人狼の嫁探し 1

 朝が来て、身支度をして朝食を取る。昨日は休息にあてたので、僕らはやる気に満ちていた。

 食事を食べ終わり、新しい冒険の依頼を探そうとギルドの掲示板を見ると、もっとも目立つ場所に、大きな張り紙が貼ってある。


人狼じんろうが嫁をさがしています。若い女性は注意して下さい』


 この張り紙を見て、タカオが不思議そうに言う。


「なんだこれ? 『嫁探し』って書いてあるけど?」


「ほんとうだ、なんだろうね?」


 僕も不思議がっていると、エノーラさんがやってきて教えてくれる。



「隣の町で人狼の方を見たという情報が入りました。今年のターゲットは、この付近の地域らしいのですが、もしかして、お二人は人狼族について知らないのですか?」


「ああ、分りません」


「全く知らないです」


僕らが返事をすると、エノーラさんは少しあきれながら説明してくれる。



「まず人狼、つまり狼人間おおかみにんげんという、魔王軍に属する亜人あじんの種族がいます。この種族は、定期的に嫁を探して、国のあちこちに出没するんです」


「魔王軍とは和平が結ばれてるんだろ? 嫁探しくらいだったら、別に良いんじゃないのか?」


 タカオが言うと、エノーラさんはため息を付きながら言った。


「まあ、普通に探す分には構わないのですが、彼らのやり口は、かなり強引で、一部の人たちからは『人さらい』なんて言われるほどなんです」



 僕はエノーラさんに聞く。


「そんな酷いのなら、犯罪者として捕まえれば良いんじゃないですか?」


「いえ、その。犯罪としての成立は、難しいですね。手段が手段ですから……」


「ヤツらはいったいどんな手を使ってくるんだ」


 タカオが質問をすると、エノーラさんはこう言った。


「お金ですね。彼らの種族はお金持ちなんですよ」



 僕がポツリという。


「……お金ですか?」


「彼らの村は、とても有名な鉱山の村でして、銀や金が採れるんです。村自体がとても裕福でして、財力に物を言わせて口説く訳です」


「ああ、金持ちなんですね」


「ええ、しかも、事前調査をしっかりとして、あまり裕福でない人を狙ってアタックをするみたいですね。冒険者は貧乏な人も多いですから、ターゲットとして狙われやすいので注意してください」


「分ったぜ、じゃあ気をつけながら今日も冒険に行くか! ええと、戦闘がありそうなのは、ジャッカロープの駆除くらいか……」


 タカオが掲示板を見直してみるが、いつもの依頼しか見当たらない。


「しょうがないよ。今日も狩りに行こう」


「そうだなユウリ、そうしよう。じゃあ、エノーラさん、行ってきます!」



 出発しようとする僕らを、エノーラさんが慌てて呼び止める。


「あっ、気象予報魔法によると、今日の午後は雨になっています」


 天気を聞いて、タカオが僕に言う。


「そうか。じゃあ、今日の狩りは午前中だけにするか」


「そうだね。天気が悪いと、ジャッカロープも見つけられないし……」


「じゃあ、改めて、エノーラさん行ってきます!」


 出掛ける僕らをエノーラさんが手を振って送り出す。


「はい。今晩のカレー期待しています」


 ……言われて思い出した。そういえば、雨の日は僕がギルドのレストランで、カレーを販売する約束をしていた。狩りを早めに切り上げて、カレーを作らないといけない。



 午前中だけなので、街の近くの畑を見て回る。ジャッカロープを3匹ほど退治した所で、11時の鐘が鳴った。少し早いけど、狩りを辞めて街に戻る。


 ギルドに帰る前に、スーパーマケットに寄り道をして、調味料を買い足す。

 お昼を食べ終えてから、ギルドの解体施設に行くと、のんきにタカオがこんな事を言う。


「はい、これ、今日の獲物のジャッカロープ。ユウリはこれから料理の準備をしなきゃならないけど、俺は暇だな。一人で風呂にでも行ってくるか……」


 暇そうにしているので、僕がちょっと仕事を与える。


「解体部隊の隊長のダルフさん、タカオが解体のやり方を教えて欲しいそうです。冒険に出たときに、自分で解体できないと、何かと困るので」


「なるほど。感心な心がけだ。よし、こっちにこい、教えてやる!」


「えっ、ちょっと、ユウリ、助けてくれぇ~」


 タカオはダルフさんに連れられて、解体施設の部屋の中に消えていった。この分だと、早いうちに『解体』のスキルが取得できそうだ。



 時刻は昼過ぎ、まだかなり早いのだが、僕は夕飯に出すカレーを作り始める。

 ここで、先日、取得した『料理』のスキルが早くも役に立った。包丁さばき、食材の加工、調味料の調整、どれもプロ並みの早さで行なう事ができた。やはりこのスキルは取得してよかった。


 下ごしらえが終わると、青ざめたタカオが、ジャッカロープの肉をもってきたので、それをカレーに投入する。

 神器の鍋、エルビルト・シオールと、料理のスキルが合わさり、この日は最高のカレーが出来上がった。


 やがて夕方になり、ギルドのレストランで提供を開始すると、こぞってみんな買って行く。料理の出来は、食べた人の笑顔をみれば、一目瞭然いちもくりょうぜんだ。


 いつも通りの平和な光景だったが、この様子を不審な影が覗いていた。

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