冒険者ランク 6

 市場で食材を買いあさった僕たちは、スーパーにも行く。醤油しょうゆ味噌みそ、日本のお米など、ちょっと特種なものは市場では手に入らないからだ。


 入り口でカゴを手に取ると、僕らは店の中に入る。すると、前回に来たときと、比べものにならないくらい店が混んでいた。

 今日は特売日なのだろうか? そんな事を思いながら、僕らは目当ての食材をカゴの中に入れていく。


 やがて魚のコーナーに来たときだ。この混雑の原因が分った。氷で冷やされた海の魚が、山のようにそこにはあり、『月に一度の海魚の日』と、大きな字で書いてあった。



 この街は川魚は売っているのだが、海からかなり遠いらしく、これまで海の魚は今まで見た事がない。もしかして、長い道のりを運んで来たのだろうか? それにしては魚は新鮮で、今日の朝に獲れたような感じがする。


 タカオはそんな疑問を持たずに、魚を物色しはじめた。


「おっ、サンマが売ってるぜ、大根があるから買って行こう。アジやサバも売ってるな、これも良いかも…… うおっ、サンマが一匹で銅貨5枚もする! 他の魚もみんな高いぜ!」


 銅貨5枚というと、およそ500円だ。かなり割高に感じてしまう。



 タカオが声を上げると、店員さんがやってきた。

 おおきな声で『高い』と言ったから、怒られるかと思ったが、タカオに丁寧ていねいに説明をしてくれる。


「お嬢さん、この街は海からかなり離れているのは知ってるよね」


「あ、ああ。なんでも馬車で10日くらいかかるらしいな」


「ここにある魚は、今日の朝に水揚みずあげされた物なんだ。『転送門テレポートゲート』って知ってるかい?」


「近くの魔法のゲートと、遠くにある魔法のゲートを繋げる魔法だろ?」


「この魚は、その魔法の門を繋げて運ばれたものなんだ。だから新鮮なのさ」


「へえ、そんなに便利な物があれば、もっと魚が安くなるんじゃないか? 月に一度と言わずに、毎日やればいいのに」


「いや、この門を繋げるのには、金貨20枚もの多額の費用がかかってね。それが魚の値段に反映しているんだよ」


「金貨20枚…… そう考えると、安いなコレ。ユウリ、買って行こうぜ、月に一度みたいだしな!」


 金貨20枚は、およそ20万円。元いた世界で言うと、航空国際便を使って、外国に魚を送るようなものだろう。それだと、たしかに高い理由も分る。



「まず、サンマは2匹、確保しよう。味噌も購入したからサバも確保だな。後はアジの干物と、おっあそこに立派なブリがあるぞ」


 ブリは、大きめのが何匹か展示されていて、一匹、銀貨20枚もする。日本円に直すと2万くらいと、かなりお高い。



「いや、ちょっとアレは高すぎない?」


 僕がそう言うと、タカオは反論する。


「アレを『ぶり大根』にしないか? 間違いなく美味いぜ。ユウリの倉庫魔法は、保存が利くから作り置きができるだろ。おそらくあのサイズだと、30人前くらいにはなるはずだ。週に一度のペースで食べても3ヶ月は持つぜ」


「うーん、でも……」


「海魚の日は月に一度だけらしいじゃないか。次にブリが水揚げされるとは限らないだろ? 買っちまおうぜ!」


「分ったよ。じゃあ買おうか。あのブリを下さい。3枚におろしてもらえます?」


「まいどありがとございます。少々お待ち下さい、おろしますので」


 先ほど説明をしてくれた人が、魚を慣れた手つきでさばいていく。タカオに乗せられて、思わず無駄遣いをしてしまった……

 まあ、美味い魚が食べられるのなら、それも仕方がないのかもしれない。今日はジャッカロープも14匹も倒して、銀貨87枚を稼いだから平気だろう。



 他にも色々と買ってレジに進む。スーパーでの出費は、銀貨56枚にもなった。ここに来るまでに買った、市場の出費と合わせると、およそ銀貨72枚の出費だ。1週間ほど出掛けると思って、買いすぎた。



 材料が揃うと、ギルドの宿泊者用の小さな調理場に移動して、いよいよ料理に取りかかる。


 今日のメイン食材はジャッカロープ。調理方法は、照り焼きにしようと思う。照り焼きのような味は、この世界に来てから食べていない。やはり、この世界はヨーロッパ風の料理が多い気がする。



 神器の鍋『エルビルト・シオール』を倉庫魔法で取り出し、作り方を聞いてみる。


「今日はジャッカロープの照り焼きを作ろうと思っているんだけど、ここにある材料で出来るかな?」


マイ我がロード主よ、素材を調理する前に、まずは照り焼きソースを作る必要があります。照り焼きソースの基本的な材料は、しょうゆ、みりん、料理酒、砂糖です。それらの材料はありますか?」


「揃っているね。少し多めに、作り置きをしておきたいんだけど」


「お任せ下さい。このくらいの大きさでどうでしょうか?」


 エルビルト・シオールが光り、袋ラーメンを作るくらいの片手鍋に変形した。2リットルくらいの容量がありそうなので、十分な量を作れそうだ。


「うん、大丈夫だと思う。さっそく作ろう」



 照り焼きソースの作り方は簡単だった、素材を鍋に入れて、水分を飛ばすだけで出来るらしい。鍋をかき混ぜながら、タカオに他の事を手伝ってもらう。


「タカオ、解体施設のダルフさんから、ジャッカロープを受け取ってきて」


「おう、暇だからいいぜ」


 鍋で煮ていると、水分が飛び、とろみがついてきた。


「マイ・ロード、これで完成です。隠し味として、ニンニクや生姜しょうが、コショウなどを、後で入れてもいいですが、基本的なソースは出来ました」


「ありがとう。熱が冷めたらビンに移し替えておいた方が良いかな?」


「はい、そうすれば、いつでも使う事ができます」


 下準備が整ったようだ、これから本格的な料理が始まる。

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