冒険者ランク 3

 僕たちはギルドの隣の解体施設へと入る。この施設の責任者のダルフさんに、タカオが声をかける。


「今日もジャッカロープを狩ってきたぜ、買い取ってくれよ」


「おう、査定をしてやるから、倉庫魔法から出してみな」


 僕が倉庫魔法からジャッカロープを取り出した。その数は14匹、これにはダルフさんも驚く。


「これはまた、すごい数を狩ってきたな。それにどれも丸々と太っていて、毛づやも良い。こいつら上手いエサをたらふく食べてたんだろうな」


 僕が少し説明をする。


「ええ、ニンジン畑で、ボリボリと食べてました」


「おう、そりゃ農家にとってはたまらないな。コイツの査定はAランク、こいつもAだ、ほとんどがAランクの個体だな、合計で銀貨87枚だ、受け取れ」


 僕が銀貨を受け取る。今日はかなり稼せげた。銀貨87枚は1週間は遊んで暮らせる金額で、これも農家さんの情報のおかげだろう。



 お金の受け渡しが終わった後、ダルフさんが思い出したように言う。


「あっ、そうそう。ギルドの受付の方にも顔を出してくれ。お前らに何か話があるみたいだったぞ」


「……俺たち何かやらかしたかな?」


 タカオが少しあせりながら言う。


「なんで怒られる事が前提ぜんていなの? ただ伝えたい話があるだけかもよ?」


「いや、呼び出しされる時は、だいたい怒られる時だし……」


「まあ、行ってみようよ。大した話じゃないかもしれないし」


 とりあえず、僕たちはギルドの方へと向った。



 ギルドに入ると、受付係のエノーラさんに、タカオが弱々しくたずねる。


「あの…… 俺ら、呼び出されて来たんですが……」


「どうしましたタカオさん、どこか具合でも悪いのですか?」


 心配するエノーラさんに、僕が説明をする。


「あっ、気にしないで下さい。ダルフさんに言われてやって来たのですが、ギルドの方から僕らに話があるんですよね?」


「ええ、そうです。お二人はギルドに加入されて、まだ1週間あまりしか経っていないのですが、『条件付き』でギルドランク昇進の話が出ています」



 昇進の話と聞いて、タカオのテンションが一気に上がる。


「うお、マジか? まいったなぁ、もう昇進なのか!」


「いえ、『条件付き』なので、まだ昇進が決まったわけではありません。ギルドマスターから出された条件をクリアして頂かないと」


「おお、そうだった。きっと『昇進試験』があるんだよな。闘技場で強いボスモンスターを倒せばいいのか? それとも、剣や魔法の達人を打ち負かせばいいのか? いや、ここは危険なダンジョンを踏破とうはすればいいのかな?」



 テンションの上がりきっているタカオに、エノーラさんが冷静に言う。


「いえ、どれも違いますね。ギルドマスターいわく、先日、ユウリさんの揚げたチキンカツが絶品だったそうで、今後もギルド職員に対して、料理を作ることを条件に昇進を認めると……」


 それを聞いたタカオが、あきれながら言う。


「つまりユウリの料理が美味かったから、今後も作って食べさせてくれって事か?」


「ええ、まあ、そうなりますね」


 エノーラさんもあきれているようで、苦笑いを浮かべながら言った。



 料理を作るという条件が、よく分らないので詳しく聞いてみる。


「作る頻度ひんどとか、どうなんですか? 毎日、作らなければならないとか?」


「いえ、手の空いていて、気が向いた時だけで良いと思いますよ。週に1度くらいでも構わないと思います」


「ギルド職員の分という話ですが、何人分を作れば良いのですか?」


「日や時間によって違いますが、およそ10人程度ですね。食材の費用は経費として払います。調理施設は、ギルドの調理場を使ってもらって構いません。下処理など、作業が面倒な場合は、ギルド職員に仕事を振ってもらえれば大丈夫です」


 料理を作る手間は、人数が増えてもあまり変らない。10人分となると、さすがに色々と大変そうだが、ギルド職員が手伝ってくれるみたいだ。かなり待遇が良い気がする。それだけ僕に料理を作って欲しいのだろうか?



 僕がちょっと考えていると、タカオがエノーラさんにこんな質問をする。


「昇進するのに、普通はどのくらい掛かるものなんですか?」


「そうですね。普通は『Eランク』から『Dランク』に上がるのには、2~3年といった所でしょうか。お二人はかなり効率よく稼いでいますので、1年もすれば上がると思いますけど」


 それを聞いたタカオが、僕に言ってきた。


「ユウリ~、おれ、1年間もジャッカロープを狩り続けるの嫌だぜ。昇進して、もっとランクの高いモンスターと戦いたいぜ」


「そんなに言うなら、この条件を引き受けても良いけど、タカオも料理の下ごしらえとか手伝ってくれる?」


「ああ、手伝う。なんでも手伝ってやるよ」


 うーん、かなり調子が良い。実際にどこまで手伝ってくれるか怪しいが、1年間ジャッカロープを狩り続けるのもツラいかもしれない。ここは条件を引き受けた方がよさそうだ。


「わかりました。条件を受け入れます」


「では、ギルドカードの書き換えをしますね」


 エノーラさんにギルドカードを渡し、僕らは『Dランク』冒険者になってしまった。

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