護衛任務 16

 村の中心にあるという教会へとやってきた。教会は、かなり古くて、壁の一部はボロボロになっている。

 農家の息子のフレディ君は、その教会の中へと入っていく。


 教会の中には、老人の男性が掃除をしていた。フレディ君を見つけると、声をかけてくる。


「おや、フレディ坊やじゃないか。今日は何の用できたのかね?」


「司祭さま。ボクの魔法適正を調べて欲しくて、やってきました」


「それはそれは。そちらの2人のお嬢さんたちは?」


「ボクの付き添いで来てくれた、ユウリお姉ちゃんと、タカオお姉ちゃんです」


「はじめまして」


「よろしく」


 僕とタカオは、司祭さまに軽く挨拶をする。



「このようなへんぴな村に来ていただき、ありがとうございます。何もない村ですが、ゆっくりと……」


 司祭さまが長々と挨拶をしようとすると、フレディ君がそれに割って入る。


「司祭さま、それよりボクの測定をお願いします。これ、お金です」


 いままで握りしめていた革袋から、銀貨を3枚渡す。司祭さまはお金を受け取ると、ゆっくりと歩き出す。


「フレディ坊やはせっかちだね。こちらへ来なさい」


 そう言って、祭壇さいだんの横の、魔法道具が並んで置いてある場所に、フレディ君をつれていく。



 いくつかある魔法道具の中で、水晶玉がついた魔法道具の前で司祭さまが止まる。


「魔法適正の測定ですね? まずは、この水晶玉の上に手を置きなさい」


「はい、分りました」


 フレディ君は水晶玉の上に手を置くと、司祭さまが呪文を唱える。


みちびきの女神マグノリアス様、この者の魔法適正を教えたまえ」


 水晶玉はぼんやりと光り出し『魔法適正 E』という文字が浮かび上がった。

 思わぬところで、上司めがみさまの名前を聞き、僕は少し硬直をしてしまった。



 司祭さまが、小さな声で結果を言う。


「魔法適正はEですな…… 魔法が全く使えない訳ではないが、かなり苦手な分野の数字だね……」


「ああ、はい、そうなんですか……」


 元気だったフレディ君が、あからさまに落ち込んでいる。先ほどまでは、魔法を使って両親を手伝うと、明るく言っていたが、今はまるで違う人物のようだ。



 このままではいけない。僕が司祭さまに、どうにかならないか聞いてみる。


「司祭さま、フレディ君はまだ子供です。成長して魔法適正が上がるという事は無いのでしょうか?」


「まあ、上がらない訳ではないが、魔法学校などで学習しなければならないと思うよ」


 それを聞いて、タカオが質問をする。


「魔法学校ってのは、入るのが難しいのか?」


「いや、金さえ積めば入れるのけど、庶民には少し難しい金額かもしれない。それに、魔法学校の場所は、ここからだいぶ遠い。もし、通うとなると両親と離れ離れになってしまう……」


 ……状況は絶望的らしい。ますますフレディ君の表情が曇る。



 フレディ君の事を何とかしてやりたいのだが、どうすれば良いのだろうか……

 悩んでいると、ふと、先ほどの名前を思い出した。


「ちょっと教会の外に出てきます」


「どこにいくんだ?」


 タカオの質問に、僕は適当にごまかす。


「ええと、と、トイレだよ」


「トイレはその扉から外を出て、右のほうじゃよ」


 司祭さまが教えてくれた。


「ありがとうございます」


 僕はお礼を言って、とりあえず外に出る。



 外に出ると、1人になった事を確認してから、僕は神託しんたくスクリーンを開く。

 これは、神様の世界で使う、タブレット端末のようなシステムだ。


 神託スクリーンの画面から、上司である『マグノリアス様』の名前を選び、電話を呼び出す。


 何度かコール音が鳴って、電話が繋がった。


「天界から見ていましたよ、ユウリ。あの子の魔法適正を上げたいのですよね?」


「はい、そうです。何か手段はないでしょうか? 子供でも出来る、魔法適正の学習方法とかを教えて貰えると助かるのですが……」


「なるほど、学習方法ですか…… それよりもっと簡単で、確実な方法がありますよ」


「教えて下さい、どのような方法なんでしょうか?」


「あなたがあの子に魔法の才能をさずければいいのです」


 マグノリアス様はとんでもない事を言い出した。

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