護衛任務 1

 9日目。今日から建築ギルドの護衛の任務に入る。

 僕らはいつもより早く起きて、食事を済ませ、受付のエノーラさんに挨拶をしてから城門の外に向った。


 今の時間は午前の7時30くらいだろうか。待ち合わせの時間は8時で、30分ほど早く到着したのだが、すでに建築ギルドのアンドレアン親方が待っていた。僕が慌てて挨拶をする。


「おはようございます。すいません、遅れました」


「いや、まだ集合時間よりはやいだろ。冒険者ってのは、時間にルーズな連中が多いから、時間を守ってもらえるだけでもありがてぇよ」



 タカオが辺りを見回しながら、張り切って言う。


「俺たちは、ギルドの人たちと、あの馬車を守れば良いんだな?」


 アンドレアン親方以外にも、職人さんが6人いる。他に工具や木材などを満載した荷馬車にばしゃが2台あった。


「いや、あと一台、荷馬車があるんだ。若手の連中が、今ごろ急いで荷物を準備しているはずだ。昨日のうちにやっとけって言っておいたんだがな、まったく……」


 アンドレアン親方が、ちょっとイラッとしながら言った。まあ、若手の人たちは、当日に何とかなると思ったのだろう。


「あっ、僕、倉庫魔法で荷物が収納できるんで、少しお手伝いをしましょうか?」


「おう、それなら頼む。クリフ、ギルドの工房の場所を、案内をしてやってくれ」


 僕らはクリフさんに連れられて、街の中へと戻った。



「こちらです。私についてきて下さい」


 このクリフさん。僕らかこの世界に来たとき、足を骨折してギルドに運び込まれて、僕が治療した人だった。やはり足の調子が気になるので、聞いてみる。


「足の調子はどうですか? 痛かったりしませんか?」


「いえ、すこぶる快調です。怪我をする前より調子が良いですね。実は3年ほど前、肩をやってしまって、あまり腕が上がらなかったのですが、そちらもすっかり治っていました」


「それは良かったです」


 僕はひと安心する、どうやらちゃんと治っていたようだ。



 城壁沿じょうへきぞいに、約5分くらい歩いていくと、大きな建物が見えてきた。クリフさんが指さしながら言う。


「あれが建築ギルドです」


 建物の中に入ってみると、5人ほどの人が、忙しそうに動き回っている。


「やべぇ、遅れる」


「だから、昨日のうちにやっておこうって言ったんだ」


「しょうがないだろ。早めに仕事を切り上げて、一杯やりたかったんだから」


「あー、もう終わらねぇ、親方に怒られる~」


 積んである材木を馬車の荷台に乗せているのだが、かなりの量なので、まだまだ時間が掛かりそうだ。



 クリフさんが声を張り上げて言う。


「助っ人に来てもらった、冒険者のタカオさんと、ユウリさんだ。ユウリさんは倉庫魔法が使えるぞ!」


 そう言うと、荷物を運びながら、若手の人が皮肉っぽくこう言った。


「倉庫魔法なんて、たいして量が入らないだろ。そこにある道具箱でも収納してくれ」


 それを聞いて、タカオが得意気に言う。


「ユウリ、やっちまえ。倉庫魔法だ!」



 僕は床に積み上げられた材木を指さして、クリフさんに確認する。


「これを全部、乗せるんですよね?」


「ああ、そうです。全て持っていきます」


「では、収納します」


 僕は倉庫魔法を発動して中に入れる。床の材木は、パッと光って全部が消えた。


「うおっ、嘘だろ」


 さきほど皮肉を言った人が驚いて、動きがとまった。ほかの人も驚いていたのだが、その表情は、やがて喜びに変る。


「助かった。早く親方の場所に行くぞ、これで怒られなくて済む!」


 急いで馬車にロバを繋いで、城門の方へと向う。



 馬車で城門の外に出ると、さきほど皮肉を言った人が、意気揚々いきようようと親方に報告する。


「間に合いましたよ親方。どうです、大丈夫だったでしょう?」


「ギリギリじゃねーか。昨日の夜にやっとかねーからだ!」


 親方はゴチンと頭を殴る。若手の人が涙目になりながら文句を言う。


「そんな、間に合ったのに……」



「おや? 材木があきらかに少ないな。乗せ忘れか、この野郎!」


 若手の人がまた頭を小突こづかれた。


「痛! ちゃんと持ってきましたって!」


 クリフさんが親方に報告する。


「残りの木材は、ユウリさんの倉庫魔法に入ってます。ユウリさんの倉庫魔法が無かったら、間に合わずに遅れていたでしょうね」


「間に合ってねーじゃねぇか!」


「いってぇ!」


 若手の人がまた殴られた。それを見てタカオがボソッと言った。


「俺、大工にはなれないな……」


 確かに、計画性の無いタカオは頻繁ひんぱんに殴られそうだ。あきらかに向いていないだろう。

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