く行かないよ。ほら」


 僕が進行方向を指さす、そこは、川が左右、二つに分かれていた。



 行き先の分からないタカオは、マクダさんに聞く。


「……どっちが正解だろ? マクダのあねご、どっちが良いと思います?」


「うーん、どっちだろうねぇ?」


「俺が決めても良いですか?」


「いいよぉ、どっちを選んでも着いていくから」


「じゃあ…… 右に行きましょう」


 タカオはそこら辺に落ちていた棒を倒して、進む方向を決める。かなりいい加減な決め方だ。



 しばらく行くと、また二つに別れていた。ここでもタカオが棒を倒して、適当に行き先を決める。


「ええと、今度は左に行きましょう」


 さらに進んで行くと、またまた別れる。


「今度は…… 右で」


 少し進むと、湧き水の出ている池に出た。ここが支流の源流点げんりゅうてんらしく、これ以上、さかのぼる事はできない。



 僕がタカオに残念なお知らせをする。


「遺跡は無かったね。他の支流沿いにあるんだろう、戻ろうか」


「ここまで来たのに…… まあ、しょうがないか、戻って別の支流を探そう」


 戻って、進んでは行き止まり。また別の支流を進んで行き、やはり行き止まり。そんな事をくりかえしていると、日が暮れてきた。準備はしてきているので、今日はここでキャンプをする。

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