護衛任務 13

 タカオと親方がワイルドボアをさばいているうちに、僕と農家の奥さんは、お米を炊く。お釜は農家さんの家には無かったが、土鍋と同じような鍋があったので、それを使って炊くことにした。


 お米を炊いている途中。


「火加減が難しいですね。焦がしてしまいそうです」


 と、奥さんから言われたので、僕が。


「焦げてもそれはそれで美味しいですよ。わざと焦がすような料理もあります」


 そんな説明したら、とても不思議な顔をしていた。

 まあ、僕もいきなり焦げた料理が美味しいなんて言われたら、理解ができないだろう。こんど、焼きおにぎりあたりを作って、味わってもらおうと思う。



 ご飯が炊き上がり、炊きたてを倉庫魔法にしまう。すると、解体が終り、弱り切ったタカオが僕のそばにやってきた。


「解体、終わったぜ…… とにかくグロかった、血がどばーっと出て、大変だった」


「お疲れさま。その様子じゃ、当分は肉は食べたくないかな?」


「いや、これだけ苦労したんだ。絶対に喰ってやる! ユウリ、トンカツを作ってくれ! トンカツが食べたい気分なんだ!」


 ワイルドボアとはイノシシだ。豚とは少し違うが、同じ様な種族なので、出来ない事はないだろう。


「分ったよ。じゃあ、晩ご飯はトンカツと、あとは…… 豚汁とんじるでどうだろう?」


「さすがユウリ。じゃあ、後は任せた!」


「いや、ちょっと手伝ってよ。はい、タカオはニンジンの皮を剥いて」


「まあ、それくらいなら良いか。解体に比べれば……」


 こうして僕らはトンカツと豚汁。あと、付け合わせの定番のキャベツの千切りを作った。



 全員の食事が出来上がると、時間がけっこうすぎていたようだ。日が暮れ始め、職人さん達が仕事を切り上げ始めた。作業場を片付けると、親方が僕に聞いてくる。


「ユウリお嬢ちゃん、今晩の飯はなんだい?」


「トンカツというワイルドボアを油で揚げた料理です。今から準備しますね」


 今日、作った石のテーブルに食器を並べて準備をする。さきほどまで手伝ってくれていた奥さんは、家族を呼びに家に戻った。



 しばらくすると、食事の準備が出来上がる。全員が食卓につき、テーブルの上にはトンカツとキャベツの千切り、ご飯と豚汁が並ぶ。僕が軽く食べ方を説明する。


「こちらのトンカツには、このウスターソースをかけて食べてください。かけすぎると、味が濃くなりすぎるので注意して……」


 言っているそばから、タカオがソースをどばどばとかけて食べ始める。


「いただき。うーん、豚と比べると少しクセはあるけど、ウマいな!」


「俺も早く食べたい、そのなんとかソースをかしてくれ!」「いや、俺が先に使うんだ!」


 こうして、慌ただしく食事が始まった。



 食事が始まると、みんな無言で食べ始める。あまりにも無口なので、僕は親方に感想を聞いてみた。


「親方、どうです? 今日の料理は口に合いましたか?」


「ああ、このトンカツという料理は、一口噛むとワイルドボアの肉汁があふれ出てくる。肉も柔らかく、こんな料理は食ったことがない。生のキャベツは、脂っこさを洗い流してくれる。この豚汁というスープは、見た目は泥水みたいで酷いが、味は格別だ。ユウリお嬢ちゃんの作る料理は、相変わらずユグラシドル級の料理だな!」


 そういって、笑ってくれた。どうやら今日の料理も合格らしい。ちなみの、他の人からの感想は、お代わりの要求でなんとなく分った。遠征の為に買い込んだ、ウスターソースが全て無くなったくらだ。あれだけ食べて、マズいという事はないだろう。



 戦いのような食事を終えると、片付けながらタカオがこんな事を言ってくる。


「なあ、ユウリ。せっかく作ったんだから、風呂をわかそうぜ。『洗浄』の魔法だけだと、どうも体を洗った気になれない」


「良いけど、お風呂の順番は、まず農家さん一家が入った後じゃないと」


 そんな話をしていると、農家の旦那さんが、気を使ってくれた。


「私たちは後で良いですよ。先に入って下さい」


「それは悪いですよ」


「実は、我が家にはお風呂が無かった訳ですから、実はあまり使い方が分らないのです」


「わかりました。では、奥さんに教えながら、使わせてもらいますね」



 外のかまどには、料理で使った火が残っていた。僕はそこに大鍋を置いて湯を沸かす。

 浴槽には井戸から水をくんで…… と思ったのだが、僕は水を作る魔法を覚えていた。『製水』の魔法をなんどか使い、浴槽を水で満たす。

 お湯が沸いてくると、大きな柄杓ひしゃくで、浴槽へとお湯をうつしていく。


 湯船の温度をみながら、この作業を行なうこと、およそ30分。ようやくお風呂の準備が出来上がった。

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