配達クエスト 11

 出発しようと、ジェフリーさんの家を出てみると、目の前の草がぼうぼうに伸びていた。

 目印の杭があるので、僕が『ヒール』や『キュアー』をかけた場所だろう。

 伸びた草の周りには、牛たちがあつまり、草を美味しそうにんでいる。


 タカオが周りを見て言う。


「やっぱり『ヒール』と『キュアー』の魔法は効果があったみたいだな」


「そうだね。人間と違って時間が掛かるみたいだけど」


「伸びた草にさらに『ヒール』を掛けると、もっと伸びるのかな、試してみようぜ」


「うん、じゃあやってみるね。牧草の傷を治せ『回復の息吹ヒール』」



 おそらく、少し時間が必要だろう。そう思いながら草の様子を眺めていると、牛にバクっと食べられた。


「あっ、食べられちゃった。これ以上、伸びるかどうか分からなかったけど、もういいよね?」


 僕があきらめようとすると、タカオがこう言った。


「いや、もう一度、試してみようぜ。もしかしたら食べられた部分も、ヒールで回復できるんじゃないかな?」


「分かった、やってみるね『回復の息吹ヒール』」


 牧草に掛けると、食べられた草がちょっとずつ元に戻って行く。そのまま伸びていくより、失われた部分を回復させる時の方がスピードが速そうだ。



「回復するのが分かったね。じゃあ帰ろうか」


 結果が分かったので、引き上げようとするのだが、タカオがそれを引き留める。


「ほら、治したそばから牛に食われていくぞ! ヒールを掛け続けるんだ、負けるなユウリ!」


「えっ、あっ、うん『回復の息吹ヒール』『回復の息吹ヒール』」


 タカオに言われるがままに、僕は回復を連続で打ち込む。すると、草が次々と回復していく。無限に供給される餌につられて、牛たちがさらに集まって来た。



「『回復の息吹ヒール』『回復の息吹ヒール』『回復の息吹ヒール』」


 何度となくヒールを繰り返しているうちに、僕はコツみたいな物をつかんできた。始めは、たべられた部分がゆっくりと戻っていくだけだったが、だんだんと早く治せるようになっていき、後半では瞬時に食べられる前に復活できるようになった。


 この光景を見ていた、ジェフリーお爺さんが、僕らに向って声をかける。


「ほら、遊んでいないで、そろそろ行くぞ。帰るんじゃろ」


「はい、今、行きます」


 遊んでいた訳ではないのだけど……

 僕はヒールをかけるのを中断して、ジェフリーさんの後をついていく。牛たちは充分に食べて満足したのか、食事をやめてくつろぎはじめた。



 ジェフリーさんは3頭の馬を用意してくれた。僕がおとなしい馬に乗せられて、その引き綱をジェフリーさんが握る。タカオは『乗馬』のスキルを持っているので、普通にまたがった。


「じゃあ、行くぜ、遅れずについてこいよ」


 そう言って、タカオは先頭を進む。乗馬をしているタカオは、いつも以上に格好いい。やはり僕もスキルを取得しておくべきだった。



 カッポカッポと、ゆっくりと歩きながら、僕はジェフリーさんと話をする。


「チーズがとてもおいしかったです。あんな量を一度に買ってしまって、大丈夫でしたか?」


「ああ、構わんよ。その気になれば、一日、1個は作れるからのう。まあ、そんなにたくさん作っても売り切れないがの」


「ひとつの塊で、20キロですからね」


「一ヶ月当りに売れるのは、5~6個といったところじゃな。重いから街へ運ぶのもひと苦労じゃよ。道も悪いしのう」



 何気ない会話をしながら進んでいくと、少し先でタカオが立ち尽くしていた。


「どうして止まっているの?」


「これを見てくれよ。橋がながされてる」


 幅が3メートルくらいの小さな川がある。来る時には、丸太を数本並べただけの簡単な橋があったのだが、それが壊れて、丸太が散らかっている。連日の雨で水かさが上がり、流されてしまったようだ。



 ジェフリーさんが、この様子を見て言う。


「ここの橋は、たまに流されるんじゃよ。丸太を掛けるだけじゃがら、すぐに直せる。少し手伝っておくれ」


 それを聞いて、タカオがこう言った。


力仕事ちからしごとは面倒だな。ユウリ、魔法で直せないかな?」


「ええと『修復』の魔法かな? あれはどうだろ、傷ぐらいなら直せるけど、これは無理だと思うよ」


 僕がそう答えると、タカオがこんな事を言い出す。


「いや違う。『城壁じょうへき』の魔法で、新しく石の橋を作るんだ。小屋くらいの大きさの石をイジれるんだ、このくらいの川幅かわはばの橋だったら作れるだろ」


「分かった、とりあえず試してみるね。アーチ状の大きな橋よ現われろ『城壁』」


 僕が形をイメージして呪文を唱えると、その通りの石の橋が現われた。ただ、大きさが想像よりかなりデカい。長さ30メートルで、幅は8メートルくらいはありそうだ。幅が3メートルの川に掛けるにはもったいない気もするが、これで二度と流される事はないだろう。



 ジェフリーさんが、半分、あきれたように言う。


「はえ~、こんな大きな物を一瞬で作るなんて、お前さんは大魔道士だいまどうしじゃな」


「いえいえ、普通の冒険者ですよ。先を急ぎましょう」


 僕らはいくつかの石橋に作りながら、ふもとのキャンプ場のある村へとたどり着いた。

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