護衛任務 3

 昼食が終わると、とうぜん後片付けをする。

 建築ギルドの人が、使った食器を集めて辺りを見渡す。


「親方、井戸とか勝手に使って良いんですよね?」


「ああ、あそこにある井戸を使っていいらしい」


 親方が指さした先には、井戸があるのだが、ギルドの人は苦い顔をしながら答える。


「魔法のポンプも、手押しポンプが無くて、バケツで引き上げるタイプか…… これは面倒くさいな……」


「文句を言わずにさっさと洗っちまえ!」



 そのやり取りを聞いていた僕が、声をかける。


「食器なら僕が洗いましょうか?」


 それを聞いて、親方が反対した。


「いや、うちの連中にやらせるから平気だ」


「いえ、『洗浄せんじょう』の魔法で直ぐに終わりますから」


「それじゃあ、無理しない範囲で頼むわ。『洗浄』の魔法の、MPまじっくぽいんとの消費もバカにならねぇだろうし」


「大丈夫ですよ。全ての食器の汚れを落としたまえ『領域洗浄りょういきせんじょう』」


 僕は魔法の対象を食器に絞り、発動させた。すると食器は汚れが落ちてピカピカになる。やはり魔法は便利すぎる。


「はい、終わりましたよ」


「お、おう。ありがとうな」


「ありがとうございます。すごいですね」


 親方と、皿洗いをしようとしていたギルドの人に感謝された。

 片付けが終わると、いよいよ建築の作業に入る。



 地面に杭を打ち、ロープをピンと張る。どうやら蔵を建てる場所を、正確に計っているようだ。

 僕とタカオはその様子を眺めていると、親方から殴られた若手の人が、僕らに向って言う。


「ほら、見せ物じゃないんだぞ。じゃまだ、引っ込んでろ!」


「おめぇは、そんな口の利き方をするんじゃねぇ!」


「あいたっ!」


 また親方に殴られた。ゴッっと良い音がしたので、かなり痛そうだ。



 親方は僕らに、これから行なう作業を説明してくれる。


「まずは建設する場所を決めて、ロープを張るんだ。そして、その場所の地面を整地する。地面がしっかりしてないと、後で建物が歪んだりするからな」


 僕が親方に質問をする。


「整地の作業って、大変なんですか?」


「ああ、10人がかりで1~2日はかかるだろう。土を入れて、地道じみちに踏み固めなくちゃならねぇからな。『整地』の魔法でも持っていれば、話は変ってくるんだが……」



 それを聞いて、タカオが言う。


「ユウリは『整地』の魔法を持ってるぜ」


「えっ、本当か?」


 親方は驚いた表情で僕に聞いてくる。


「はい、いちおう使えます。まだあまり使った事がなくて、建築につかうのはちょっと不安ですが……」


「最終的なチェックは俺たちでやる。試しに使ってみてくれ」


「地面を少し盛り上げて、水が入ってこないようにした方がいいですかね?」


「ああ、30センチほど盛り上げるのが理想だな」


「では、地面よ30センチほど『隆起りゅうき』して、平らに硬くなれ『整地せいち』」


 僕が呪文を唱えると、地面が盛り上がった後に、平らに押し固められた。


 ギルドの人たちが、驚いた表情を見せる。中でも、親方によく殴られている若手の人は、あんぐりと口を開けて、放心状態ほうしんじょうたいだ。



 親方がギルド員に指示を飛ばす。


「ほら、ぼさっとしてねぇで、水平の確認と、地面の固さの確認をしろ」


「は、はい」「直ぐにやります!」


 地面の傾きを測ったり、固さを確認して、しばらくするとOKサインが出た。


「親方、バッチリです。まったく問題ありません」


「お、おう。ユウリのお嬢ちゃん、ありがとうな。次の作業は、基礎になる石壁を作る作業だ。そこら辺から石を集めて作るんだが、これがまた大変なんだ。重労働で1~2日はかかるかな」



 すると、タカオが親方に言う。


「ユウリは『石の壁』って魔法も覚えているぜ。役に立つんじゃないのか?」


「あっ、まだ実際に魔法を使った事はないですが、確かに役に立つかもしれませんね」


 親方が、あきれながら言う。


「是非、やってみてくれ。たとえ、石壁として出来が酷くても、石材として使えるから、石を集める手間が省ける」


「それならちょっと練習してからで良いですか?」



 この農家さんは、道路と住宅の間に土の壁があるのだが、いくつか崩れかけている場所があった。

 親方は、その1つを指さして、こう言った。


「そこの崩れかけた壁を作り直せば良いんじゃないか?」


「わかりました。では、まず土壁よ、大地に戻れ『沈降』。永きにわたり我らを守れ、そびえ立て『石の壁』」


 土壁を平らな土地に戻してから、石の壁を建てる。石の壁は、ちょっとゴツゴツとして見た目はあまり良く無いが、厚さは30センチを超えているので、かなり頑丈そうだ。



 僕は何度か練習をしてから、親方に言う。


「本番で試してみても良いですか?」


「おう、失敗しても俺らが直すから、ドンとやれ!」


「永きにわたり、建物のいしずえとなり、我らの支えたまえ『石の壁』」


 僕は張ってあるロープにそって、石の壁を作る。練習を何度かしたので、ほぼイメージ通りに作る事ができた。建物の土台の部分が出来ると、ギルドの人たちが、すぐに測定に入る。


「バッチリです。これ以上はないくらい完璧な仕上がりです」


 それを聞いて、親方が言う。


「おう、ユウリお嬢ちゃん、ありがとうな。もう3日分くらいの仕事が終わっちまった」


 タカオが調子にのって親方に言う。


「これは、報酬を上乗せしても良いんじゃないかな?」


「そうだな。上乗せさせて貰うわ。次に、この手の仕事が来たときも依頼するから、よろしく頼むわ」


「まいどあり~ 次もよろしく」


 ……本当にタカオは調子が良い。

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