護衛任務 17

 農家さんの息子、フレディ君の魔法適正が、かなり低い事が分った。

 どうにかしてあげたい僕は、何か方法が無いかと、女神マグノリアス様に聞くと。

 マグノリアス様は、「魔法の才能をさずければいい」とか、とんでもない事を言いだした。


「マグノリアス様、そんな事が僕に出来るのでしょうか?」


「ええ、出来ますよ。あなたは女神なのですから」


「どうすれば良いんですか?」


「タカオに与えたように、ユニークスキルを与えれば良いのです。魔法に関するスキルを、一つか二つ、与えれば充分でしょう」


 なるほど、スキルを与えて、魔法を使えるようにする訳か。



 マグノリアス様は、話を続ける。


「スキルの一覧は、『神託しんたくスクリーン』でも確認できますが…… そうですね、『大賢者だいけんじゃ』のスキルはどうでしょう。ありとあらゆる魔法をつかえるようになります。このスキルを極めれば、流星を落として、街や城をちりに還す、『流星群メテオスウォーム』の魔法も覚えられますよ」


「……いえ、そんな物騒ぶっそうな魔法は要りません。生活魔法が使えるくらいの、些細ささいなスキルでいいんです」


「そうですか。それでは『魔法の才能』というスキルはどうでしょう。このスキルは、普段は魔法が使えない戦士や盗賊といった職業でも、魔法が使えるようになるスキルです。本職の魔法使いと違って、大した魔法は使えませんが」


 僕は、神託スクリーンで、他の魔法関連のスキルを確認してみる。『暗黒呪術士』『死霊魔術ネクロマンシー』『精神操作魔法使い』など、なにやらまずそうなスキルが並んでいた。


「そうですね、『魔法の才能』それで良いと思います」


「それでは授けてあげて下さい。やり方は、神託スクリーンに出てくる呪文を唱えれば大丈夫ですから」


「分りました。授けてきますね」



 僕はフレディ君のそばに行き、こんな事を言う。


「フレディ君、僕は、魔法が得意になる『おまじない』を知っているんだけど試してみるかい?」


「うん、おねがい。ダメだと思うけど……」


 フレディ君は相変わらず落ち込んだままだ。そんなフレディ君に、僕は、ささやかなスキルを授ける。


「導きの神の名において、力なきこの者に『魔法の才能』を与えん!」


 僕がそう言うと、フレディ君に力が宿ったのが分った。これで魔法適正が上がったはずだ。



 スキルを渡したので、僕はこの教会の司祭さまに、お願いをする。


「すいません、司祭さま。この子の魔法適正を、もう一度、測定してもらえませんか? 料金なら僕が払うので」


「いや、料金なら既にもらっているので、気にしないで下さい。では、もう一度、計り直しましょう。フレディ坊や、こちらへ」


「はい、分りました」


 司祭さまが再び呪文を唱える。


みちびきの女神マグノリアス様、この者の魔法適正を教えたまえ」


 水晶玉が光り、今度は『魔法適正 A』という文字が浮かび上がってしまった。


 司祭さまがあせった様子で言う。


「これは、何かの間違いかもしれません。もう一度、測定してみましょう。この者の魔法適正を教えたまえ」


 再び文字が浮かび上がるが、やはり魔法適正は『A』を示している。先ほどまでは『E』だったので、いきなり4段階上がってしまったようだ。少しだけ上げるつもりが、上げすぎてしまった……



 この状況を見て、僕はとっさに嘘をつく。


「その、測定道具。古くて壊れかけていたんじゃないでしょうか? 最初は誤作動を起こしたと思います。僕は『修復』の魔法を使えるので、直しておきましょうか?」


「それは助かりますが、うちの教会では、修復の魔法の料金を払う余裕はありません」


「いえいえ、無料で良いですよ。あるべき姿に戻したまへ『修復』」


 測定道具には水晶玉がついていて、今までは傷だらけだったのだが、それがきれいな状態へと戻る。まるで新品のようだ。


「おお、これは助かります」


 司祭さまが喜ぶ。今回は、僕のスキル付与で、迷惑をかけてしまった。このくらいの事はしないとマズいだろう。



 魔法適正が『A』ランクに上がったとこりで、タカオが司祭さまに聞く。


「フレディの魔法適正があるのは分ったけど、どうやって魔法を覚えるんだ?」


 冒険者はレベルが上がるとスキルポイントが入ってくる。そのスキルポイントを使って、魔法や技能などのスキルを取ればいいのだが、冒険に出ない一般人は、どうやって魔法を覚えるのだろうか?


 タカオが質問をすると、司祭さまは丁寧ていねいに答えてくれる。


「魔法やスキルの覚え方は二つあります。一つ目は、冒険をして、スキルポイントを得て、そのスキルポイントで魔法を習得する手段。もう一つは、魔法学校や魔法教室に通い、魔法を学習する方法ですね」



 僕が司祭さまに聞く。


「魔法学校は遠くに行かないと無いんですよね? 魔法教室は、近くにあるのですか?」


「難しい魔法だと、遠くの街の大きな魔法教室で覚えなければならないのですが、習得のたやすい日常魔法なら、サノワの街にもありますよ。魔法適正の高い人だと、数日で覚えられるようです」


サノワの街とは、僕らがいつも暮らしている街の事だ。ここからだと、歩いておよそ半日かかる。行きに半日、街で数日かけて覚え、また半日で帰って来る。余裕を見ても、1週間もすれば覚えられるだろう。



 僕が、魔法教室に通う方法を考えていると、タカオがこんな事を言い出した。


「なあ。たしか、パーティーを組んで戦えば、経験値がパーティーメンバー全員に入るんだろ?」


 その質問に、司祭さまが答えてくれる。


「ええ、果たした役割によって、ある程度はバラツキがありますが、全員に経験値が配られると言われていますね」


 それを聞いて、タカオが親指を上げて言った。


「よし、決まりだ。フレディ、俺たちとパーティーを組んで、モンスターを倒してレベルを上げようぜ! 入って来たスキルポイントで、パパッと魔法を覚えちまおう!」


 タカオがとんでもない事を言い出した……

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