護衛任務 2

 3台の荷馬車と全てのギルド員が揃うと、親方が今日の予定を説明してくれる。


「依頼主は、ここから南西に歩いて4時間ほどの場所にある農家さんだ。普通に歩けば4時間だが、ごらんの通り、荷物を満載しているので、そんなに早くは移動できねぇ。おそらく7時間くらいはかかるだろう。到着するのは夕方近くだろうから、着いたら建物を建てる下準備をして、今日は終りだな」


 先ほど頭を殴られていた若手の人が、親方に言う。


「俺たちの荷作りした馬車は荷物が少ないんで、他の馬車から荷物を移動させますか?」


「そうだな。バランスよく荷物を配置すれば、少しは早く到着できるな」



 そのやり取りを聞いて、タカオがこんな事を言う。


「それだったらユウリの倉庫魔法に、荷物を詰め込めるだけ詰め込んで、のこりを荷馬車に振り分ければ良いんじゃないか?」


「おう、そうしてもらえれば助かるが、倉庫魔法ってやつは、あまり容量が無いんだろ?」


 親方に言われて、僕が答える。


「とりあえずやってみますか?」


 3つある荷馬車のうちの、最後に到着した馬車。半分ほどしかない荷馬車の荷物を、倉庫魔法でしまってみる。魔法を発動させると、木材がふっと消えてなくなった。



 タカオが残った二台の荷馬車を指さしながら言った。


「もう、めんどくさいから、馬車ごとしまったらどうだ?」


「あっ、うん。やってみるよ」


 荷馬車にターゲットをあわせて、倉庫魔法にしまう。すると荷馬車は音も無く消える。ステータスなどを確認できる『神託しんたくスクリーン』で、こっそりと確認をすると、ちゃんと材木の塊と、荷馬車が2台、リストに追加されていた。問題なさそうだ。


 親方が驚きながら言う。


「お、おう。すげぇ容量だな。じゃあ、とりあえず出発するか」



 荷馬車を引く為に3頭のロバがいるのだが、仕事が無くなってしまった。

 空の荷馬車に2頭をつなぎ、もう1頭はそのまま手綱たづなを握って連れて行く。


 親方が空の荷馬車を見て、僕らに言う。


「荷馬車だが、乗っていくか?」


 すると、タカオがその提案に飛びつく。


「おう。一度、馬車にのってみたかったんだ。ユウリも乗ろうぜ」


「いや、僕はいいよ……」



 すると、親方が気を使って、こんな事を聞いてくる。


「じゃあ、ユウリお嬢ちゃんは、ロバに乗ってみるか?」


「えっ、いえ、乗馬の経験とかありませんし……」


「大丈夫だ、こいつはおとなしいし、手綱を握ってるヤツもいる。心配はいらねぇよ」


「あっ、はい。それではお言葉に甘えます」


 少し小柄なロバの背にまたがり、僕らは出発する。



 田舎道をのんびりと進む。このロバはあまり大きくないが、それでも視線はかなり高くなる。いつもと違った視線を楽しみながら、流れる風景を楽しむ。


 途中、何度か休憩を挟みながら、4時間後には目的の農家にたどり着いた。

 親方が、ちょっと戸惑とまどいながら言う。


「昼過ぎに着いちまったな。夕方近くに着く予定だったんだが…… まぁ、早い分には良いか。野郎ども飯にするぞ! ユウリお嬢ちゃん、倉庫魔法にしまった荷物を出してくれ。俺は、いったん施工主せこうぬしに挨拶してくる」


 僕は倉庫魔法から荷物を取り出すと、ギルド員のみなさんが食事の準備をする。



 準備をしている間に、タカオが僕の近くによって来た。


「ユ、ユウリ。ヒールを頼む、ケツが痛くて仕方がない。馬車なんて最悪だ」


「まあ、荷馬車だから乗り心地は悪いだろうね。タカオのお尻を癒したまえ『回復の息吹ヒール』」


「おお、痛みが引いた、さすがユウリ。そういえばロバの乗り心地はどうだった?」


「高くて初めは怖かったけど、なれてくると楽しくなってきたよ。大人しいロバだったし」


「ふーん。おれも帰りはロバに乗せてもらおうかな」



 そんな話をしている間に、建築ギルドの人たちは、すこし遅めの昼食の準備を進めていた。

 レジャーシートのような布を広げ、パンを切り、豪快にハムと野菜を挟む。どうやら昼食はサンドイッチらしい。準備が終わる頃に、施工主に挨拶を終えた親方が戻ってきた。


「親方~、飯が出来ました!」


「よし、喰うか。全員に配れ!」


 サッカーボールを半分くらいにしたような、馬鹿でかいサンドイッチが配られる。もちろん、僕やタカオにも渡された。サンドイッチをもらった時の第一印象は、味や見た目の印象ではなく、『重い』だった。僕ははたしてコレを食べられるだろうか?


「全員に行き渡ったな、よし喰うぞ。いただきます!」


「「「いただきます!」」」


 親方の合図と共に、むさぼるように食べ始める。僕も少し遅れて食べ始めた。



 ゴワゴワとしたパンに、ステーキのような厚さのハム。レタスは芯が残っていて、食べているとあごが疲れてきた。かなり荒っぽい料理だが、味はそんなに酷くはない。飲み物で流し込むようにして、なんとか食べ切ると、もうお腹いっぱいだ、動けない。


「た、食べ過ぎた」


「ユウリ、俺もだ」


 2人で苦しそうにしていると、ギルドの人が声を掛けてくれる。


「俺たちと同じ量だと多すぎたか。次からは、もう少し減らすから安心してくれ」



 それを聞いて、タカオはこう答えた。


「うーん、そうだな。この料理のレベルなら、ユウリに料理してもらった方が良いんじゃないか?」


 他人の料理にケチをつけるような発言に、僕は慌ててフォローする。


「そんな言い方はないでしょう。充分美味しいじゃない」


 すると、料理を作った人は、笑いながらこう言った。


「俺たちの料理は適当だからな。料理をしてくれた方が助かるよ」


「じゃあ、ここに居る間はユウリが料理をするって事で決定だな」


 タカオが勝手に約束をしてしまう。


「うーん。まあ、良いけど……」


 目的地についたので、僕たちの仕事は暇だ。

 やる事はせいぜい見張りくらいなものだろう。こんな畑の真ん中で、敵なんてこないと思うけど。



 こうして食事が終わると、いよいよ建設の下準備に入る。

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