人狼の嫁探し 3

 10人ほどの人狼に囲まれて、タカオと僕は完全に逃げ道を塞がれた。


「よし、やるぞ! 野郎ども!」


 人狼のリーダーとみられるフィリベルトが咆哮ほうこうをあげる。いったい何をすると言うのだろうか……



「フィリベルトさん、俺から行って良いですか?」


 人狼の1人がフィルベルトに許可を取る。


「いいぞ、やっちまえ」


「へい、ありがとうございます」


 人狼の1人がジリジリとタカオに近づいて行く。そして、腕を大きく突き出した。


「あ、あなたを見た時に直感しました。是非ぜひ、俺と結婚して下さい」


 手には一輪の大きな薔薇が差し出されている。……これは、ひょっとしてプロポーズなのだろうか?



「あー、いきなり結婚と言われてもなぁ……」


 タカオがあきれながら答える。まあそうだ、いきなり結婚を迫られても困るだろう。


「そっスか…… ダメッすか……」


 がっくりと肩を落とす人狼に変って、他の人狼が前に出て来た。


「どけ、次は俺だ。あなたの美しさには月さえかすみます、俺の心はすでにあなたに囚われてしまいました。結婚して下さい」


「いや、だから結婚と言われても困るんだけど……」


「だめかぁ……」「次は俺だ」「いや俺だ!」


 次から次へとタカオにプロポーズをしていくが、片っ端から断られていく。まあ、タカオはもとは男だし当然だろう。



 最後にリーダー格のフィリベルトが残った。フィリベルトはどんなプロポーズをするのだろうか?


「お前ら、プロポーズはこうやるんだ、よく見ておけ。えー、うちは裕福ゆうふくで、家事はすべてメイドにやらせます。家でダラダラしているだけで良いんで、俺と結婚してくれますか?」


 ……そのプロポーズの言葉はどうなんだろう? 


「何もしなくて良いのか…… ニートな生活は少し憧れるな……」


 ロマンも情熱も無いプロポーズだが、タカオの心が少し動いたようだ。


「じゃあ、結婚してくれますか?」


「いや、俺は冒険者の生活が気に入っているから断るぜ」


 タカオはあっさりと断る。まあ、あたりまえだ。



 フィリベルトは、断られると、その矛先を僕に向けてきた。


「じゃあ、そちらのお嬢さん、俺と結婚して下さい。俺の家、金持ちですよ」


「お断りします」


 僕も断ると、フィリベルトは頭を抱えながら言う。


「おかしい、なんで上手く行かないんだ……」


 ……そんな、ついでに結婚しようみたいなセリフで、上手く行く訳がないだろう。



 全員がタカオに断られると、この場で反省会が始まった。


「今回も上手くいきませんでしたね」


「若い冒険者だから、貧乏人のハズだ。俺らの金に釣られて、乗ってくるハズなんだが……」


「そうだな。何が悪いんだろうな?」


 そんな会話をしている中で、1人がこちらをチラチラと見ながら、仲間にうったえる。


「俺、あきらめ切れないです。何度もアタックしましょうよ、彼女たちは冒険者なんで、俺らが依頼を出せば、その依頼を引き受けざるをえないハズです!」


「そうだな、そうしよう!」


「俺たち、金は持っているからな、良い返事がもらえるまで繰り返しアタックだ!」


 ……なんだか面倒くさい話になりそうだ。



 あまりにも必死な様子なので、タカオが質問をする。


「なんでそんなに必死なんだ? こんな所まで嫁探しに来なくても、村の女子と結婚すれば良いじゃないか?」


 すると、リーダー格のフィリベルトが説明してくれる。


「そりゃあ、俺たちも同族の女子と結婚したいよ。だが村には女子が極端に少ないんだ。おおよそ女1にたいして男9くらいの割合だな」


「なんでそんなに偏っているんだ?」


「うちの村の伝統だと、財産の相続は男子にしか認められない。すると、親は当然、男子を希望する。そこで、性別決定の魔法を使って、子供を男子にする訳さ」


「へー、なるほどなぁ」


 タカオが感心する。村全体が裕福で、相続権が男子だけにあると、こんな事が起こるらしい。



 僕が素直な意見を言う。


「その男女比だんじょひは、あまり良い状況ではないですよね。何とかならないんでしょうか?」


「ああ、うちの村の長老たちも、そう考えたようだ。そこで、相続を男子だけではなく女子にも与えるように伝統を廃止した。これから男女比は正常になっていくと思うぜ」


「じゃあ、村に帰って、嫁探しをすれば良いだろ」


 タカオがそう言うと、フィリベルトはあきれた顔で答える。


「廃止されたのは3年前だ。さすがに3歳児が成人になるまで待ってられねぇ。俺たちは村の外から嫁を探さないといけないんだが…… ああ、もう面倒だな。適当な女でもさらっちまうか……」



 フィリベルトは犯罪まがいの独り言をポツリと漏らす。すると、それを聞いたタカオがニヤリと笑った。


「そうそう、人狼の女子なら紹介できるんだが、紹介して欲しいか?」


「ああ、もちろんだ! どこにいるんだ!」


「ここにいるぜ。ユウリ、コイツが犯罪を起こす前にやっちまえ!」


「えっ、何を?」


「ほら、『神のいたずら』とか言うヤツだよ」


「あっ、そうか。この者の性を変えよ『神のいたずら、性別の反転』」


 僕は魔法を使ってフィリベルトを女性にした。

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