護衛任務 9

 建築ギルドの人たちの仕事が始まると、僕たちは暇になる。

 そこで、農家さんに話をして、家の周りの土で出来たへいを、石の壁にする許可を取った。

『石の壁』を作る魔法の良い練習になると思ったからだ。


沈降ちんこう』と『整地せいち』で土の塀を地面に戻した後、『石の壁』の魔法を使って、新たに頑丈な石の塀をつくる。

 魔法なので、作業はあっという間に進んでいく。1時間もしないうちに、塀はすべて石の壁に置き換わり。僕らは本格的に暇になった。



 暇に耐えかねて、タカオが言う。


「昨日みたいにジャッカロープでも狩りに行こうぜ」


「それなら、親方に許可を取らないと」


 親方に話をすると、直ぐに許可が下りた。僕たちは良い狩り場を聞くため、農家さんに場所を聞きに行く。すると、こんな話をされた。


「東の森沿いの辺りが酷いのですが、あの辺にはワイルドボアが出現します。たまに大きい個体が出るので気をつけて下さい。まあ、こちらから挑発ちょうはつしなければ、襲ってこないと思いますけど」


「大丈夫です。俺たちが小さいヤツだろうが、デカいヤツだろうが倒してやりますよ。任せて下さい」


 タカオが胸をはって答える。


 ワイルドボアとは、イノシシの事だ。イノシシは、日本に居る時に見たことがあるが、大きさは、せいぜい大型犬くらいだろう。たぶん、たいした敵ではない。


 僕らは手を振って、農家さんの家を出た。



 家の周りの農道を、僕らはジャッカロープやワイルドボアを探しながら、ゆっくりと歩いて行く。

 ここの農家さんは、かなり大きな畑を持っている。10分ほど歩いただろうか、森が見えてきた。これが東の森だろう。僕らは歩く速度をさらに落として、慎重に進んで行った。



 森沿いに進む事、およそ15分。一匹のイノシシが見えた。

 あれがワイルドボアだろう。ワイルドボアは、畑を掘り起こして、芋か何かを夢中で食べている。


「よし、今すぐ俺が倒してやるぜ!」


 タカオはそう言いながら、ワイルドボアに向って突進して行く。慌てて僕も後を追う。



 近づいて行くと、僕は違和感を感じ始めた。それは、ワイルドボアが思っていた以上に大きかったからだ。犬ぐらいだと予想していた大きさは、ロバよりも大きく、子牛ほどはありそうだ。


「ふふん。俺が全力で相手するのに、ちょうど良さそうだ。おい、そこの雑魚。今から退治たいじしてやるぞ!」


 ワイルドボアに向って、啖呵たんかを切るタカオ。ワイルドボアはチラッとタカオの方を見て。鼻をフンと鳴らす。そして、低い姿勢を取り、コチラに突っ込んできた。


「上等だ、やってやるよ!」


 そう言ってタカオも突っ込んで行く。



 ワイルドボアは、大きな牙が生えていて、アレを喰らえば大ケガをするだろう。タカオが避けられればいいのだが、大丈夫だろうか?

 心配している間にも、一匹と一人は、見る間に距離を縮めて行く。

 スピード、勢い、体重と、全てにおいてワイルドボアの方が上だ。このままではタカオは跳ね飛ばされる。そう思った僕に、一つの解決法が思いついた。


「そびえ立て『石の壁』」


 僕が呪文を唱えると、一匹と一人の間をはばむように、ぶ厚い石の壁が現われる。

 急に出現した壁に、ワイルドボアは止まれず、思いっきりぶつかった。

 ドスンという音がした直後に「グゥ」と鳴き声をあげ、ワイルドボアはそのまま倒れる。どうやら気絶したようだ。


 その後に、ペチッと音がして「ごふっ」とタカオが鈍い声をあげた。こちらは、鼻を押さえて、うずくまっている。


 僕はびているワイルドボアの頭に、メイスで一撃を入れ、トドメを刺す。

 タカオの方は小さなケガをしているようなので、とりあえずヒールを掛けておけば大丈夫だろう。



 タカオが鼻を押さえながら言う。


「ああ痛かった。ユウリ、魔法を使うなら、あらかじめ言ってくれよ~」


「タカオがいきなり突っ込んで行くから、言う暇がなかったんだよ。それより見てよ、この大きなイノシシ、この突進を喰らったら、もっと大ケガをしていたと思うよ」


 僕はトドメを刺したイノシシを指さす。その大きさは子牛ほど、丸々と太っていて、体重は300キロくらいはありそうだ。これを見て、タカオの顔が青ざめる。


「突進してた時は気がつかなかったけど、こんなにデカかったのか…… 確かにそうだな。ユウリ、助かったよありがとう」


 タカオは親指をあげて、さわやかに笑った。こう素直に感謝されると、小言こごとを言う気が失せてしまう。

 何も言わずにワイルドボアの死体を倉庫魔法で収納すると、僕らは農家さんの家へと帰りはじめた。

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