おつかいクエスト 3

 気がつくと、最大MPが32から47に増えていて、レベルが3に上がっていた。僕は汚れを落とす魔法しか使っていないのに、こんな事があるのだろうか?

 農機具の本を一通り読み終えると、僕は図書館を出て、ギルドへと向う。


 ギルドにつくと受付カウンターに行き、エノーラさんに質問をする。


「すいません。僕、『洗浄』の魔法を使って掃除をしただけで、レベルが上がったようなのですが、こんな事ってあるのでしょうか?」


「ええ、清掃や配達などのクエストでも経験値は入りますよ。冒険者の常識だと思っていたのですが、知らなかったんですか?」


「……はい、知りませんでした」


 そういえばRPGのゲームでも、アイテムを運ぶだけの、おつかいクエストでも、経験値がもらえる。この世界でもそうなのだろう。



「レベルアップしたので、新しく取得可能になったスキルを確認しますか?」


「あっ、はい。お願いします」


「では、こちらの石板、『進化樹しんかじゅ羅針盤らしんばん』の方へ来て下さい」


 エノーラさんに言われて、僕は魔法道具の上に手を置く。すると、石版に文字が浮かび上がった。



◇戦士系

 ・メイス修練 必要ポイント2

 ・強撃 必要ポイント2


◇生活魔法

 ・浄化じょうか 必要ポイント1

 ・修復しゅうふく 必要ポイント1

 ・領域洗浄りょういきせんじょう 必要ポイント1


◇建築魔法

 ・石の壁 必要ポイント1



 新たなスキルの名前が出て来たので、エノーラさんに効果を聞いてみる。


「これって、どんな効果なんですか?」


「少々、お待ち下さい。初めて見るスキルの名前があるので、調べながらお答えしますね」


 魔法道具のそばにあった、分厚い辞書のような本を開きながら、エノーラさんは説明してくれた。



「『メイス修練』と『強撃』は、戦闘系のスキルですね。このスキルは前回のレベルアップの時にも出ていて、スキルポイントが足らずに取らなかったので、再び表示されています」


「『浄化』は、『洗浄』の上位魔法ですね。『洗浄』の魔法でも綺麗にできないような、ありとあらゆる汚れを浄化できます。『毒』や『呪い』などといった物も、浄化できるようですね」


「『修復』は、壊れた物を直せます。大抵の物は、この魔法で直せるようです」


「『石の壁』は、地中から石の壁を作り出します」


「『領域洗浄』は、『洗浄』の魔法の範囲型ですね。広範囲を効率的に『洗浄』できるようですよ」



 確か、新たに取得するスキルは、それまでに体験した経験に左右されると言っていた。清掃系の魔法が多いのは、今日『洗浄』を使いまくったからだろう。『石の壁』は、この間、ジャッカロープを追い詰める為に、地面を『隆起りゅうき』しまくったせいだと思う。『修復』の魔法は、覚えた理由はよく分らないけど、何かの前提条件を満たしたのだろう。これらの魔法は、あれば便利だと思う。


 僕は自分のステータスを確認してみる。今回のレベルアップで取得したスキルポイントは6ポイントだ。新しい4つの魔法と、あとは取得に2ポイントかかる『メイス修練』を覚えれば、ちょうど6ポイントになる。 よし、これらを覚えよう。



「すいません。覚えるスキルが決まりました。新しく出てきた魔法4つと、『メイス修練』を覚えたいと思います」


「分りました。それではユウリさん、こちらへどうぞ」


 僕は近くにある、『英知えいちの大水晶』というスキルを覚える魔法道具にひたいをつける。水晶があわく光り、新たな知識が流れ込んできた。



 新たにスキルを取得してみたら、使ってみたくなるものだ。僕はエノーラさんに、こんなお願いをする。


「ここで『領域洗浄』のスキルを使ってみても良いですか?」


「ええ、問題ないと思います、構いませんよ」


「では、この受付カウンターに使ってみますね。この場所のカウンターを清めたまえ『領域洗浄』」


 ギルドの受付は、いくつかあるのだが、エノーラさんがいる受付だけをイメージして魔法を発動させた。すると、すこし汚れていたカウンターのテーブルは、汚れが吹き飛ぶように消え、ワックスでもかけたかのようにピカピカになった。



「……ユウリさん、洗浄の魔法は、汚れを少し落とすだけで、普通はここまで綺麗にはなりません。これは異常です」


 どん引きしているエノーラさんをよそに、僕は魔法の仕上がり具合をチェックする。


「あっ、ここに深い傷がありますね。あるべき姿に戻せ『修復』。この染みみたいなのは『洗浄』では無理なのかな? あらゆる汚れを亡き者とせよ『浄化』」


 テーブルをさらに綺麗にすると、エノーラさんはあきれ果てたように言った。


「その傷は、私がこのギルドに入った時からあったものです。そうとう昔の物ですよ。あと、それは染みではなく、木の節目です。それも『浄化』の魔法で消せるものなのですね……」


 よく見ると、木の節目は残っていて、色が抜け落ちたような感じになっていた。どうやら脱色だっしょくのような事も出来るらしい。


「では、僕はタカオの様子をみてきます。『洗浄』の件で何か問題がありましたら、教えてください」


 僕はエノーラさんに挨拶をすると、借りている部屋に戻る。



 借りている部屋に入ると、タカオが枕を抱えて、つらそうにしていた。


「戻ったよ、タカオ。どうしたの?」


「ユウリか。朝、飲み過ぎて頭が痛い。二日酔いだ」


「二日酔いも魔法で直せるのかな? この者の頭痛を治せ『治療の奇跡キュア』」


「おっ、頭痛が嘘のように消えていく。ありがとうユウリ! さあ、クエストに行こうか」


「もう夜だよ。実は今日、清掃系のクエストを受けて、軽く掃除をしてきたんだ。そしたらレベルが上がっちゃって……」


 タカオに今日の経緯いきさつを話しておく。タカオは清掃系のクエストは嫌らしいが、困っている人がいると説得すると、納得して引き受けてくれた。

 明日は二人で清掃の続きをする事となった。新しく魔法を覚えたので、タカオの出番は無いかもしれないけど……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る