護衛任務 23

 カレーを食べ終わった後は、フレディ君に魔法を教える。

 もともと飲み込みが早いのか、僕が与えたスキルのせいか分らないが、あっという間に魔法を習得していった。


 色々な魔法を教えていると、あっという間に時間が過ぎてゆく。

 気がつけば、子供は寝る時間となっていた。

 魔法の授業を適当に打ち切り、眠る支度をすると、みんな、それぞれのベッドに行き、その日は眠りについた。



 翌朝、部屋が明るくなり目が覚める。外を見ると、まだ朝焼けが始まった時間で、かなり早いようだ。

 眠気が残っていれば、二度寝をしてもよかったのだが、なぜだかパッチリと目が覚めてしまった。時間を持て余した僕は、外のキッチンで料理をする事にする。


 僕の倉庫魔法の中には、ワイルドボアの肉の塊がまだ残っている。豚肉の料理を考えていると、ふと、チャーシューが思い浮かんだ。

 チャーシューなら、そのまま食べても良いし、ご飯の上に乗せてチャーシュー丼にしてもいい。パンに合うかどうか分らないが、挟んで食べても良いだろう。


 僕は『エルビルト・シオール』を取り出して、作り方を聞き、チャーシューを作り始めた。



 ワイルドボアの肉を、適当な大きさの塊に切って、たこ糸で縛る。軽く焼き目をつけてから、甘辛いタレで煮ていく。

 エルビルト・シオールは、圧力鍋に変身したので、あっという間に出来上がった。仕上がりは、ラーメン屋さんで出てくるようなチャーシューではなく、角煮に近いような、濃い味のついたチャーシューだ。

 一口、味見をしてみると、プルプルとした食感と、濃い味で、ご飯が進みそうな感じだ。


 僕がチャーシューを作り終えたくらいに、奥さんが起きて来た。奥さんにもチャーシューの試食をしてもらい、2人で手分けしてご飯を炊き始める。このおかずなら、みんな朝から、たくさん食べそうだ。多めに炊いておいた方が良いだろう。



 大きなお釜でご飯を炊いていると、匂いにつられたのか、職人さんたちが自然と起きて来た。しかし、寝坊の多いタカオはまだ起きて来ない。しょうがないので、僕がタカオを起こしにに行く。


「タカオ起きて、ご飯だよ」


「うーん、もう少しだけ寝かして、あと5分だけ……」


 5分だけと言って、いつまでもズルズルと寝ている気がする……

 そこで、僕はこう言った。


「寝てても良いけど、みんなで先に食をたべてるね。朝食はチャーシュー丼だけど、来るのが遅いと残ってないかも……」


「うおっ、こうしちゃいられない! いくぜユウリ!」


 タカオは跳ね起きると、下着姿のまま食事に行こうとする。慌てて僕は服をもって追いかけて行く。



 どうにかタカオに追い付いて、上着を着せる。食事をとる屋外のテーブルでは、もう配膳はいぜんが始まっていた。丼のような大きなボールに、ご飯を敷き詰め、2センチくらいのサイコロの形に切ったチャーシューを上に掛けていく。朝からチャーシュー丼は重たいので、どうかと思ったが、みんな大盛りを注文しているようだ。



 全員にチャーシュー丼が行き渡ると、食事が始まる。


「「「いただきます」」」


「あっ、いただきます」


 起きたばかりで寝ぼけていたのか、タカオが少し出遅れた。職人さん達はスプーンを使って、チャーシュー丼を口の中にかきこんでいく。


「なんだこの肉は! 柔らかくて口の中で溶けていく!」


「うめぇ、濃い目の味が後を引いて、食べるのがとまらねぇ」


 どうやら好評のようだ。しばらくすると、いつものようにお代わりの列が出来たので、僕はただひたすら、おかわりをよそう。職人さんたちは朝からよく食べる。



 しばらくすると、ほとんどの人が食べ過ぎで動けなくなっていた。


「うっぷ。旦那さん、少し休憩してから、仕事にかからせてくれ」


 親方が農家の旦那さんに言うと、旦那さんも腹をさすりながら言う。


「ええ、そうして下さい。私も食べ過ぎた、休んでから仕事をします」


 予想以上に食が進んだらしい。無理やり動く事もできないので、ゆっくりと休憩を取り、少し遅れて建築作業が始まった。



 建築作業が始まると、僕とタカオとフレディ君は、作業を見学させてもらう。

 僕とフレディ君は、『修理』という魔法を持っているのだが、この魔法は、物の構造を知っている方が、うまく直せるらしい。建築中の様子をみるのは、この魔法にとってうってつけだ。


 見学をする事、30分あまり。建物は、ほぼ出来ていて、仕上げの段階に入る。

 ヤスリがけをして綺麗にしたり、防水の塗料を塗ったりと、細かい作業になる。


 地味な作業になると、タカオが少し飽きてきた。フレディ君に他の話題を振る。


「フレディは昼飯に何が食いたい? リクエストとかあったりする?」


「トンカツだっけ? アレがまた食べたい。でも、昨日の夜のカレーも美味しかったな」



 それを聞いて、タカオは僕に言う。


「昨日のカレーはまだ残っているのか?」


「うん、かなり多く作ったから、まだあるよ」


「じゃあ、決まりだな。カツを揚げて、カツカレーだ!」


「わかったよ。農家の奥さんに教えながら作ってくるね」


 このやり取りを聞いていたフレディ君が、目を輝かせながら聞いてくる。


「お姉ちゃん。カツカレーってなに?」


 するとタカオはもったいぶりながら言う。


「それは出来てからのお楽しみだぜ!」


 料理を作るのは僕なのだが……

 おそらく、これがここで作る最後の食事となる。

 腕によりをかけて、料理を作ろう。

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