冒険者ランク 7

 照り焼きソースが出来たので、次は食材を焼く段階に入った。

 喋る神器、エルビルト・シオールは、鍋なので、焼く調理はできない。ここから先はオーブンの出番だ。


「次はオーブンで焼く作業だよね。オーブンのある調理場に移動しないと」


 そう言って、移動の準備を始めようとすると、それをエルビルト・シオールが止める。


マイ我がロード主よ、移動する必要はありません。我をお使い下さい」


「えっ? 鍋なのに焼いたりできるの?」


「はい、こちらで」


 エルビルト・シオールが光り、形が変る。光が収まると、そこには無骨ぶこつで頑丈そうな鍋があった。エルビルト・シオールが得意気に話す。


「こちら、『ダッジオーブン』という、オーブン調理が出来る鍋となっております。煮る、蒸す、焼くと、何でもできる鍋でございます」


「おお、凄い。じゃあ、お願いするね」



 タカオが、ジャッカロープが3匹入った、大きなバケツをもって、やってきた。


「持ってきたぜ、ユウリ。とりあえず、そこのテーブルに降ろすぞ」


 重そうにバケツを降ろす。ジャッカロープは、頭と手足を落とされて、皮をはがされ丸裸の状態だ。3匹分の調理は、ちょっと大変そうなので、ギルドの調理人をよんで手伝ってもらう。

 職員の人に、この料理の作り方を覚えてもらえれば、食堂に照り焼きチキンとかが並ぶかもしれない。


 ジャッカロープのお腹の水分を、丁寧に拭き取り、そこに餅米を詰める。糸で縛り、照り焼きソースを塗り、少し揉み込む。あとはダッジオーブンに入れれば準備完了だ。


「野菜も少しいれてみようか」


 思ったより早く終わったので、タマネギ、カボチャ、ピーマン、ナス、などにも照り焼きソースを塗り、鍋の中に入れて、火に掛ける。



「マイ・ロード、蓋をして、その上に燃えている炭を乗せて下さい。それで、まんべんなく熱が伝わります」


「わかったよ。こうすれば良いんだね」


 鍋の蓋は、ちゃんと炭が乗せられるように、へこみがついていて、その部分に赤くなった炭を乗せる。


 ギルドの調理人さん達が言う。


「これだけで良いんですか?」「簡単ですね」


「そうですね。簡単な料理だと思います。あとは僕が火の様子を見ておくので、調理場にもどって頂いて構いませんよ」


「失礼します」「また、料理を教えて下さいね」


 ギルドの人たちは職場に戻っていった。あとは、僕がエルビルト・シオールに従い、火の調整をするだけだ。


「マイ・ロード、少し弱めに」「マイ・ロード、今度はすこし強めでお願いします」「マイ・ロード、蓋の上の炭を補充して下さい」「マイ・ロード、おめでとうございます。完成しました」


 火の調整をし続ける事、およそ50分。ようやく料理が出来上がった。



 重い鉄でできた蓋を開けると、香ばしい醤油のにおいが辺りを漂う。すると、やる事がなくて、ウトウトと寝りかけていたタカオが、急に跳ね起きた。


「うまそうなニオイだな。ユウリ、食べさせてくれ」


「ダメだよ、これは職員用の食事なんだから」


「まだ味見をしていないんだろう?」


「うん、そうだけど」


「出来上がりを確認しないとダメだろ。味の調整とかも必要かもしれないし」


 タカオは、理由を付けて試食をしようとしてきた。まあ、確かに味見は必要かもしれない。


「わかったよ。じゃあ、一口だけね」



 料理を少しだけ切り分けて、それを口にした。


 香ばしい、パリッとした皮を、一口噛むと、中から旨みと肉汁が飛び出てくる。


「おお、これはウマい!」


「おいしいね」


「でも、よく味が分らなかった部分もあるな。もう一口だけくれ」


「これ以上はダメだよ。どうしても食べたいなら、ピーマンの試食をしてみる」


「……ピーマンは要らないや」


 試食といって、たくさん食べようとするタカオを僕は止めた。僕たちには、別の料理が待っている。



 焼きたてのジャッカロープと、付け合わせの野菜を倉庫魔法でしまうと、僕は次の料理に取りかかる。


「これから、僕たちの『ぶり大根』を作るから、そっちはお腹いっぱい食べていいよ」


「おお、さすがユウリ。俺に手伝う作業はあるかな?」


「じゃあ、皮むき器ピーラーで、大根の皮をいてよ」


「おう、そのくらいなら任せておけ!」



 僕は買ってきた、ブリの身を切り分ける。

 今回は、一匹の半分を使う。小さく切り分けていくと、およそ20人前になった。


「マイ・ロード、お任せ下さい」


 エルビルト・シオールが光り、圧力鍋に変る。

 そこにブリと、切った大根を6本分を入れ、水、醤油、酒、砂糖、ショウガを少しいれて、蓋をして火にかけた。

 火の調整をし続けて、およそ30分。僕らのぶり大根が出来上がった。

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