配達クエスト 13

 僕がチーズフォンデュを作って、村人たちに振る舞った。

 この料理は、かなり美味しかったらしく、みんな腹いっぱいになるまで食べ続けた。

 ゲップを連発する人、ちょっと苦しそうにベルトを緩める人、大の字に寝転がってしまう人。どうやらみんな食べ過ぎたらしい。


 この村の村長さんが、僕に言う。


「まさかこんな美味しい料理があるとは。しかも作り方が簡単ですね。あなたさえ良ければ、この料理を村の名物にしてもよろしいでしょうか?」


「ええ、良いと思いますよ。材料さえあれば誰でも出来ると思いますし」


「おっ、そうでした。メインの食材のチーズを入手しなければ。いったい、どこで買えば良いんでしょうか?」


「このチーズは、近くにあるジェフリーさんの農場で作られた物です。ジェフリーさん本人は、そこに居ますよ」



 僕は近くに居たジェフリーさんを紹介すると、さっそく村長さんとジェフリーさんの交渉が始まった。


「いやはや、あんなに美味しいチーズがあるとは思いませんでした。是非ぜひ、定期的に購入したいのですが……」


「うーん。そうじゃな。うちのチーズは人気商品じゃからな。20キロの塊で銀貨60枚はするぞ」


 たしか、僕らに売ってくれた時は、銀貨40枚だったはず、値段を少し上げている。それに、あまり売れないと言っていた気がしたのだが……



 値段を聞いて、村長さんが軽く計算をし始める。


「うーむ。一人前あたり200gを使ったとしても、20キロで100人前。銀貨60枚を100で割ると、銀貨0.6枚。つまり銅貨6枚か。この料理は、ユグラシドル級といっても差し支えがない。充分に採算が取れますな、契約させて頂きたい」


「では、これからよろしくお願いする」


 ジェフリーさんと村長さんが硬く握手をした。どうやら定期購入の取引先が増えたらしい。ジェフリーさんはこれからチーズ作りが忙しくなりそうだ。



 僕は改めてジェフリーさんに別れの挨拶をする。


「お世話になりました。チーズが無くなったら、また売ってください」


「特別価格で売ってやるから、いつでも来なさい」


「あっ、そうだ。これ、チーズフォンデュのレシピです。良ければ作ってみてください」


「ああ、婆さまに作ってもらうとしよう。それじゃあのう」


 僕は手を振って、ジェフリーさんと別れた。



 さて、食事が終わったので、後は風呂に入って寝るだけだ。僕は、石の床の上で、大の字になっているタカオを起こす。


「ほら、そんな所に寝転んでいないで、お風呂に入ろう」


「うっぷ、食べ過ぎたな。今日は風呂に入るのが面倒だ、『浄化』の魔法で綺麗にしてくれ」


 面倒くさがって、風呂に入りたくないみたいだ。そこで僕はこんな事を言う。


「村の公衆浴場だから、もしかすると若い女の人が居るかもよ?」


「……風呂に行くぞ、ユウリ。もたもたするなよ!」


 タカオに引っ張られるようにして、僕はお風呂場へと行く。



 服を脱ぎ、洗い場で体を洗うと、湯船に浸かる。少しぬるめのお湯でくつろいでいると、タカオに邪魔じゃまをされた。


「ユウリ、若い女性なんていないじゃないか。お婆さんしかいないぞ……」


「うーん。まあ、時間帯が悪かったんじゃないかな? 今度、チーズを買いに来たときにまた入ろうよ。その時には会えるかも」


「……そうだ! 2~3日、この村に泊まって行かないか? そうすれば会えるだろ?」


「ダメだよ。帰りが遅くなると、ギルドの受付員のエノーラさんが心配するよ」


「くぅ、エノーラさんを心配させる訳には行かないな。しょうがない、予定通りに帰るか」


 この後、タカオはあれこれ言いながら、入浴を楽しんでいた。元は日本人なので、やっぱり風呂は好きみたいだ。



 入浴が終り、外にでると、バーベキュー場に人が集まっていた。


「何かあったのかな?」


 僕が近くに寄ると、村人から、こんな事を聞かれる。


「あんたが料理で使った『火柱ファイヤーピラー』が、まだ消えねえんだけど?」


「あれ、まだ消えてませんか? 今、消しますね?」


 僕がそう言うと、慌てて止められる。


「いや、よければ消えるまで使って良いかな? 風呂場のお湯を沸かすのに使いてぇんだ」


「良いですよ。お風呂に使うなら、もう少し増やした方がよさそうですね。永続的えいぞくてきな火種よ現われよ『火柱ファイヤーピラー』」


 僕は『火柱』を、さらに3つほど増やした。


「ありがとな。では使わせてもらうな」


 前に作った『火柱』は、およそ3時間はもっているので、これでお風呂に使う間は持つだろう。



 この後、居住馬車を倉庫魔法から取り出し、眠りにつく。

 今日は馬で送ってもらったので、自分では歩いていないのだが、それでも疲れていたらしく、気づけばぐっすりと眠っていた。



 翌朝、窓から光が入って来て、目が覚める。


 顔を洗いに外に行くと、バーベキュー場の『火柱』がまだ燃えていた。

 もったいないので、この火を使い、タカオが起きてくるまで料理をする。



 この村でもらったタマネギを、倉庫魔法から取り出す。

 タマネギに火を通し、飴色あめいろになったら、お湯を注ぐ。

 街のスーパーで買ったコンソメを入れて、パンとチーズを入れ、さらに火に掛ける。


 しばらくすると、簡易的なオニオングラタンスープが出来上がった。

 本当は、オーブンで温めた方が良いのだが、朝食なので、多少は手を抜かせてもらう。



 朝食の準備が出来ると、タカオを起こしに行く。


「朝ご飯だよ、オニオングラタンスープが出来たよ」


「うーん、オニオングラタンスープかぁ、ユウリ、おかわり」


 寝ぼけているのか、まだ食べていないのに、おかわりを要求してきた。


「ほら、起きて。食べてから出かけるよ」


 半分、寝ているタカオを、テーブルに着かせて、食事が始まる。



 タカオは食べているうちに、やっと目が覚めてきたようだ。


「ユウリ、オニオングラタンスープ、美味いな。旨みがパンに染みこんでいる。そうそう、今日の予定はどうなってるんだ?」


「今日は30キロほど歩いて、街に着く予定だよ」


「30キロかぁ…… そんな距離を一日で歩けるかな?」


「15キロ先に村があるから、そこで休憩をしようか」


「ああ、その村は、来る時にマヨネーズを教えた村だよな。たしか、タマゴがよく取れるんだっけ?」


「うん、新鮮なタマゴがいつでも取れるから、マヨネーズの材料には困らないはずだね」


「タマゴとチーズか…… そうだ昼にはカルボナーラが食いたいな」


「まだ朝食の途中だけど、もう昼食の話? 気が早くない?」


「良いじゃないか、気が早くたって。食べ終わったら出かけようぜ」



 朝食を食べ終わると、さっそく出発する。


 この日は計画通りに予定が進み、無事に街に帰る事が出来た。

 途中の村で、カルボナーラを作って、周りの人に試食させたら、美味すぎて騒ぎになったのは予定外だったけど。

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