配達クエスト 4

 マヨネーズの作り方を、実演しながら教えたので、大量のマヨネーズが出来上がった。サンドイッチだけでは飽きると思ったので、僕はマヨネーズを使った簡単な料理を教える。

『ポテトサラダ』『海老のマヨネーズ炒め』『キャベツとトマトと卵のマヨネーズ炒め』。


 レストランの常連客に、試食を振る舞うと、みんな「美味い、美味い」と、想像以上に喜んで食べてくれた。



 料理をしていると、時刻は午後の3時近くになっていた。この村は、昼食を食べに寄った村で、今日の目的地のキャンプ場のある村までは、まだ15キロほど移動しなければならない。

 徒歩だとそれなりに時間が掛るので、あわてて出発をしようとする。


「タカオ、料理をしていたら、時間がかなり過ぎちゃってる。急いで出発しないと」


「おお、そうだな。雨の中をまた歩かないと…… じゃあ、おばちゃん、食事のお会計をお願い」


 レストランのおばちゃんは、否定するように手を左右ひ振り、笑顔でこんな事を言う。


「お代は要らないよ。こんなレシピを教えてもらって。むしろこっちが代金を払わなきゃいけないくらいさ…… おっ、そうだ。アンドレ、あんたのとこの荷馬車で送ってやんなよ」



 すると、中年のおじさんが返事をする。


「おう、うちのボロ馬車でよければ送っていくぞ。こんな美味い物を食わせてくれたからな」


「料理くらいで、そこまでしてもらっては悪いです」


 僕が断ろうとすると、タカオがこんな提案をする。


「いや、送ってもらおうぜ。ただし、無料だとさすがに悪いから、お金を少し払おう」


なるほど、タクシーみたいに料金を払うのは悪くないアイデアだ。ただ、馬車で移動する相場が分からない。



 お金の提案をすると、アンドレさんが否定する。


「実はうちは卵の販売をやっているんだ。これから儲かりそうな予感がするから、気にせず無料で乗っていけ」


「じゃあ、まあ、乗せてもらおうか。行こうぜユウリ」


「えっ、あ、うん」


 僕はタカオに引っ張られるようにして、荷馬車に乗せられた。



 雨の中を、ゆっくりと荷馬車が進んで行く。

 荷馬車には、テントのような簡単な屋根が取り付けてあって、なかなか快適だ。


 荷台で揺られながらタカオが、これまでの冒険の話を、誇張こちょうしながら話し始める。

 話の内容は、ほとんどジャッカロープとの戦闘だったが、楽しそうに話すタカオにあてられて、自然とアンドレさんも笑顔になる。楽しい時間は、あっという間に過ぎていき、キャンプ場のある村に到着した。


 タカオと僕がアンドレさんにお礼を言う。


「助かったぜ」


「ありがとうございます」


「いいって、これはお土産だ。持っていきな」


 そう言って、アンドレさんは荷台に積んであった卵を渡してくれた。その数は2ダースはあるだろうか。


「そんなにもらっては悪いです」


「いいから遠慮せずにもっていけ」


 なおも断ろうとする僕の横から、タカオが卵を受け取ってしまう。


「せっかくだからもらっておこうぜ。ありがとうアンドレさん」


「ああ、冒険の帰りにでも、また寄ってくれ。村で待ってるぜ」


 手を振ってアンドレさんと別れる。

 この村まで荷馬車でおよそ2時間。時刻は夕方の5時くらいだ。


 村についた僕たちは、キャンプ場を探す。パッと見た限りだと、どこにあるか分からない。

 辺りを見渡すと、家の屋根付きのテラス席で、のんびりとお茶を飲んでいるお爺さんの姿があった。僕らは近寄って場所を聞いてみる。


「すいません。この村にキャンプ場があると聞いて来たんですが、どこにあるんですか?」


「お客さんかね。ちょっと待っておれ、今、出かける用意をするからの」


 お爺さんは家に入ると、しばらくして雨合羽あまがっぱ姿で出てきた。


「こっちじゃ、ついてきなされ」


 僕らはお爺さんの後をついて歩き始めた。



 歩きながら、お爺さんが説明をしてくれる。


「こんな雨の時期にお客さんがくるとはの、この時期はキャンプ場を使う者はおらんから、どうなっているかわからんぞ」


 タカオがこんな質問をする。


「もしかして、川のそばのキャンプ場で、濁流だくりゅうで酷いありさまになってるとか?」


「いや、そんな危険な場所にではないのじゃが、土地が低いから水たまりが出来やすいのじゃ」


「まあ、水たまりくらいなら平気かな。俺たちは居住馬車を持ってるし」


「それなら平気じゃろ。ほれ、そこがキャンプ場じゃ」


 お爺さんの指さした場所は、サッカー場くらいはありそうな、巨大な水たまりだった。僕たちは、この場所に泊まるのだろうか?

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