冒険者ランク 4

 エノーラさんがギルドカードを書き換えて、僕らの冒険者のランクが上がった。


「やったぜ、これで『Eランク』冒険者から、『Dランク』に昇格だ!」


 タカオはハイテンションで喜ぶが、僕は素直に喜べない。


「いやぁ、ギルドの職員の食事を作る条件で、本当にランクアップして良いのかな……」


「良いに決まってるだろ。これで高難易度のクエストにチャレンジできるんだぜ!」


「水を差すようで申し訳ないのですが、『Dランク』では、そこまで危険なクエストはありませんよ」


 エノーラさんが遠回しに落ち着くように言うのだが、タカオのテンションは収まらない。


「クエストが張ってあるボードを見てみようぜ、きっと良いクエストが見つかるハズだ!」



 クエストのボードは、冒険者のランクに関係なく、全てを毎日のようにチェックをしているが、いわゆるゲームに出てくるような冒険は見たことがない。僕は無駄だと思いながら、ボードの方へと移動をする。


「ええと、『Dランク』、『Dランク』、おっ、あった。『となりの村への配達』『屋根の清掃』『放牧ほうぼくのお手伝い』…… どれも大した事がないじゃないか」


 タカオがボードを見ながらガッカリと肩を落とす。まあ、この世界は平和なのだから仕方がない。

 落ち込んでいるタカオに、エノーラさんが新しいクエストを紹介してくれた。


「『Dランク』冒険者用のモンスター討伐クエストも、一応、ありますよ」


「おっ、さすがエノーラさん。それはどんなモンスターなんだい?」


「ワイルドボアと呼ばれている獣ですね、こちらを駆除するクエストになります」


「おおっ、ワイルドボアか、強そうな名前だな」


「これががモンスターの特徴となっております」


 エノーラさんはそう言いながらクエストの依頼書を出してきた。依頼書には、モンスターのイラストが載っているのだが、どこをどう見てもイノシシだった。



 モンスターでなく、動物が出てきたので、タカオはすっかりやる気を失った。ここで冒険が終わってしまうと困るので、僕が説得する。


「ほら、まだ僕たちはレベルが低くて、スキルをろくに取得していないじゃない。ジャッカロープにすら手こずる状態だし、イノシシでも十分に強敵だと思うんだ」


「あー、うん、そうだな。イノシシはウサギより凶暴だよな。やっぱりもっとレベルを上げなきゃダメなのか……」


 どうやら少しは理解してくれたようだ。


 こんなやり取りをしていると、受付に知り合いがやってきた。建築ギルドでギルドマスターをやっているアンドレアンさんだ。



 アンドレアンさんは僕らに向って聞いてきた。


「なんだ? 今は商談中か?」


「いえ、ただの雑談のようなものです。アンドレアン親方は、何の用事でやってきたのでしょうか?」


 僕がそれとなく受け答えをすると、親方は1枚の紙を差し出しながら言った。


「建築ギルドの仕事の一環だな。クエストの依頼をしにきたんだ」



 クエストと聞いて、タカオが身を乗り出した。


「おっ、なにか強いモンスターの討伐だったら、俺たちが請け負うぜ!」


「俺は建築ギルドの仕事で来たって言っただろ、建築ギルドが何のモンスターを狩ろうって言うんだよ……」


 親方はあきれながら、記入した紙をみせてくれた。


「今日、もってきたのは護衛の依頼だ。郊外の農家でくらを二つ作らなきゃならねぇ。街からだいぶ離れているから、ジャッカロープやワイルドボアが出没すんるんだわ。というわけで、護衛がどうしても必要になる」



「じゃあ、俺たちがその依頼を引き受けてやる!」


 タカオがそう言うと、アンドレアン親方は、苦笑いを浮かべながら言った。


「お前ら、冒険者に成り立てだから、まだ『Eランク』だろ。この依頼は『Dランク』の冒険者じゃねーと受けられねーんだ」


「ふふん。それなら問題ないな。ほら」


 タカオがギルドカードを見せる。もちろんそこには『Dランク』と、冒険者のランクが記入してある。



「嘘だろ。お前らもう昇進したのか…… ああ、でも、まだ問題があるな。この依頼は建物が出来上がるまで、1週間ほど現地に寝泊まりして作らなきゃならねぇんだが、お嬢ちゃんたちに野宿はツラいんじゃないかい?」


 あっ、うん、確かに、それだけ期間、野宿を続けるのは、間違いなくツラい。これは断った方がよさそうだ。

 僕が口を開こうとすると、何も考えていないタカオの方が、いち早く答えた。


「そのくらい大丈夫だって。その依頼、俺らが引き受けるぜ」


「では、お二人の契約で、書類を作らさせてもらいますね」


 エノーラさんが、タカオの発言をに受けて、僕らは正式に依頼を受ける事になってしまった。

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