配達クエスト 12

 僕らはジェフリーさんの馬に乗り、キャンプ場のある村までやってきた。

 牧場へ行くときは20キロほどの道のりだったが、帰りは僕が『城壁』の魔法で橋をかけ、いくつか近道を作ってきたので、18キロほどに縮まった気がする。


 城壁をくぐり抜け、キャンプ場に入ると、人が集まってお祭りのようになっていた。この村のキャンプ場には、僕が作った公衆浴場があるのだが、どうやらそこに集まっているらしい。



 ジェフリーお爺さんが、キャンプ場を囲っている城壁と、公衆浴場の建物を見て驚く。


「なんじゃこりゃあ。いつの間に、こんな立派な施設を作ったんじゃぁ……」


「あっ、僕がおとといの夜に作りました」


「……うん、まあ、そうじゃな。お前さんなら簡単に作れるの。ここに来るまでに、いくつも大きな橋を作ってしまったのじゃから」


 ジェフリーさんに、なかばあきれたように言われてしまった。そういえば、ここに来るまでの間に、なんとなく50メートルくらいの石の橋を架けてしまったのだが、あれはやり過ぎだったのかもしれない……



 キャンプ場の入り口で、ジェフリーさんと別れの挨拶をする。


「馬で送ってもらって、助かりました。ありがとうございます」


「なになに、色々と助けてもらったからのう。こんな事でしかお礼できんのが、申し訳ないわい」


 するとタカオが横から口をはさむ。


「気にすんなって。チーズがなくなったら、また買いにいくから、その時はよろしくな」


「ああ、いくらでも売ってやるわい」


 にこやかに立ち話をしていると、この村のお爺さんに見つかってしまった。



「おお、ユウリさまが来て下さった。さあ、こちらへどうぞ」


 僕は村のお爺さんに引っ張られて、広場の中央に連れてこられた。そして、こんな紹介される。


「村のみんな、聞いてくれ。この人がユウリさまじゃ。公衆浴場を建設してくれた人じゃよ」


「いや、建設という程の物では……」


「おお、この人が」「酒じゃ、祝いの酒を持ってくるんじゃ」


 僕がやんわりと否定しようとすると、周りの喧騒けんそうにかき消された。何だか知らないけど、異様に盛り上がっている。



 やがて、ちょっと身なりの良いお爺さんが出てきた。


「どうも、村長です。こんな立派な公衆浴場とキャンプ場を作って頂き、ありがとうございます。何も無い村でしたが、これで村おこしができます」


 それを聞いて、タカオがこんな事を言う。


「村おこしで何をやるんだ? 風呂だけじゃ人は来ないぜ。せめて美味い料理でもないと」


「料理ならありますよ。村の自慢の野菜のバーベキューをどうぞ」


 ここはキャンプ場だ、近くで野菜を焼いていた村人が、串に刺した野菜を持ってきてくれた。



 串には、タマネギ、トウモロコシ、カボチャやサツマイモなどが刺さっていた。僕は差し出された野菜を食べてみる。味付けは、軽く塩をふっただけの物のようだが、みずみずしく、かなり甘みがある。これは美味しい。

 タカオはこの串を食べて、こんな意見を言う。


「確かに野菜が美味いが、どこにでもある味付けだと、名物料理にはならないだろう。そうだな…… ユウリ、俺はこの野菜を『チーズフォンデュ』で食べてみたい」


「あっ、うん、そうだね。作ってみるね」



 作ってみると言ったものの、『チーズフォンデュ』の作り方が分からない。

 神器の鍋、エルビルト・シオールを出して、作り方を聞いてみる。

 ちなみにエルビルト・シオールの声は、僕にしか聞えないらしいので、だれもこの鍋が喋るとは思わないだろう。



 僕がかなり小声で話しかける。


「ええと、『チーズフォンデュ』を作りたいんだけど、材料は何が必要かな」


マイ我がロード主よ。『チーズフォンデュ』はチーズと白ワインか牛乳、少量のかたくり粉があればできます」


「うん、大丈夫。それなら持っているよ」


「白ワインと牛乳はどちらにしますか? 白ワインで作るのが基本ですが、子供がいる場合は、牛乳の方が良いと思います」


「白ワインで良いかな。子供は居ないみたいだし」


「場合によっては、風味付けにニンニクなどをもちいる場合もありますが、どうします?」


「今回はニンニクを使わないで、シンプルな物を作ってみようと思う。」


「分かりました。それでは料理に掛かりましょう。まず白ワインを温めます」



 鍋に白ワインをそそぎ、バーベキューの場所に行き、火に掛けようとしたときだ。エルビルト・シオールから、こんな事を言われる。


「マイ・ロードは『火柱ファイヤーピラー』の呪文を新しく習得しましたよね。呪文を使った方が、火力の調整が効くので、呪文を使うのをオススメします」


「そうなんだ。ええと、永続的えいぞくてきな火種よ現われよ『火柱ファイヤーピラー』」


 呪文を唱えると、かなり小さめの火柱ひばしらが現われた。大きさは10センチそこそこで、ソフトボールくらいだろうか。小さいけれど、炎はガスを使った火のように安定していて、火力は充分にありそうだ。僕はこの炎を使って、料理を始める。



 ワインを温めているうちに、チーズを細かく刻み、溶けやすくする。

 刻み終わると、刻んだチーズに、かたくり粉をまぶしておく。

 ワインが充分に温まったら、少しずつチーズを鍋に溶かしていき、塩とコショウで味を整えれば完成だ。意外と簡単に出来上がった。



「チーズフォンデュ、いただき!」


 チーズフォンデュが出来ると同時に、タカオがもっているバーベキューの串を鍋に突っ込む。突っ込んだまま、串をクルクルと回し、チーズを絡め取ると、そのまま口にいれた。


「あつっ、でも、うまぁ。これなら名物料理になるんじゃないか」


 そう言われて、僕も食べてみる。チーズと野菜との相性も良いし、これは美味しい。もしかすると、これなら人がやってくるかもしれない。



 僕らが味を確認していると、村のお爺さんや、村長さんたちが、うらやましそうに見ていた。


「ええと、村のみなさんも、味を確認してみます?」


「はい」「待ってました!」「いただきます!」


 僕が試食をすすめると、鍋の周りに人が押し寄せる。そしてみんなで食べ始めると、チーズフォンデュが瞬く間に減っていった。僕は慌てて補充を作り始める。



 ……2時間後、7回ほどチーズフォンデュを補充をして、村人たちはようやく落ち着いた。

 気がつけば、20キロのチーズの塊が、3分の1ほど無くなっている。大量に買ったチーズは、意外と早く無くなってしまうかもしれない。

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