突然の休日 2

 突然の休日で、やる事が無くなったのだが、何をして休日を過ごしていいのか分らない。

 ダラダラと部屋で休んでもいいのだが、昨日は風呂に入って疲れを落としてしまったので、疲れは溜まっていないどころか、むしろ体力を持て余している。


「街中を散歩でもしてみる?」


「そうだな、出掛けるか」


 僕の何気ない提案を、タカオが受け入れて、何の目的もないまま、街を散歩する流れになった。



「自由市場は、何にも出てないな……」


 タカオが無人の市場を見て言う。誰もが自由に出店できる自由市場は、みごとに誰1人として出店していない。


 街の外への道はどうなっているのだろうか? そばにある城壁の門を見ると、閉まっていて、人1人が通れる連絡用の小さな扉だけが開いていた。門番は、いちおう1人はついているが、椅子に座って暇そうにしている。


 僕らは街の中を歩き始めた。タカオがキョロキョロと見渡しながら言う。


「おっ、スーパーも休みだな、ほかの食材屋も休みみたいだ」


「ここに美味しそうなレストランがあったんだね。今度、やっている時に行ってみない?」


「そうだな。あっ、こんな所に酒屋があったんだな。色々と珍しい酒があるみたいだ」


 ほとんど誰もいない街を歩きながら、色々と物色をする。人が居ないと、意外と気がつく事が多い。新しい発見をしながら、僕らは街を一周した。



 一周して、ギルドに戻ってくると、タカオは困った顔で言う。


「一周したな。どうする、もう一周、してみるか?」


「いや、もう良いんじゃないかな」


「じゃあ、どうするんだ? 風呂場も休みだったしな。こんな日に、風呂場が開いていれば儲かると思うんだが」


「そうだね。今度、支配人に提案してみようか。従業員は、休みをずらせば良いと思うし」


「ああ、それで、今日の俺たちは何をしよう。もうやる事がないぜ」


「……うーん。それじゃあ、料理でもしようか? この間、かなり食材を倉庫魔法にしまったておいたから、色々と作れるでしょう。神器の鍋の『エルビルト・シオール』もあるし」


「よし、じゃあ何か作るか」


 こうして僕たちは何かを料理する事になった。



 僕は、先ほど残したパンが気になった。


「さっきの硬くて乾燥したパン。どうにか使えないかな?」


「ああ、あのパンか。あれはまるでクルトンか、パン粉を固めたみたいなパンだったな」


「……それだ。パン粉にすればいけるかもしれない。いくつかフライを作ってみようよ」


「いいぜ、フライと言えば、やはりトンカツかな?」


「豚肉は買ってなかったから、鳥肉でチキンカツにしよう」


「俺、タマネギのフライが好きなんだ。フライをするなら、それも作ってくれ、気持ち、厚切りで」


「分ったよ。じゃあ調理場に移動して、『エルビルト・シオール』を出すね」


 宿泊者が勝手に使って良い調理場に移動した後で、僕は倉庫魔法で神器を取り出す。



「お呼びでしょうか、マイ我がロード主よ


「ええと、フライを作ろうと思うんだ。チキンカツと、タマネギのフライを」


「小麦粉と卵とパン粉はありますか?」


「小麦粉はあるけど、卵は無い。パン粉の代わりに、この乾燥パンをくだいて使おうと思うんだ」


「卵が無くても、問題ありません。レシピは私めにお任せ下さい」


 この後、『エルビルト・シオール』の指示に従って、下処理を済ませた。



 下処理が済むと、いよいよ揚げる作業に入る。『エルビルト・シオール』は天ぷら鍋に変身をして、油をそそぐように言われた。鍋にコーン油とごま油を混ぜて入れ、火をかける。やがて温度が上がってくると、『エルビルト・シオール』の指示が飛んできた。


「マイ・ロード、今です。チキンカツを一つ、投入して下さい。良いですか、一つですよ。面倒くさがって複数を同時に揚げようとすると、油の温度が下がり、ベチャっとした仕上がりになってしまいます」


「わかったよ。じゃあ、一つだけ入れるね」


 鳥肉を投入すると、カラカラカラとさわやかな音を立てて、揚がっていく。


「ひっくり返して下さい」「油から上げて下さい」「火を少し、強くして下さい」「次にタマネギを投入して下さい」


 僕は指示に従って、けっこうな数のチキンカツとタマネギフライを作り上げた。まあ、作りすぎても倉庫魔法にしまっておけばいいので、作りすぎても無駄にはならない。



 揚げる作業に集中していると、お昼を告げる鐘が鳴った。どうやらかなり時間が経っていたようだ。


「ユウリ、そのまま飯にしようぜ。炊いたご飯はまだあったよな。チキンカツ定食にしよう」


「うん、いいよ。じゃあ、食器を並べて、食事の準備をして」


 タカオがテーブルクロスを敷いて、食器や飲み物の準備をする。僕は揚げたてのチキンカツを皿に盛った。

 こんな作業をしていると、ギルドの中から人が出てきた。それは、ギルドで留守番をしていた、ギルドマスターのベルノルトさんだ。



 ギルドマスターは、僕たちの作った料理を見て、うらやましそうに言う。


「美味そうなもん作ってるな。俺にも食べさせてくれよ」


 するとタカオがこんな事を言う。


「いいぜ、銀貨1枚で売ってやるよ。商人ギルドなんだから、適正価格で買わないとな」


「まあ、良いだろう。ほれ、銀貨1枚だ」


「毎度あり、味わって食べてくれ、これが異世界の味だぜ」



 ギルドマスターに出した料理は、ご飯、味噌汁、チキンカツの三品。チキンカツはウスターソースとカラシというおなじみの味付けだ。素人の料理が、ギルドマスターの舌に合うだろうか?


「まずは一口、おっ、鳥の肉汁があふれ出てきたな。このスパイシーでジューシーなソースと実によく合う。油で揚げたのに、油っぽさがまるでない。これは最高ランクの『マホガニー級』、いや伝説レベルの『ユグラシドル級』の料理と言っても、言い過ぎではないな!」


 僕は、例えがよく分らないので、聞いてみる。


「その『ユグラシドル級』って、褒め言葉なんですか?」


「知らないのか、料理に対して、最大級の褒め言葉だぞ…… ああ、そうか、異世界人だったか。まあ、簡単に言うと、国王に出しても遜色そんしょくの無い料理だという事だ」


「ああ、はい。ありがとうございます」


 とりあえず、かなり褒められたらしい。僕も試しに食べてみると、確かに美味しいのだが、伝説レベルとかは言い過ぎだと思う。

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