人狼の嫁探し 2

 人狼じんろうに関して、警告をする紙が貼られてから2日経った。

 あの日から天気が悪く、狩りにはあまり出かけられていない。この二日間で狩れたジャッカロープは、わずか2匹だ。

 狩りが成功していないので、冒険者としての収入は、ほとんど入ってこない。ただ、僕の方はギルドのレストランで、料理を作って売っているので収入はある。



 午前中の狩りを終えて、天気が悪いのでギルドに戻ってくる。すると、僕とタカオに仕事の依頼が舞い込んだらしい、ギルドの受付員のエノーラさんが僕らに話しかけてきた。


「お二人の名前で依頼がきましたよ」


 直接の依頼が来たので、タカオが嬉しそうに質問をする。


「そっかー、俺たちも有名になったんだな。それでどんな危険な依頼なんだ? ダンジョンの探索か? 危険なモンスターの討伐か?」


「いえ、家の雑用ですね。掃除と料理を作って欲しいとか」


「雑用かぁ……」


 あきらかにやる気を無くしているタカオに、エノーラさんはこう言った。


「でも、報酬が良いですよ。銀貨15枚で、この手の雑用としては、かなり破格の高値です」



 この所、狩りの成果ががあまりよく無い。ここは、ちゃんとしたクエストを引き受けた方が良いだろう。


「その仕事を受けますよ」


「そうですか。この依頼なんですが、できれば早い方が良いらしいです。今日の夕方とかでも出来ますか?」


「はい、大丈夫です」


「では、そのように連絡をして置きますね」


 エノーラさんは、紙にサラサラと文字を書き、それを魔法道具にかけて、転送をする。これは、現代社会だと電報やファックスのようなものだろう。



 ギルドの中でしばらく待っていると、早くも返事が来たようだ。エノーラさんが小走りに近寄ってきた。


「ユウリさん、タカオさん、こちらへ向って下さい。あと、作る食事はカレーが良いらしいです、食材を買ってから出発して下さい。。食材の費用は、後で経費で落ちるので、多めに買って行って下さい」


「わかりました。それでは出かけてきますね」


 僕は紙を受け取り、市場で材料を仕入れてから、書かれた地図の場所へと向う。



 地図の場所は、街からかなり離れた場所だった。森と川の間に、小さな小屋がある。


「ずいぶんとボロい小屋だな。こんにちは、ギルドの依頼で来ました」


 タカオがドンドンと大きな音でノックをすると、中から若い男性が何人か出てきた。


「うーむ。お前らがユウリとタカオという冒険者か。まずは、掃除をしてくれ。その後に飯だ」


 そう言って中に通される。



 部屋の中では、若い男性がたくさんいた。ぱっと見で10人近くいる。この狭い小屋には不釣ふつり合いなほど多い。男達は部屋の中でうろうろと歩き回り、落ち着きがない。ちょっと異様な光景だ。


 これを見て、タカオは言う。


「これからパーティーでも始めるのか? 俺たちは料理のケータリングサービスに呼び出されたってわけだな」


 それを聞いた一人が返事をする。


「あっ…… まあ、そんな感じだな。『カレー』とかいう未知の料理を食べてみたかったんだ」


 なるほど、そういう理由なのか。


「それでは、まずは掃除をしますね。この部屋、全てを浄化したまえ『領域洗浄』。さて、掃除が終わったので料理にかかりたいと思います」


「……おっ、おう」


 僕が一瞬で清掃を終えると、男性陣は驚いていた。洗浄の魔法は、一般的だと思ったのだけれど、もしかして見慣れていないのだろうか?



 この小屋にはキッチンが外にあった。現代社会では考えられない事だが、この世界では火事を恐れて、意外とこういう作りの家も多い。僕はここにも『領域洗浄』の魔法をかけて、綺麗にしてから、料理の作業に取りかかる。


 僕は『料理』のスキルをつけてから、手際がすごく良くなった。カレーの食材の下ごしらえをしながら米を研ぎ、ご飯を炊く。ご飯が出来上がる頃には、食材の下ごしらえが終わっているので、すぐにカレーの調理に入る。



 そして、2時間くらい掛かっただろか。辺りが暗くなって来た頃に、カレーとご飯が出来上がった。カレー独特の匂いが広がると、周りが騒ぎ始める。


「この匂い、大丈夫か?」


「食べられるのか、これ?」


 不安な声が広がるなかで、一人が力強く説得をする。


「これがとんでもなく美味いんだって、お前らも一度、食べてみろよ」


 おそらく、この一人がギルドのレストランで食べて、僕に依頼を出したのだろう。このやり取りを聞きながら、タカオが大きな声で言う。


「まあ、騙されたと思って食べてみろよ。これは本当に美味いから」


「はい」「そうだな」「あの人が言うなら、そうしよう」


 タカオの異性に対して好感度を上げるスキルのせいだろうか。それまでざわついていた男性陣が大人しくなった。配膳はいぜんをしているタカオから、カレーを受け取りテーブルに着く。



「もう我慢できない、いただきます。おっ、やっぱり美味いな」


 1人が食べ出すと、他の人も食べ始めた。


「おっ、なんだこれ、うめぇ」「見た目は最悪だが、味は最高だ!」


 やがて食事が始まると、絶賛する声があがり、おかわりをする人が出てきた。僕は何度となくお代わりをよそい、男性陣の腹を満たしていく。



 1人あたり、3杯くらいは食べたのだろうか。かなり多めに作ったカレーは無くなってしまった。

 満腹の腹を押さえながら、なにやら男性陣がヒソヒソと話しをする。


「フィリベルトさん、どうです? 合格でしょう?」


「ああ、もちろん合格だ。タカオとかいう黒髪の女の実力は分らなかったが、アレはあれで合格だろう」


「そうでしょう。あれだけの美人は、他には見当たりません」


「よし、やるぞ! 野郎ども!」



 フィリベルトと呼ばれた青年はリーダー格らしい。その青年はスッと立ち上がり、すばやく僕らの背後に回り込んだ。


「えっ?」


 僕が慌てて振り返ると、青年の皮膚から、毛がみるみる生えてきて、あっという間に狼のような姿に変る。いわゆる人狼というヤツだ。


「お前らは、俺たちの嫁にふさわしい。さあ、始めるぞ!」


 ここにいた男性はすべて人狼だったらしい、気がつけば僕たちは完全に囲まれていた。

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