護衛任務 24
タカオから、カツカレーの注文が入ったので、お昼の時間に合わせて作る。
カレーは昨日の残りをそのまま使うので、カツを揚げればよい。農家の奥さんと共に、カツを作り始めた。
僕は奥さんに教えながら作るのだが、あっという間に手順を覚えていく。さすがは現役の主婦だけある。
下準備をしながら、なにげない会話をする。
「ユウリ先生。このカツという料理を、村の人たちにも教えたいのですが、このレシピは
「いえ、そんな大したレシピではないので、他の人たちにも教えて下さい。肉の他にも、色々な野菜に衣を付けて揚げても良いですよ。今ある野菜だと、タマネギとアスパラあたりを使ってやって見ましょうか」
「はい、やりましょう。私が村の人々に伝えて、この村の伝統料理として受け継いて行きたいと思います!」
「そんなに大げさに考えないで下さい……」
下準備が終り、いよいよ油で揚げる段階となった。火の扱いについて注意をしながら、雑談が続いていく。
「そう言えば、うちのフレディはどんな魔法を覚えたんでしょうね?」
「ええと、確か生活魔法の『発熱』『冷却』『製水』『洗浄』『整地』『修理』『石の壁』、あと、攻撃魔法で『石の矢』『炎の矢』『氷の矢』を覚えたはずです。一通りの魔法は、使える感じですね」
「そんな種類を覚えたのですね。ところで、魔法のスキルを覚えるのにお金がかかったと思うのですが?」
「あっ、はい。そうですね。銀貨で50枚くらいかかったような気が……」
銀貨1枚は、およそ1000円。合計で5万円ほどの費用がかかった計算になる。奥さんは僕に聞いてくる。
「その費用は、誰が出したのですか?」
「僕がとりあえず出しておきました。魔法を使えるようになると、色々と便利だと思ったので……」
これだけの種類の魔法をつかえるのは、僕が『魔法の才能』というスキルを渡したせいだ。このくらいの出費は僕がしないといけないだろう。
正直に話すと、奥さんにあきれられた。
「ユウリ先生。かかった経費はちゃんと申告して下さい。そのくらいの蓄えは家にもあるので」
「あっ、そうですよね。でも、蔵を建てるのに、お金をけっこう使ったんじゃないですか?」
「大丈夫です。それに今回は建築費が、かなり安くなるみたいですから」
「そうなんですか?」
「ええ、金貨350枚かかる予定だったのが、250枚くらいで済みそうらしいんです。ユウリ先生が土台の部分を一気に作ったので」
「……そうですか。それは良かったです」
僕の魔法で工期が3日分短縮したと言っていたが、その分、ちゃんと安くなっていたらしい。金貨1枚が、約1万円なので、およそ100万円の節約だ。かなりの節約だと言って良いだろう。
話をしながら作業をしていると、料理が完成した。
冷めないように、いったん倉庫魔法にしまい、職人さん達の様子を見る。すると、綺麗な
2階建ての見事な木造建築。太い柱と
僕は親方に声をかける。
「立派な蔵が出来ましたね。綺麗です」
「おうよ。大切に扱えば100年は持つ蔵だ。なかなかのものだろ?」
「ええ、凄いです。見事です」
感心して眺めていると、若手の人がやってきた。
「あー、腹が減ったわ。今日の昼も、ユウリの
この若手の人は、いつの間にか僕をしたってくれるようになっていた。
タカオのお風呂を覗いて、ボコボコにされて。その後に僕が
親方は、若手の人を小突きながら言う。
「せっかくユウリお嬢ちゃんに褒められていたのに、お前ってヤツは…… まあ良い、片付けを済ませて飯にしよう」
「じゃあ、僕は
人数分の皿を出して、ご飯とトンカツをよそい、その上にカレーをかけた。準備が終わると、昼食に入る。
「いただきます」
「「「いただきます」」」
相変わらずタカオがフライングをして、食事が始まる。ここにいる人たちは、トンカツもカレーも食べた事があるので、この料理はそんなに驚かないだろう。そう思っていたのだが、あちらこちらから料理を褒めたたえる声が聞えてくる。
「うお、サクサクのトンカツと、スパイシーなカレーがこんなに合うとは!」
「ユグラシドル級の料理同志のコラボ。これは伝説を越えたな! スプーンが止まらねぇ!」
フレディ君の事が気になり、チラリと見てみると、フレディ君も夢中になって食べていた。やはり子供にカレーは受けが良いみたいだ。
お代わりを何度か配り、食事が終わると、いよいよお別れだ。フレディ君が僕らの前にやってきた。
「タカオお姉ちゃん、ユウリお姉ちゃん、ありがとう。ぼく、お母さんとお父さんのお手伝いがんばるよ」
それを聞いて、タカオが頭をクシャクシャと撫でながら言う。
「おう、魔法を使って手伝ってやれ。そうそう、俺たちパーティーを組んだままだったな。解散しておかないと」
それを聞いた僕は、こんな事を思いつく。
「それなら、お父さんとお母さんでパーティーを組んだらどうかな? お父さんがジャッカロープとか倒したら、みんなに経験値が入るよ」
僕の提案に、タカオが賛成する。
「それは、良いんじゃないか。フレディの魔法攻撃で、オヤジさんを援護してやれ」
「うん、わかった。じゃあ、パーティーを組むね」
お父さん、お母さん、フレディ君の3人でパーティーを組んだ。これでフレディ君にも経験値が入ってくるはずだ。
そんなやり取りをしていると、親方から声がかかる。
「さあ、そろそろ出発しないと、街に着く前に日が暮れちまう」
「はい、そうですね。じゃあ、フレディ君、またね」
僕が軽く手を振ると、最後にフレディ君がこんな事を言う。
「ユウリお姉ちゃんまたね。それから、もし、僕が大きくなって、魔法をたくさん覚えたら、お姉ちゃんたちのパーティーに入れてくれる?」
「おう。俺たちより強くなってたらな。畑に出てくるジャッカロープとか、ガンガン退治して、レベルアップしていけ!」
タカオがカッコを付けて言い放つと、ゆっくりと歩き始めた。
「うん、じゃあね。お姉ちゃんたち」
「じゃあ、またね」
フレディ君は離れていく僕たちに向けて、いつまでもブンブンと手を振ってくれた。
帰り道、僕らは周りを警戒しながら進む。僕らの本来の依頼内容は、護衛の任務で、職人さん達をモンスターから護るのが仕事だ。
昼を食べ過ぎたのか、みんな歩くペースが遅い。やがて日が暮れて、
僕は最悪の事態を想定したのだが、そんな物騒な事件は起こらずに、無事に街へとたどり着いた。
街に着くと、親方が僕に言う。
「お疲れさま。ユウリお嬢ちゃん、今日はもう遅いから、依頼の細かな精算は明日でいいかな?」
「はい、構いません」
「じゃあ、解散だ。みんな気を付けて帰れよ」
「「「おつかれさま~」」」
それぞれの方向に帰って行く職人さん達。僕らも冒険者ギルドの宿に帰る事にした。
色々と仕事はしたが、本来の護衛の仕事は、全くといって働いていない。これは、依頼を達成したと言えるのだろうか?
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