護衛任務 12
キッチンを一通り作り終えて、ひと仕事を終える。作ったばかりのテーブルでお茶を飲んでいると、職人さんたちも休憩に入ったようだ。
井戸の水をくみにきて、僕の作ったキッチンを見て驚いた。
「なんだこりゃ」「立派な台所が出来上がってるぞ」
「ユウリお嬢ちゃん、これはいったい……」
親方に聞かれたので、僕は素直に答える。
「『石の壁』です」
僕の説明を聞いて、いつも親方に頭を殴られている若手の人が言う。
「何を言ってるんだ、『石の壁』っていうのは、『石の壁』を作る魔法なんだぞ。こんなに綺麗な石細工を作れる訳がないだろ」
「でも、実際に作れましたよ……」
「いや、出来るわけが無い! どうせインチキでもしたんだろ。倉庫魔法にあらかじめ、完成された石細工を入れておいて取り出したんだ!」
うーん、困った。どうやら本格的に疑われているらしい。
困っていると、タカオがこんな提案をする。
「じゃあ、地面に好きなサイズの線を引きな。これからお前が指定したサイズのテーブルを、ユウリが作り出してやるよ」
そういって、木の棒を若手の人に渡す。
「おう、じゃあ、こんな形のテーブルはどうだ!」
若手の人は、長いテーブルを三つ繋げたような、コの字型の線を引く。
僕は地面に描かれた線を確認すると、呪文を唱える。
「白く美しい『石の壁』のテーブルよ。ここに現われよ!」
すると、僕の想像どおりの石のテーブルが出現する。この呪文は、かなり慣れてきたので、このくらいなら簡単にできるようになってきた。
出来上がったテーブルを見て、若手の人が文句をつけてきた。
「ま、まだだ。背もたれと
そのサイズは、1人掛けのソファーくらいはあるだろうか。確かに、テーブルがあるのに椅子がないのはおかしい。
「白く美しい『石の壁』の椅子たちよ。現われよ!」
僕はすぐにテーブルの周りに、20個ほどの椅子を出現させた。
「あっ、いいや、これだけじゃダメだ。ええと、次はそうだな…… 痛ぇ!」
若手の人が次の注文を出そうとしたら、親方に殴られた。まあ、これ以上、物を増やされては困ると思ったのだろう。
こんなやり取りをしていると、農家さんの一家が様子を見に出てきた。外にあるシステムキッチンとテーブルを見て、とても驚く。
「なんですか、この立派なキッチンは?」
「ただの『石の壁』ですよ」
僕がそう行ったのだが、どうやら信じられないらしい。
「こんな高価な物は、家では買えません!」
一家のお父さんは否定するのだが、奥さんはそうではないらしい。
「いえ、あなた。せめて、この流し台だけでも買えないかしら、こんなステキな流し台が欲しかったの……」
それを聞いて、僕は魔法を唱える。
「魔法ですぐに出来るので、値段は無料でいいですよ。これは屋外用の流し台なので、もうひとつ、室内用の流し台を作りますね。白く美しい『石の壁』の流し台よ、現われたまえ」
呪文を唱えると、すぐに流し台が現われた。奥さんはそれを撫でるように確かめる。
「素晴らしいです。こんな流し台を使うのが夢でした」
「他に何かいりますか? かまどとかも、作業テーブルとかも出します?」
「はい、ぜひ、お願いします」
僕はリクエストに応えて、室内用のシステムキッチンを、もう一つ、作り上げた。
殴られた若手の人が、新しく出来た流し台を持ち上げようとする。
「なんだ、これ。重すぎて持ち上がらないぞ。移動できないんじゃないか?」
「どれどれ、手伝おう」「俺たちも手伝うぞ」
職人さん達が集まり、石でできた流し台を持ち上げようとする。ところが、まるで動かなかった。
「なんだこれは……」「石で出来てるとはいえ、ここまで動かせないのはおかしい」
『石の壁』なので、もしかして地中の奥まで、植物の根のように繋がっているのだろうか? そうなると、室内には動かせない。
困っていると、タカオが言う。
「いったん、ユウリの倉庫魔法にしまえるか、試してみればどうだ?」
「あっ、うん。やってみるよ」
倉庫魔法でしまうと、普通に消えた。どうやら普通にしまえるようだ。
しまえる事を確認すると、タカオが再び言う。
「取り出してみて、下のほうがどうなっているのか、一度、見た方が良いんじゃないか?」
「うん、じゃあ、出してみるね」
倉庫魔法から取り出してみると、普通の流し台が出てきた。下のほうがどうなっているのか、確認しようとすると、今度は普通に持ち上がった。どうやら倉庫魔法にしまうと、地面との接続みたいな物が切れるらしい。
それが解れば話が早い。僕は、出した物を全ていったん、倉庫魔法に入れると、再び取り出した。これで全て動かせるようになったハズだ。
この後、奥さんの指示どおり、流し台やかまど等を、家の中に設置した。設置し終わると、奥さんは満面の笑みを浮かべて、あたらしいキッチンを
キッチンの納品が終わると、僕は
「そういえば、親方。ワイルド・ボアを狩ってきたので、夕飯に出そうかと思っているのですが、解体しては頂けないですか」
「おうよ。いくらでも解体してやるよ」
「残念な事に、一匹だけなのですが……」
そう言って、僕は倉庫魔法から、体重300キロくらいありそうな、ワイルドボアを取り出す。
「……でけぇな」
「……でかいですね」
親方と若手の人がつぶやくように言う。
「これ、大きいんですか?」
僕が聞くと、農家の旦那さんが答えてくれる。
「これはかなり大きいですね。このサイズのワイルドボアは、10年に一度、仕留められるかどうかですよ」
それを聞いたら、タカオが調子に乗った。
「ふふん。まあ、このワイルドボアは、俺が居なければ倒せなかったからな。俺に感謝して食べてくれ」
そう言うと、親方に
「おう、それなら最後まで面倒をみないとな、解体のやり方を教えてやるぞ!」
「あ、いや、それはちょっと。ユウリ、助けてくれ!」
親方に引きずられるように連れて行かれた。これで、タカオはジャッカロープに引き続き、ワイルドボアの解体も出来るようになるだろう。
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