護衛任務 11

 長い昼休みが終り、ようやく職人さん達が動き出す。手の空いて暇になった僕は、こんな提案を農家さんにしてみる。


「井戸のそばの屋外にも、簡単な炊事場を作ってもいいですか? 井戸が近いと、水仕事が楽ですし、天ぷらなどの油を使った料理は、へたをすると火事になるかもしれませんから、外で調理をした方が良いかもしれません」


「良いですよ。土地は余っているので、自由に作ってみて下さい」


 こうして、炊事場を作る許可をもらった。



 炊事場を作ると言っても、僕は職人さんのようなスキルは無い。使えそうなのは、『石の壁』という建築魔法だけだが、この魔法だけでも、ある程度の物は作れると思う。


 タカオが僕に言う。


「始めは、簡単な形の方が良いよな?」


「うんそうだね」


「それだったら、テーブルを作ってみないか? このくらいの大きさでどうだろう?」


 タカオは木の棒を拾うと、地面に四角形を描く。その大きさは、長さは1.5メートル、幅50センチほど。作業台としては、手頃な大きさだろう。



「じゃあ、石の壁を出現させるね」


 魔法を唱えようとした時だ、タカオがそれを止める。


「ちょっとまった。どうせ石を出すなら、大理石だいりせきみたいな、高級そうな石にしてみないか?」


「えっ? どうだろう、それはちょっと無理じゃないかな?」


「まあ、とりあえず、やるだけやってみようぜ」


「分ったよ。では、白く美しい『石の壁』よ、ここに現われたまえ!」



 僕が、壁の大きさをイメージしながら呪文を唱えると、白い石が地中から出てきた。

 その石は、大理石とまでは行かなかったが、白くて表面が滑らかで、御影石みかげいしのような、かなり高級っぽい石だ。


 タカオは、この石をペチペチと叩きながら、感想を言う。


「なかなか高そうな石だ。良いんじゃないかな、墓石はかいしみたいだけど」


 墓石に例えるのは、かなり酷いんじゃないだろうか。まあ、確かに、そう見えなくもないけれど……



 タカオが再び、地面に線を引きながら言う。


「次はかまどだな、大きさはこのくらいのかな。そういえば、石の壁の魔法って、単純な四角形だけじゃなく、複雑な形もできるのか?」


「うーん、どうだろう? 石を組み合わせて、かまどみたいな物を作ろうと思ってたんだけど……」


「一つの石でできるか試してみようぜ。箱みたいな形で、上に鍋をはめるような丸い穴をあけておけば大丈夫だろう」


「分った。上部に丸い穴が空いた、中が空洞の白く美しい『石の壁』よ。ここに現われたまえ!」


 形をイメージして呪文を唱えると、その形どおりの石が地中から生えてきた。



 タカオが生えてきた石のかまどを、確認しながら言う。


「これは完璧な『かまど』だな。魔法だけでこれだけの物が出せるなら、石を加工する職人さんは失業するんじゃないか?」


「うん、まあ、そうだね。こんなに簡単に作られると…… 失業するだろうね」


 僕も自分の作った物を確認するのだが、我ながら完璧な出来栄えだ。


「このレベルで出来るなら、もっと色んな物が作れるんじゃないか? 水周りのシンクとか、オーブンとか、燻製くんせいを作るヤツとか、手当たり次第に作ってみようぜ」


「うん、できるだけやってみるよ」


 僕はタカオのリクエストに応えて、大型のシンクとピザ釜のようなオーブン、大型冷蔵庫くらいはありそうな燻製の装置を作り上げる。魔法に慣れて来たのか、かなり複雑な物も作れるみたいだ。



 出来上がった品々を見て、タカオは更にリクエストをしてくる。


「これなら風呂も作れるんじゃないか?」


「さすがに風呂釜は無理だと思うけど、湯船くらいは作れると思うよ」


「じゃあ、作っちまうか、露天風呂」


「そうだね。2人くらいが入れそうな大きさの作っちゃおうか」


 こうして、僕らは田舎の農家さんの庭先に、キッチンとお風呂のショールームのような空間を作り出した。



 作業が終わると、出来たばかりのかまどで、お湯を沸かし、お茶を飲む。

 一息ついて、作り出した物を見て思う。これは、やりすぎたかもしれない……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る