護衛任務 10
午前中の狩りを終えて、僕らは農家さんの家に戻ってきた。
仕留めた獲物は、かなり大きなワイルドボアが一匹。職人さん達はかなり食べるのだが、これだけ肉があれば当分は持つだろう。
家に戻ってくると、建てている
職人さんたちは休憩をしていて、親方は僕らを見ると、声をかけて来た。
「狩りのほうは上手くいったか?」
すると、タカオが得意気に言う。
「おう。ワイルドボアを仕留めてきたぜ! みんなで晩飯にでも喰おう!」
「そいつは楽しみだ。ところで昼飯はどうするんだ? お嬢ちゃん達が疲れているなら、俺たちが適当に作っても良いぞ」
職人さんたちの料理は、腹は膨れるけど、そこまでは美味しくない。ここは僕が作った方が良いだろう。
「僕が作りますよ。簡単な料理ですけど」
「そいつぁ助かる。手伝いがいるなら、いつでも指示をしてくれ」
親方が上機嫌で答える。どうやら僕の料理を、かなり楽しみにしてくれているようだ。
太陽の高さと影の短さから、時刻はおそらく昼に近い。料理は時間をかけなくても出来る物が良いだろう。
お手軽に出来る料理と言えば、やはり麺類だ。僕は街にいる時に買った、スパゲッティの麺を使う事にした。この麺を使って、野菜に合う、焼きそばを作ろうと思う。
タカオと建築ギルドの人たちに、野菜をおおざっぱに切ってもらう。その間、僕は鍋を二つ出す。
一つ目は普通の大きな鍋。こちらは湯を沸かして、スパゲッティを茹でる。
二つ目は、エルビルト・シオールに変身してもらった中華鍋。これで色々な物を炒めて行く予定だ。
スパゲッティを茹でるには、大量のお湯が必要になり、それには時間が掛かる。その間に、僕は中華鍋を振るい、野菜とジャッカロープの肉を炒めて、野菜炒めのような料理を作っていく。
やがてお湯が沸き、スパゲッティを茹で始める。スパゲッティの麺は、焼きそばの麺とはだいぶ違うのだが、エルビルト・シオールが居れば、まあ何とかなるだろう。
野菜炒めが出来上がると、いったん、別の容器に移し、スパゲッティが茹で上がるのを待つ。
やがてスパゲッティが茹で上がると、いよいよ焼きそばを仕上げていく。麺を中華鍋に移し、適量の野菜炒めと合わせて、ウスターソースをメインに、塩、コショウで味付けをしていく。
「
「マイ・ロード、ソースが焦げてしまいます。中華鍋を素早く振ってください。コツは、鍋を手前に引くような感じです」
「マイ・ロード、隠し味にバターと味噌を少々入れましょう。コクがついて、より一層、おいしく仕上がります」
鍋を振り回し始めると、2~3分くらいで焼きそばが出来上がった。大皿に盛り付け、みんなの前に出す。
「おお、これは美味そうな匂いだな」
「食欲のそそる匂いですね」
いつの間にか農家さんの一家も食卓に来ていた。お子さんが、とても食べたそうにしていたので、あまり待たせるのもかわいそうだ。
「先に食べていて下さい。僕はお代わりを作り始めるので」
この中華鍋は、そこそこ大きいが、それでも一度に作れるのは4~5人前ほどだ。鍋の汚れを水で手早く洗い流すと、2回目の焼きそばを作り始める。
この様子を見て、親方が言う。
「いや、先に食べるのはユウリお嬢ちゃんに申し訳ねぇ。出来上がるまで待ってるわ」
「いえ、温かいうちにどうぞ」
僕がそう答えると、まっ先にタカオが手を付ける。
「いただきます。おー、うめぇな、コレ」
「あっずるいぞ、俺にもよこせ」
いつも頭を殴られている若手の人も、手を出した。これをきっかけに、みんな争うように食べ始めた。
「美味い」「ウマイ」と言っている横で、僕は鍋を振り続ける。2回目のお代わりを大皿に盛り付け、3回目に取りかかる。やがて3回目が出来ると、4回目に取りかかる……
4回目を盛り終えた時。みんなの食欲が凄すぎて、スパゲッティの麺が足りない事に気がつく。ここに居る人数は15人ほどで、麺は25人分はあったハズなのだが、足りそうにない。そこで、僕はある方法を思いついた。
「タカオ、朝に作ったパンがまだ残っていたよね。このままじゃ麺が足りないのでアレを使うよ」
「おう分ったぜ、軽く焼いて、切れ目を入れれば良いんだな」
「そう、準備をよろしくね」
これを聞いて、職人さんと農家さん達の期待が高まる。
「また別の料理があるのかな?」「今度はどんな料理が出てくるのだろう?」
期待を裏切って申し訳ないが、出す料理は変らない。ただ、少し味を濃いめにして、パンの間に挟んで出すだけだ。
「どうぞ」
僕が焼きそばパンを出すと、タカオ意外の人が固まった。
「なんだ、これは?」「麺は主食で、パンも主食。主食で主食を挟むなんて……」
それまでの食欲が嘘だったみたいに手が止まる。異世界の人からみると、ご飯にご飯を挟んでいるような感覚なのだろう。見慣れないモノを見て、
そんな中で、農家のお子さんが、タカオに質問をする。
「これ、食べて良いんだよね?」
「おう。良いぞ。これはまた違ったうまさがあるぞ」
「じゃあ、いただきます。うん、おいしい、これ」
「俺も!」「こっちにもくれ!」「足りないぞ!」
「ああ、待ってください。追加で作るので」
こうして、パンを加える事により、どうにかみんなの食欲を満たせた。
ただ、食べさせすぎたようで。昼食後の食休みがかなり長くなってしまった。今度からは出す量に気をつけよう。
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