冒険者ランク 1

 8日目の朝、僕はタカオに起こされた。休日の昨日の夜、タカオはやる事が無く、夕食を食べてすぐ寝たからだろう。

 タカオが寝た後、僕は農作物の勇者、スドウさんが残したノートを、この世界の言葉に訳していた。ノートの翻訳は順調で、おそらく2週間くらいあれば、全て終わると思う。


 タカオに起こされて、ギルドのレストランに行くと、まだ人がほとんど居ない。外を見ると、まだ太陽が完全に上がりきっていなかった。時間が早すぎるのだろう。


「早すぎるよ、タカオ。今、何時くらいなの?」


「6時ちょい前って所かな。これでもレストランが開くのをまって、ユウリを起こしたんだぜ。喰ったらさっそくジャッカロープを狩りに行こう」


 今日の朝食は、ステーキとパンのセットだ。朝からステーキを食べて、僕たちは狩りに行く。



 朝もやが漂っている中、僕たちはジャッカロープを探して歩く。農家さんたちは、朝早くから働いていた。

 どうやら収穫作業をしているようだ。たまたま道の近くにいた農家の方に、タカオが声をかける。


「俺ら、冒険者でジャッカロープを駆除してるんです。この辺でヤツらがいる場所をしってますか? 俺らが退治しておきますよ」


「おう、ここら辺だと、2キロくらい先にニンジン畑が広がっているんだが、そこら辺の被害が酷いな。ヤツらニンジンが好きだからな」


 そういって、畑のある方角を指さして、教えてくれた。情報を貰ったので、僕がお礼をする。


「ありがとうございます。駆除してきますね」


「あんたら新人の冒険者さんだろう。駆除してもらうと、こっちも助かるからなぁ。がんばれよ」


 手をふって僕たちは農家さんと別れた。言われた通りの方向に進んでいくと、ニンジン畑が見えてくる。



 ニンジン畑にはジャッカロープらしき影が、1、2、3…… 7匹は見える。それぞれのジャッカロープは、食事に夢中で、ニンジンをむさぼるように食べていた。


「早く退治しないと、被害がどんどん大きくなる、行こう」


 僕が突撃しようとしたら、タカオがそれを止めた。


「待て、ユウリ。無闇に突っ込んでも逃げられるだけだ。ここは俺に作戦がある」


「どんな作戦なの?」


「俺は、暗闇を作る魔法が使えただろ? それを利用して敵に近づくんだ。まあ、見ててくれ『暗闇よダークネス、我にまとえ』」


 魔法を発動すると、タカオにまとわりつくように暗闇が現われた。


「じゃあ、行ってくるぜ」


 闇の塊が移動して、1番近いジャッカロープに近づいて行く。これは怪しい、普通に近づいた方が、まだ気づかれないのではないだろうか?



 黒い塊がジャッカロープに近づくと、タカオの小さな声が聞えた。


「いまだ『強撃きょうげき』」


 暗闇からいきなり出てきた刃が、ジャッカロープの胸をつらぬく。


「グゥエ」


 ジャッカロープは小さな断末魔をあげると、動かなくなった。


「凄いじゃん、タカオ」


「任せておけ、この調子で全滅させてくる」



 2匹目も同じように倒し、3匹目に近づいた時だ。タカオが物音を立てたらしく、ジャッカロープが振り向く。

 ジャッカロープの顔の先には闇の塊があり、そのまま動きを止めた。


「くらえ!『強撃』」


 タカオは強引に攻撃をする。ところが、警戒していたジャッカロープにこの攻撃は通用しなかった。ガキンと角で受け止められて、カウンターの突きを暗闇に打つ。


「おおっ、アブねえ」


 タカオは何とかよけたものの、暗闇の外側に飛び出てきてしまった。この魔法は、どうやら急激な動きに対応できないらしい。タカオが外に出てくると、近くにいた他のジャッカロープも近寄ってきて、タコ殴りにしてきた。


「うお、いて、いてて、多勢たぜい無勢ぶぜいとは卑怯ひきょうだぞ! 正々堂々せいせいどうどうと戦え! た、助けてくれユウリ!」


 今まで不意討ふいうちをしてきたタカオが、急に卑怯とか言いだした。とりあえず、このままではマズいので、急いで助けに入る。



 僕は、この間、『メイス修練』というスキルを取った。武器の扱いが上手くなるというスキルだが、はたしてどこまで効果があるのだろう?


 タカオを殴っているジャッカロープを目標にして攻撃をする。すると、これまでとは明らかに違う。今までは、適当に狙いをつけて殴っていただけだが、まるで自分の腕を延長したように制御できる。首の後ろの頸椎けいついに狙いをつけて、鋭い一撃を放った。


「グェ」


 ジャッカロープは小さな声をあげて動かなくなる。続いて2匹目、3匹目と、攻撃を打ち込む。


「グゥ」「グッ」


 僕はまたたくく間に3匹のジャッカロープを倒した。



「おう、助かったぜユウリ。あっちにもジャッカロープが見えるから、倒しに行こうぜ!」


 タカオにヒールをかけてから、次の場所に向う。この場所は、本当にジャッカロープが多い。倒して周りをみると、他のジャッカロープが目に入る。移動と戦闘を繰り返しつづけて、その数は14匹にもなった。


 一通り、ジャッカロープが見えなくなると、けっこう時間が過ぎていたようだ。お昼の鐘の音が聞えてきた。


「もうお昼になったみたいだね。お昼ご飯はどうしよう? 今日はお弁当とか何も買ってないよ」


 今日は、朝早く出てきたので、食事を売っている屋台がまだ出ていなかった。タカオはこんな事を聞いてくる。


「倉庫魔法になにか出来たヤツが入ってないか?」


「前に作ったカレーはもう無くなったから、昨日作ったチキンカツくらいしか入ってないよ」


「チキンカツは、昨日の昼と夜に続けて食べたからな…… 他のが良いな。今日は早いけど、狩りを引き上げて街に戻るか。充分な数のジャッカロープを狩ったし」


「そうだね。朝も早かったから、それでも良いかもね」


「じゃあ、帰って飯にしよう。しかし、今まで俺たちは失敗してたかもな?」


「なにが?」


「いや、ジャッカロープがたくさん居る場所を、農家の人が知っていたからさ。初めから居場所を聞いてから、狩りをしていれば……」


「……うん、そうだね。今度から、農家さんに話を聞いてから狩りをしよう」


 今日は情報の大切さを知った。今後の狩りは、もう少し効率的になりそうだ。

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