報酬と新スキル 2

 タカオは、『乗馬』と『忍び足』、あと『閃光防御魔法』という、意味の分らないスキルを取ってしまった。

 僕はタカオに注意をする。


「せめて、スキルがどういう効果なのか、調べてから取ろうよ。スキルポイントさえ残しておけば、後日でも取得できるんだし……」


「大丈夫だって。俺の直感は、この魔法が使えるスキルだと確認している!」


 それを聞いた受付嬢のエノーラさんは、こう言った。


「確かに、タカオさんには役に立つスキルだと思いますよ」


 エノーラさんに後押しされて、タカオが調子に乗る。


「ほら、やっぱり使える魔法じゃないか。よし、試してみよう。光りの精霊よ、我を幾多の悪意から護りたまえ、『閃光結界陣せんこうけっかいじん』」


 タカオが魔法を詠唱えいしょうすると、空間に魔方陣らしきものが現われ、すぐに消えた。



 おそらく魔法がかかったのだろう。たが、何が変ったのか分らない。


「おっ、なんだか護られている気がするな。どんな効果があるか分らないけど」


「来たるべき時が来れば、光りの精霊に護ってもらえますよ。それよりユウリさんもレベルアップしたのですよね? 取得できるスキルを調べますか?」


 エノーラさんは僕に話題を切り替えた。もちろん僕もチェックしてもらう。


「はい、お願いします」


「では、こちらへいらして下さい」



 魔法道具で調べると、こんなスキルが浮かび上がった。


◇操縦

 ・乗馬 必要ポイント1

◇生活魔法

 ・火柱ひばしら 必要ポイント1

◇建築魔法

 ・改善 必要ポイント1

 ・城壁じょうへき 必要ポイント2

◇一般

 ・料理 必要ポイント1



 スキルの内容は何となく分る物が多い。それでも僕は説明を聞いてみる。


「エノーラさん、スキルの説明をお願いします」


「はい、『乗馬』は、馬を操るのが上手くなるスキルです」


「『火柱』は、炎の柱を作り出します。持続時間が長く、かがり火や、たき火として使えます」


「『改善』は、構造を変え、物を作り替える魔法ですね。全く別の物には変えられませんが、機能の向上が出来ます」


「『城壁』 ……これはお待ち下さい、解らないスキルなので調べます」


「『料理』については、詳しい説明は要りませんね。文字通り、料理が上達するスキルです」



 僕のスキルポイントは5ポイントだ。城壁のスキルポイントが2ポイント必要なため、どれかのスキルが取れない。

 外すとすると、訳の分らない『城壁』か、乗る機会が少なそうな『乗馬』あたりだろう。

 冒険や戦闘に役に立たない『料理』を外すという手も考えられるが、このスキルが一番、使う気がする……



 僕が悩んでいると、エノーラさんが『城壁』のスキルについて調べてくれた。


「中央ギルドに問い合わせてみた所、『城壁』というのは『石の壁』の上位スキルで、かなり大きな石の建築物を作れるらしいです。ただ、このスキルは非常に珍しく、あまり情報がないので、実体がよく分らない部分が多いです」


「それなら僕が取得して使ってみます。『料理』『火柱』『改善』『城壁』の四つのスキルを覚えます」


「はい、ではこちらへ」


 スキルを取得する魔法器具を使い、僕は魔法を覚えた。



 この世界は、経験によって、新しく覚えられるスキルが出てくるようだ。

『城壁』のスキルが出てきたのは、僕が『石の壁』のスキルを使いまくったからだろう。


 他のスキルや魔法についても、思い当たる点はあるが、ひとつだけ気になる点がある。それは僕の覚えられるスキルに『閃光防御魔法』が出てこなかった事だ。魔法だと僕の方が取得しやすいと思うのだが、タカオに覚えられて、僕には覚えられなかった。なにか経験に差があったのだろうか?



 スキル取得後、しばらく考え込んでいると、タカオから声を掛けられる。


「ユウリ、ギルドでの用事が済んだから、これからお風呂へ行こうぜ。エノーラさんも一緒にどうです?」


「いえ、私は仕事がありますので、お二人でどうぞ」


「じゃあ、暇な時に行きましょう」


「はい。では、都合の良いときに、こちらから声を掛けさせてもらいます」


「約束ですよ。ユウリ、今日は二人で行くか」


「うん、わかったよ。それではエノーラさん失礼します」


 こうして僕らはギルドを後にする。

 エノーラさんとの約束と取り付けて、タカオは上機嫌だったが、あの返事は、遠回しで断っているようにしか聞えない。おそらく、エノーラさんからお誘いがくる事はないだろう。



 街の中を5分ほどあるき。僕らは温泉ランドへとやってきた。ここのオーナーから貰った、割引パスポートを出して、銅貨3枚という格安料金で中にはいる。これは日本円に直すと、およそ300円だ。普通だと、銀貨1枚、1000円近くかかる。ただし、この割引パスポートを使うのには、ある条件を満たさないといけない。


 受付でパスポートをだして、割引料金で入ろうとすると、温泉ランドのオーナーから声を掛けられる。


「割引料金で入ったとなると、温水プールに行くんだよね?」


「ああ、そのつもりだぜ!」


 タカオが迷わず答える。そう、割引料金を使用するには、男女の混浴の温水プールに行かなくてはならない。僕らの水着姿でお客さんを呼び込もうという作戦だ。



「もし、この水着を着てくれるなら、キンキンに冷えたエールもサービスするよ」


 そう言って、オーナーは、そこそこきわどいを取り出してきた。もし着るとなると、ちょっと恥ずかしいレベルだ。

 タカオはこの水着を見て、断るかと思ったら、こう言った。


「その露出度だと、エールだけじゃ割に合わないな。ここの軽食コーナーで、3本のソーセージのセットがあっただろう。それもつけてくれないと……」


「わかったよ。じゃあ、それもサービスしよう」


「よし! ユウリ、さっそくプールへ行こうぜ!」


 そう言って、タカオは2着の水着を受け取った。もしかしたら、僕も着るのだろうか?



 体を洗い、シャワーを浴びて、僕らは温水プールにやってきた。もちろん、恥ずかしい水着を着て……


「ひゃっはー 泳ぐぜユウリ。競争だ!」


「いや、僕はいいよ。一人で泳いできなよ」


「じゃあ、行ってくるぜ!」


 タカオはそう言って、プールに飛び込んだ。平日の昼間なのでお客さんは少ないが、男性客にとってタカオは注目の的だ。



 あまり動くと見えてしまいそうなので、僕はプール脇のジャグジーに浸かってゆっくりとする。

 すると、オーナーがやってきた。


「おお、その水着をつけてくれたんですね。これで、更にお客さんが増えれば良いのですが」


「経営が厳しいとか言っていましたけど、こんな方法で大丈夫なんですか?」


 僕が心配をすると、オーナーは明るく答える。


「今度から、日曜日に営業をして、月曜日に休みを取るようにしました。温泉は、休日にゆっくり浸かりたいですからね、たぶんこれで大丈夫でしょう」



 そんな話をしていると、クロールで泳いでいるタカオの胸の水着が取れ、露出してしまった。これは、大事件だ。


 すると、謎の光りがさし込み、タカオの胸の頂点を隠す。


「まぶしい」「まぶしっ」「光が!」


 ギャラリーが次々と目を閉じる。オーナーは不思議そうに言う。


「おかしいですね? 男女共同のこの場所に、覗き防止の閃光魔法は掛かっていないのですが……」


「あっ、あれはおそらくタカオが掛けた『閃光防御魔法』だと思います」


「ほう、あの魔法が使えるのですか。まあ、あれだけの美貌をもっていれば、覗きは耐えないでしょうね」


 ……閃光防御魔法は、覗き防止の魔法だったらしい。農家さんの温泉で、タカオが入っている時に覗かれたので、おそらくその時にスキルが取得できるようになった訳か。


 効果を知って、まるで役に立たない魔法だと思ったが、今まさに大活躍だいかつやくをしてしまっている。このスキルは取得して正解だったのだろうか……

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