護衛任務 4

 土台の部分が出来上がると、いよいよくらを建て始める。

 四隅に柱を立ててから、横に伸ばすように建物の骨組みあげていく。

 この段階に入ると、僕が出来る作業は無い。ただ、黙って見ているだけだ。



 僕らは、護衛という目的で雇われている。

 周りを警戒してみるのだが、街からだいぶ離れたこの場所に、警戒すべき物は全くなかった。街道に他に人は通らないし、見晴らしのよい畑に動物の影は無い。


 この状態に、タカオは10分と耐えられなかった。


「……暇だ、ユウリ、ジャッカロープでも狩りに行こうぜ」


「ダメだよ。護衛の任務でここに来てるんだから、持ち場を離れちゃ」


 そんな話をしていると、建築ギルドの親方が、こう言ってくれた。


「行ってきても良いぞ。護衛はそもそも、移動中に動物に襲われた時に、戦ってもらう為に雇ったんだ。もう目的地に着いちまっているから、大丈夫だろ」


「よし、じゃあジャッカロープを狩ってくるぜ。行こうぜユウリ」


「あっ、はい、すいません。じゃあ、行ってきます」


 タカオが飛び出すように出て行ったので、僕も慌てて追いかける。まあ、確かにこれだけ平和だと、問題は起こらなそうだ。



 歩き始めて30分くらいだろうか、1匹目のジャッカロープを発見した。ジャッカロープは無防備むぼうびなかっこうで寝転んでいる。どうやら昼寝をしているらしく、こちらには気がついていないようだ。


「俺に任せろ」


 そう言って、タカオはゆっくりと忍び足で近づいて行く。

 タカオは、歩いて行く途中で、何度か小さな音を立ててしまったが、ジャッカロープは起きる事がなく、タカオの攻撃によって、仕留められた。


「おっ、上手くいった。ユウリ、収納してくれ」


 僕はジャッカロープを倉庫魔法に収納すると、次の獲物を見つけて、再び歩き始めた。



 ジャッカロープを倒してから、さらに30分くらい歩いた。たが、他にジャッカロープは見当たらない。

 これ以上進むと、戻るのに時間がかかりすぎるので引き返す。

 結局、狩りに成功したのは1匹だけだった。



 農家さんの場所に戻ると、建築ギルドの人たちが、お茶を飲んで休憩をしていた。

 建物の骨組みは、大体できていて、蔵の形がそれとなく出来上がっている。


 僕は親方に声をかける。


「早いですね。もう形が出来上がってます」


「おう。誰かさんが基礎をあっという間に作ってくれたからな。普通はここまで4日くらいかかるんだぜ」


「いやぁ、まあ、お役にたてたみたいで、何よりです」


 僕が照れながら返事をする。なんとなく取ったスキルが、ここまで役に立つとは思わなかった。



「狩りの方はどうだった? 上手くいったのか?」


 親方に聞かれて、さえない顔タカオが答える。


「いや、1匹しか狩れなかったんだ。もっと狩れるかと思ったんだけど……」


「1匹でも狩れれば上等じゃねぇか。今晩のおかずにでもするんだろ?」


「俺たち、解体スキルをもってないから、肉にできないんだよ……」


「冒険者なのに、解体もできないのか。よし、俺が教えてやるよ」


「いや、ちょっとグロいのは……」

 


 親方が笑顔を浮かべながら、簡単に言う。


「こういったヤツは、慣れれば平気だ。狩ってきた獲物はどこにある?」


「ここにあります」


 僕は倉庫魔法からジャッカロープの死体を取り出す。親方は片手でそれをつかむと、もう片方の手でタカオの肩をガッチリと捕まえた。


「じゃあ、いっちょ解体するか。ユウリお嬢ちゃんも一緒に解体するかい?」


「僕は魔法専門なんで、ちょっとそういうのは……」


「わかった。じゃあタカオお嬢ちゃん、あっちでパパッとやっちまうか」


「いや、ちょっと、待って…… た、助けてユウリ~」


 タカオはズルズルと引きずられるように連れて行かれた。解体があれば便利だ。ここはタカオに覚えてもらおう。

 僕は手を振ってタカオを送り出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る