心の洗濯 1
倉庫小屋の清掃が終り、そのあとお婆さんから昼食とデザートを頂いて、時刻は午後の2時30分くらいだろうか。タカオにこれからどうするか、相談をする。
「依頼が終わったけど、どうしよう? 狩りに行くには
「それなら行きたい場所があるんだ。俺たち、清掃作業をしただろう? 風呂に行かないか? もちろん女風呂に!」
「……タカオの全てを清めたまえ『
タカオの事だ、女風呂を覗く事を考えていたのだろう。魔法で綺麗にしてしまえば、お風呂に入る必要は無い。
「いや、ちょっと待ってくれ。体の汚れを落とせば良いってわけじゃないんだ。湯船にゆっくり浸かって、身も心も
「うん、まあ、分らなくもないけれど……」
「この先、ずっと風呂に入らない訳にはいかないだろ? 一緒に風呂に行こうぜ! 場所はもう調べてあるんだ」
タカオに腕を引っ張られて、強引に連れて行かれる。本当は止めなくてはいけないのかもしれないが、お風呂に入れないのは確かにつらい。変な意地を張らずに、入っておいた方が良いかもしれない。
しばらく歩いて行くと、それらしき建物が見えてきた。建物はヨーロッパ風だが、入り口だけは和風になっていて、『温泉ランド、松ノ湯』と書いてある。間違いなく、僕たちの世界からやってきた人が作ったみたいだ。
のれんをくぐり中へと入る。中は、ホテルの受付のようなカウンターがあり、まずは料金を払うようだ。
料金表の一覧に『子供、銅貨3枚』『大人、銀貨1枚』と書いてった。他にもマッサージやら、エステっぽい美容のサービスがたくさんあるようだ。これらは銀貨3~5枚と、けっこう高いサービス料金になっている。
「お兄さん、大人2人分だ。よろしく」
タカオが二人分の料金を払い、タオルを受け取る。僕はサービスの一覧を眺めていると、ちょうどいいサービスを発見した、女湯の方へ行こうとするタカオを、僕はあわてて止める。
「ちょっとまって。貸し切りのお風呂のサービスがあるよ。3時間で銀貨2枚だって、これ良いんじゃないかな?」
「ユウリ、温泉の
タカオが貸し切り風呂を拒否したのは、他の人の裸がみられないからだろう。適当な理由をつけて言い訳をすると、タカオは僕から逃げるように、ダッシュで女湯へと駆け込んだ。
タカオを追いかけて僕も脱衣所に入る。脱衣カゴに他の人の下着が入っているのを見ると、女湯に来たという実感が急に沸いてきてドキドキしてきた。
このまま帰りたい気持ちも出てきたが、料金を払って入らないのももったいない。部屋の隅の方で手早く着替えて、バスタオルを体に巻き付け、お風呂場へと向う。タカオを見失ってしまったが、浴槽に行けば会えるだろう。
脱衣所から浴室に入ろうとすると、注意書きが張ってあった。そこには『湯船に入る前に、体をあらう』と、『混浴スペースに入るには、水着をつける』、他には『バスタオルを体に巻き付けたままで、湯船に浸かっても構わない』などと、色々と書かれていた。どうやらこの世界では、バスタオルを付けたまま入浴しても大丈夫らしい。
浴室に入ると、換気があまり良く無いのか、もの凄い湯気で奥が見えない。カポーンという音が聞えてきて、反響からすると、どうやらかなり広そうだ。あまり混んでいないようで、周りに人は見えないのだが、遠くの方からは話し声が聞えてくる。
入ってすぐの場所に、洗い場が見えたので、まずは体を洗う事にした。足、腕、体、髪の毛と順番に洗い、充分にゆすいでから、いよいよ湯船に入る。大きなお風呂がいくつかあるようだ。
近くにあったお風呂に手を入れて温度を確認してみる。かなり温い。異世界人は熱いお風呂が苦手で、こんな温度なのだろうか?
試しに隣のお風呂まで移動して、手を突っ込んでみると、こちらはかなり温かい。僕はこちらの湯船に、ゆっくりと浸かる。
お風呂に入ると、ぬくもりがジンワリと伝わって、手足の先から疲れが溶け出していくようだ。
「ふう~」
体の奥から、思わず声が出る。やはりお風呂は良い、身も心も癒やされる。貸し切りのお風呂を使えば、色々と余計な事を気にしなくても良いので、定期的に通うのもいいだろう。
のんびりとしながら、近くに表示されていた、温泉の効能を眺める。
『冷え性、切り傷、リウマチ、腰痛、肩こり』、温泉でおなじみの効能が並ぶ中で、見慣れぬ注意書きが書いてあった。
『我が松ノ湯では、洗浄魔法による徹底した清掃を行なっており、いつでも清潔です。温泉に、さらに薬草から抽出した癒しエキスを加え、効力を倍増させています。他にも
なにやら色々と書いてあるが『閃光魔法』とは何だろう? 凄そうな魔法だが、どんな効果だか想像がまったくつかない…… まあ、特に気にしなくても平気だろう。
肩までお湯に浸かり、足をのばしてリラックスしていると、どこからかタカオの声が聞えてきた。
「ユウリ、どこに居るんだ、姿をみせてくれ!」
助けを求めるような、
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