突然の休日 1

 7日目の朝、タカオを起こして二人でギルドのレストランに向う。

 ギルド内を移動しながら、タカオが僕に話しかけてきた。


「今日の朝食はなんだろうな?」


「そろそろご飯が食べたいよね」


「いいよな、ご飯に魚があれば最高だな。でも、ここはファンタジーの世界だから難しいと思うぜ」


 そんな話をしながら、レストランに到着する。すると、いつも賑わっているレストランに、人が1人も居ない。お客さんも、レストランの職員も、誰もいなかった。



「あれ? 今日はやってないのかな?」


 僕が周りを見渡すと、遠くにある受付カウンターの奥の方に、1人だけ座っている人影が見えた。近寄っていくと、それはギルドマスターのベルノルトさんだった。

 この状況について、僕が聞いてみる。


「今日はレストラン、やっていないんですか?」


「ああ、そうだ。今日は7日なのか一日いちにちだけやってくる、『休日の日』だぞ。お前らそんな事、常識だろ…… って、そういえば異世界人だったな」


 ギルドマスターは、頭をポリポリときながら言う。ギルドマスターは、僕たちが異世界からやってきたのを知っている。



 タカオが、納得しながら言う。


「なるほど、7日に一度か。日曜日みたいなもんだな」


「ああ、そういえば、異世界からやってきた勇者、スドウさんも『日曜日』って言っていたな。まあ、この習慣を作ったのはスドウさんだから、お前たちが知らないハズはないと思うんだが……」


 ギルドマスターに、僕が少し説明をする。


「ええ、僕らの世界でも7日に1~2日くらいは休みになるんですけど、お店が休みになる事は少なくて……」


「そうなのか? まあ、業務が必要な業種は、仲間内で休日をずらして、最低限の運営をしてたりするからな。俺も、今日は非常事態の受付係だ。何か非常事態があった時に、連絡する奴が居ないと大変な事になるからな」


 冒険者ギルドは、魔物を退治したり、けが人を直す手配をしたりして、警察署や消防署のような役割もある。確かに、1人は残って居ないとダメなのだろう。



「ぐううぅぅ~」


 僕とギルドマスターが話していると、タカオのお腹が、かなり大きな音で鳴った。


「は、腹が減った。何か食べ物はないのか……」


 タカオが弱々しくいうと、ギルドマスターが席を立って、棚の上に置いてあった箱を持ってきた。


「腹が減っているんだろ。ほら『乾燥パン』だ。1個、銅貨2枚な」


「なんだ、くれるんじゃないのか」


「うちは商人ギルド兼、冒険者ギルドだぞ。無料で商品を手放す商人はいないだろ」


「まあ、それもそうか。じゃあ、二つくれ」


 銅貨4枚。日本円でおよそ400円分を支払い『乾燥パン』を手に入れた。



 僕らはレストランのテーブルに移動して、さっそく食べ始める。『乾燥パン』はメロンパンのような、膨らみのある円形状のパンを、かなり大きくしたような感じだ。手に持ってみると、大きさの割に、かなり軽い。パンの表面は、カッサカサに乾いている。


「「いただきます」」


 食事の挨拶をすると、僕らはパンにかじりついた。

 このパンはガリガリと硬く、そして、口の中の水分を、すべて持っていく。味はほとんどしないが、香ばしいパンの香りは、口いっぱいに広がる。


「うお、水気みずけが、水がほしい」


 タカオがもがいていると、ギルドマスターが水を持ってきてくれた。


「ほらよ。サービスだ。商人はサービス精神が必要だぞ」


「それならもっと美味いものを売ってくれよ。まあ、これはこれで喰うけど」


 タカオはこのパンを食べきったが、僕は4分の1ほど食べて、お腹がいっぱいになった。倉庫魔法もあるので、無理して食べずに、そのまましまっておく。



「今日はクエスト関係も休みなのか?」


 タカオがギルドマスターに尋ねると、ギルドマスターはうなずきながら答える。


「ああ、そうだ。緊急性のないもの以外は、すべて停止している。もっとも、ジャッカロープの狩りをするなら、倒した後に、そっちの嬢ちゃんの倉庫魔法に入れておけば、後で取り出して換金できるだろうけどな」


 どうやら僕のスキルは把握しているようだ。タカオに今日はどうするのか、意見を聞いてみる。


「どうするタカオ。狩りに行く? それとも休む?」


「う~ん。急ぐ冒険でもないし、今日は周りに合わせて休んでみるか」


「そうした方が良い、連日のクエストで疲れているだろ?」


 ギルドマスターがそう言うと、タカオは素直に答える。


「いや、俺あんまり働いてないから、疲れてないかも」


「お、おう、そうか。まあ、それでも休んでおいた方が良いと思うぞ」


 ギルドマスターにあきれられながら言われた。まあ、確かに、昨日の掃除のクエストは、タカオは作業をしていないし、やった事と言えば風呂に入ったくらいだろう……

 うん、本当になにもしていない。今日くらい、狩りに行ったほうがいい気がしてきた。

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