護衛任務 22
インド風と西洋風、2種類のカレーを作り、夕食の時間を迎えた。匂いに釣られて職人さん達がやってくる。
「おお、今晩の飯はカレーか。相変わらず美味そうだな」
親方がそう言うと、農家の旦那さんが疑問を言う。
「見た目があまり良いとは言えないのですが、アレは美味しいのですか?」
「ユウリお嬢ちゃんの作る料理は、どれもユグラシドル級の料理ですぜ。天ぷらやトンカツを食べた旦那なら分るでしょう」
「ああ、そうですね。きっとあの料理も、とんでもなく美味いのでしょう」
僕の作る料理は、あくまで家庭料理の範囲で、高級レストランの料理のような期待をされても困るのだけれど……
「今日のカレーは2種類あります。少し辛めのジャッカロープのカレーと、マイルドなワイルドボアのカレーです。どちらにしますか?」
僕が、軽く説明をすると、職人さん達は、険しい表情で話し始めた。
「なんだって、2種類もカレーもあるのか!」
「以前、食べた、ジャッカロープのカレーも美味かったが、新しいカレーも気になるな、何て悩ましい」
「俺はどっちのカレーを選べば良いんだ!」
気分で簡単に選べば良いと思うのだが、みんな深刻な顔をして悩んでいる。
職人さん達が
「皿の真ん中に、ご飯を
中央にご飯を盛り付けると、確かにカレーが混ざるのを防げる。
「分ったよ。じゃあ、両方のカレーを半分ずつ掛けるね」
2種類のカレーを掛けたタカオは、満足そうに席についた。このやり取りを見ていた職人さん達は、これに続く。
「俺も、2種類にする」「お、俺もだ!」
こうして、全員に2種類のカレーを盛り付ける事となった。
全員に配り終り、最後の人が席に座ると同時に、タカオが声を上げる。
「いただきます!」
「「「いただきます」」」
タカオの「いただきます」に釣られて、他の人も食べ始めた。タカオは相変わらずフライングぎみだが、一応、
洋風のワイルドボアのポークカレーを口に含むと、深いコクと味わい深い旨みが広がる。滑らかでご飯との相性もよく、いくらでも食べられそうだ。
インド風のジャッカロープのカレーを食べると、スパイスが口いっぱいに広がる。『エルビルト・シオール』の仕事は、相変わらず完璧だ。
自分で味を確認すると、他の人の反応も気になった。周りを見ると、みんな夢中になって食べている。好評のようなので、ひと安心していると、タカオがこんな事を言ってきた。
「ユウリ、おかわりをくれ!」
「俺も!」「俺もだ!」
あっという間におかわりを求める集団が出来上がってしまった。
「はい、じゃあ、おかわりの欲しい人は並んで下さい」
落ち着く暇も無く、僕はカレーをよそい続ける。もしかしたら、美味く作りすぎるのも、問題なのかもしれない。
長い長いおかわりの列を無くしていき、ようやく食事が終わる。
腹が膨れて落ち着くと、親方が明日の話をする。
「依頼されている倉の建築が、明日の昼までには出来上がりそうだ」
それを聞いて、タカオが不思議そうに親方に質問をする。
「あれ、建てるのに1週間くらい掛かるって聞いてたけど、もう出来るのか?」
「ああ、土台を建てる3日分の作業を、ユウリお嬢ちゃんが一瞬でやっちまったからな。昼過ぎにはここを出発して、夜には街に帰れるぜ」
予定より、かなり早く帰る事になりそうだ。この話を、すぐそばで聞いていたフレディ君が、僕とタカオに聞いてくる。
「お姉ちゃんたち、もう帰っちゃうの?」
その質問に、タカオはこう答えた。
「おう。俺たちは冒険者で、護衛の任務中だからな。帰り道で、建築ギルドの人たちを護らないといけないんだ。俺たちと別れるのはさみしいか?」
「……うん」
「じゃあ、父ちゃんと母ちゃんと別れて、俺たちについてくるか?」
「嫌だ。お父さんとお母さんとは離れたくない!」
それを聞いて、タカオがフレディ君の頭をぐしゃぐしゃ
「おう、それなら父ちゃんと母ちゃんと一緒に居ろ。魔法も覚えたんだし、色々と手伝ってやれ」
「うん、わかった」
フレディ君が、ちょっと涙目で、力強く返事をする。
フレディ君は先ほどととは違って、少し成長したような気もする。もう大丈夫そうだ。こうなると、僕に出来る事と言えば、魔法の使い方を教えるくらいだろうか。
「それじゃあ、魔法の練習をちょっとやってみる? 汚れた食器を『洗浄』で洗って、『製水』と『発熱』でお風呂を沸かしていようか」
「うん、教えて」
僕が始めに魔法を使い、その後にフレディ君が同じ魔法を使う。
フレディ君は、あっという間に魔法をマスターして行った。子供の成長力は、恐ろしく早い。もしかしたら、僕が与えた『魔法の才能』というスキルのせいかもしれないけれど……
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