おつかいクエスト 4

 6日目の朝、タカオに起こされて目が覚めた。


「ほら、ユウリ。朝食へ行こうぜ!」


「ああ、うん。ちょっと待ってよ」


 寝ぼけながら、顔を洗い。レストランに行き、朝食を取る。

 昨日、タカオは酒に酔っ払って、一日中ほとんど寝ていた。どうやら寝過ぎたらしく、その反動で今日は早く起きたらしい。


 朝食のローストビーフのサンドイッチを食べながら、今日の予定を確認していると、エノーラさんがやってきて、僕にこんな事を言う。


「ユウリさん、すいませんギルドマスターから、『緊急依頼』のクエストがあるのですが、よろしいでしょうか?」



 『緊急依頼』と聞いて、タカオが興奮をする。


「おおっ、凶悪なボスモンスターでも現われたのか? いいぜ、引き受けてやろうじゃないか!」


「あっ、いえ、違います。受付カウンターの清掃の依頼ですね。私の担当の部分だけ新品のようにピカピカになったので、ギルドマスターに浮いてしまっていると言われました。そこで、『お金を払って、残りの部分もやってもらえ』という話になったので、正式に依頼をする運びとなりました」


 清掃と聞いて、タカオは興味を無くした。カウンターを見ると、確かにエノーラさんの受付の部分だけ、新しく作り替えたように色が変っている。これではバランスが悪い。僕はこころよく、この依頼を引き受ける。


「はい、そういう事なら引き受けますよ」


「では、銀貨20枚でよろしくお願いしますね」


「に、20枚ですか? 清掃だけなのに、それは貰いすぎでは?」


「いえ、ギルドマスターいわく『カウンターを新調したと思えば格安だ』と、おっしゃっていました。報酬は適切な価格なので、受け取って下さい」


「はい、では頂きます。高額な分、特別に丁寧ていねいにやらせてもらいますね」



 僕は受付のカウンターに『領域洗浄りょういきせんじょう』の魔法をかけ、汚れを落とす。続いて『修復しゅうふく』で、傷やへこみを直し。目立つ木の節目に『浄化じょうか』をかけて目立たなくした。


「これでどうでしょうか、エノーラさん?」


 僕が仕上がり具合の確認をお願いすると、すぐに返事がくる。


「ええ、充分すぎるほどです。こちらが報酬ですね。また何かあったら、よろしくお願いします」


 丁寧に時間をかけてやったが、それでも10分もかかってないだろう。

 僕はエノーラさんに軽く挨拶をして、今日のメインクエストの、街外れの倉庫小屋へと向う。



 街外れの倉庫小屋へとやってきた。今回はタカオも一緒なので、まずは小屋の持ち主のお婆さんに挨拶をする。母屋おもやの呼び鈴を鳴らすと、しばらくしてお婆さんが出てきた。


「おや、昨日きてくれたユウリさんだねぇ。そちらの方はどちら様で?」


 まずは僕が説明をする。


「掃除の手伝いをしてくれるタカオです。今日から二人で作業をします」


「タカオです。どんな汚れでも根こそぎ退治してやります! 任せて下さい」


「おやおや、頼もしいねぇ。ところで、お昼は食べて行くかい? 食べるなら用意しておくよ」


「お願いします!」


 タカオが元気よく返事をする。清掃の作業は、ほとんど僕がやると思うのだが、本当に調子がいい。



 挨拶が終わったので、僕らは掃除にかかる。倉庫小屋のドアを開けようとするのだが、建て付けが悪いのでスムーズに開かない。


「扉をあるべき姿に戻せ『修復』」


 僕が魔法を唱えると、ギギギときしむ音がしてから、ドアがスーッと開いた。どうやら直す事に成功したらしい。

 扉を開けて中に入ると、タカオが鼻をつまみながら言う。


「臭い! なんのニオイだ?」


「昨日はもっとひどかったんだよ。ネズミのフンとかが、あちこちに散らばっていて」


「酷いな。これは何だ? 袋が破れて中が出てるぞ」


「肥料の『油かす』の袋だね」


「この袋も『修復』で直るのか?」


「ああ、やってみるね。袋をあるべき姿に戻せ『修復』」


 呪文を唱えると、あっという間に袋の穴がふさがった。この魔法は、修理する事に関しては、万能なのかもしれない。



 ニオイがこもっているので、僕とタカオは手分けをして雨戸を開けて、倉庫に風を通す。明るくなった室内を見渡して、タカオが率直そっちょくな感想を言う。


「しかしガラクタみたいな道具がたくさんあるな。ほとんど使ってないみたいだから、ぜんぶ捨てちまえば良いのに」


「ここにあるのは、ほとんどが農機具だから、出番の時が来るまで、しまっておくんでしょう。耕す道具とかは、作物を植える前にしか使わないし、刈り取る道具とかは、作物が実ってからしか使えない。どの道具も必要だから、捨てる訳にはいかないと思うよ」


「まあ、そうか。しかし見通しが悪くて、掃除しにくそうだな」


「うん。昨日は物を避けながら作業をしたんで、かなり面倒で、効率が悪かったね」


「じゃあ、ここの道具を全て他の場所に移すか。がらんどうになったら、掃除しやすいだろう」



「……確かにそうかもしれないけど。外へ出す作業は大変だよ。何日かかるか分らない」


 僕はタカオに反論をする。ここには大型の道具がいくつもある、二人だと動かせないような大きな物もいくつかあり、移動させるだけで大仕事になるだろう。

 するとタカオは平然とした顔で、こう言った。


「いや、ユウリには倉庫魔法があるじゃん。倉庫魔法にしまっておけば平気でしょ」


「あっ、そうか。試してみるね」


 大型の道具を、片っ端から倉庫魔法の中に放り込む。ぜんぶ収納できるスペーズがあるのか不安だったが、何の問題もなく収まった。僕の倉庫魔法は、どれほど収納できるんだろうか。



 空になった倉庫は掃除しやすそうだ。しかし、領域洗浄の魔法でも、汚れが酷すぎて全ての床は掃除できそうもない。そこで、試しに床の4分の1を指定して、魔法を使ってみる。


「床の汚れを清めたまえ『領域洗浄』」


 昨日、洗浄の魔法を使っていたので、床は、まばらには綺麗になっていたのだが、それが一気に変る。茶色くベタベタとしていた床の部分が白っぽくなり、木材の美しさがよみがえった。


 タカオが素手で床を触り、チェックをする。


「すげぇ、さっきまでは掃除をさぼっているラーメン屋の床みたいにヌルヌルしてたのが、まるで新築のフローリングの床みたいに変ったぜ」


「そうだね。ちょっと待って」


 僕はギルドカードの残りMPを確認してみる。すると、47あったMPは18まで減っていた。


「ああ、やっぱり凄い量が減ってる」


「どれどれ、おっ、本当にすげぇな。まあ、それだけすげぇ汚れだったんだろうな。人の手でやったら、2~3日くらいはかかりそうだった」


「うん、そうかもしれないね。ちょっとMPが回復するまで休憩しようか」


 MPは30秒で3回復する。満タンになるには、およそ5分程度かかる計算だ。僕は倉庫魔法からアウトドア用の椅子を取り出し、小屋の外に置いた。休憩をはさみつつ、のんびりとやっていこう。



 床を4回に分けて洗浄にすると、次は壁。その次は天井。外に出て、外壁、屋根と、次々と『領域洗浄』をかけていった。倉庫小屋は生まれ変わったように綺麗になった。掃除はこれで良いだろう。タカオが倉庫に入り、中を見渡しながら言う。


「綺麗になったけど、壁にいくつも穴が空いているな。あそこからまたネズミが入ってきそうだ。ユウリ、『修復』の魔法でふさげないのか?」


「やってみるね。壁を元の姿に戻せ『修復』」


 呪文を唱えると、あっという間に穴が塞がった。どうやらこの程度の穴は直せるらしい。


「タカオ、穴を見つけたら教えてよ。僕が塞ぐから」


「分った。あそこにあるぞ、あと、あそこにも」


 こうして僕たちは全ての穴を塞ぎ、倉庫小屋を完璧な状態に戻した。

 最後に倉庫魔法にしまっていた農機具などを取り出し、これにも『領域洗浄』の魔法をかける。道具もピカピカになり、これで掃除は終了だ。



 掃除が終わったので、お婆さんに知らせに行こうとしたら、丁度良いタイミングでこちらに来てくれた。

 お婆さんは僕に質問をしてきた。


「そろそろお昼の時間だよ。掃除ははかどっているかね?」


「ええ、ちょうど終わりました。見て下さい、これでよろしいでしょうか?」


「はえー、これがあの汚い倉庫かえ? これはたまげたねぇ、まるで新築のようだ、どうやったんだい?」


「『洗浄』の魔法を使っただけですよ」


「普通は魔法を使っても、こうはならないはずだけどねぇ。まあ、食事にしよう、たくさん働いて腹がへったろ、たんとお食べ」


「「ありがとうございます」」


 僕らは用意されていた昼食を、おいしく頂く。メインメニューは、サーモンとホワイトアスパラガスのパイ包み。デザートはカボチャのシフォンケーキが出てきた。どちらも素材の味を生かしていて、とても美味しい出来上がりだ。あまり働いていないはずのタカオが、何度もお代わりして、僕よりもたくさん食べていた。


 食べ終わると、僕らはお礼を言って、お婆さんと別れる。お婆さんも僕らに何度もお礼を言ってきた。これだけ感謝されるなら、もっとお使いクエストをこなしていった方がよさそうだ。

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