冒険者ランク 2

 お昼過ぎに街に戻ってきた。


「ギルドに行って、報酬の精算をする?」


 僕がタカオにそう聞くと、タカオはお腹を押さえながら言う。


「腹が減ってるから、先に飯にしよう。今日はギルドのレストランじゃなくて、他のレストランに行ってみないか?」


「そうだね。たまには他のレストランが良いね。実は気になったレストランがあるんだけど……」


「じゃあ、そこに行ってみようぜ」


 僕たちは行ったことの無いレストランに向う。



 中央通りから、すこし外れた場所に、そのレストランはある。昨日チェックした時は休日で閉まっていたので分らなかったが、かなり人が多い。店の前には黒板の看板が出ていて。『本日のパスタ、大盛り銅貨7枚』と書かれていた。値段も手頃らしく、これなら安心して入れそうだ。


 店の中に入ると、しばらく待たされてから窓際の席に案内された。メニューを渡されて、僕らはそれを広げる。

『ニンニクのパスタ』『唐辛子とオリーブオイルのパスタ』『かりかりベーコンとパスタ』シンプルなパスタが並ぶなかで、『スドウ・スペシャル』という特別なコーナーがあるのに気がつく。

 そのコーナーには『ミートソース』『ナポリタン』『カルボナーラ』など、おなじみのメニューが並んでいた。



 タカオがメニューを見ながら言う。


「おっ、定番のメニューがあるな。『スドウ・スペシャル』という名前からして、異世界から来たスドウさんが持ち込んだメニューだろう。うーん、俺は久しぶりに『ナポリタン』を喰おうかな」


「僕は『カルボナーラ』にしよう。すいません、注文をお願いします」


 それぞれのメニューを頼み、僕たちは料理の来るのを待った。やがて料理が運ばれてくるのだが、僕らの想像と大きく違う品が運ばれてきた。



 タカオが頼んだ『ナポリタン』は、皿にスパゲッティが敷き詰められていて、その上に焼いたソーセージが5本ならんでいる。ソーセージは、ケチャップがかけられていて、ソーセージの横には、焼いたピーマンが丸ごと1個、ゴロッと乗せられていた。


 僕の頼んだ『カルボナーラ』は、コショウのかかったチーズクリーム系のパスタの横に、ゆで卵が添えてある。チーズクリームの中には卵が入ってなさそうだ。


 料理を運んで来たウエイトレスの人に、思わず質問をする。


「これって、『ナポリタン』と『カルボナーラ』なんですか?」


「ええ、シェフが、スドウさんから聞いた話を元に、創作した料理です。うちの看板メニューなんですよ、美味しそうでしょ?」


「……はい。そうですね」


 これらの料理は、材料は合っているが、作り方が全然違う。色々と突っ込みたい所だが、いちいち説明するのは面倒くさい。



「まあ、これはこれで美味そうだな。料理が冷める前に喰おうぜ」


 タカオはあまり気にしていないようだ。僕も気にしないようにしよう。


「そうだね、じゃあ食べようか、いただきます」


「いただきます」


 僕の頼んだパスタは美味しかった。牛乳とチーズが上手く混ざり合い、クリームチーズのパスタとして見れば、かなり完成度が高い。謎のゆで卵を除けば、元にいた世界でも店で出せるくらいだ。

 タカオもパリパリと、ソーセージを音を立てて食べている。こちらも美味しそうだ。



 半分ほと食べた後に、タカオのフォークが止まる。


「ユウリ、これを食べてくれ。俺、ピーマンが嫌いなんだ」


「なんで食べられない物を注文したの? 他のメニューを注文すれば良かったんじゃないの?」


 僕が質問をすると、タカオはこう答える。


「いや、ナポリタンだとピーマンは輪切りで少し入っているくらいだろ、少しなら食べられると思ったんだが、これは丸ごと1個だ。まさかこんな形で出てくるとは思わなくて……」


「わかったよ。じゃあ、ピーマンを食べてあげるから、ソーセージも一本ちょうだい」


「それでいいぜ。それなら俺も一口、そっちのパスタの味見をさせてくれよ」


「いいよ」


 お互いのパスタを少しずつ交換をして。それぞれ味見をする。

『ナポリタン?』のソーセージには、唐辛子が少し入っているようで、意外とパスタと合う。スドウさんのレシピは正しく伝わっていなかったようだが、これはこれで良いかもしれない。



 満腹になった僕たちは、料金を支払い、狩ったジャッカロープを精算するため、ギルドへと向う。


 ちなみに、『ミートソース』のパスタは、他の人が頼んだのを見たのだが、炒めたそぼろ肉の上に、薄くスライスしたトマトが上に乗っていて、さらにチーズが少しかけてあった。やはり別物だったが、あれはあれで食べてみたい。

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