新しいスキルの効果 1

 4日目の朝を迎える。朝日が部屋に満たされると、僕は自然と目が覚めた。まだ寝ているタカオを起こすと、今日はすんなりと起きた。


「んー、朝か。今日は晴れてるな、準備をして出掛けようぜ」


「そうだね。でもその前に朝食を食べようよ」


「おう、今日の朝食は何だろうな」


 身支度みじたくをしてギルドのレストランに行くと、今日も人で賑わっていた。銅貨3枚で朝食セットを注文して、僕たちも朝食をいただく。今日のメニューは、パンと焼いたサーモンにチーズをかけた物だった。



 食事をしながら、今日の予定を話す。


「タカオ、今日はどうする?」


「いつものジャッカロープ狩りかな。新しく取得したスキルを試してみたいからな」


「『強撃きょうげき』と『花吹雪はなふぶき』だっけ?」


「ああ、ユウリのスキルも試してみたらどうだ?」


「僕の覚えたのは生活魔法だから、戦闘にはあまり関係ないかも。そういえば、今日はちょっと早めに狩りを切り上げない?」


「いいけど、何かやりたい事があるのか?」


「うん、ちょっと50年ほど前に、異世界から現われたという勇者が気になって、図書館で調べてみようと思うんだ」


「分った。じゃあ、夕方になる前には街に戻ってこよう」


 予定が決まり、食事を済ませると、『ジャッカロープの駆除』のクエストを受けて、僕たちは街の外へと出発をする。新しいスキルで狩りの効率は変るだろうか?



 田園風景の田舎道を歩いて行く。今日はジャッカロープの狩りが始まって3日目だ。毎回、同じ様な田舎道を歩いているが、行き先は少し変えているので、狩り尽くすという心配は無いだろう。


 のんびりと15分くらい歩いていると、最初のジャッカロープに出くわした。


「おっ、あそこにいるな」


 タカオが指をさした先を見ると、木の枝のような角が動いている。


「いるね、どうする?」


「まずは俺の新スキルを試していいか?」


「いいよ」


「じゃあ、行くぜ! うりゃあー」


 タカオが声を上げてジャッカロープに突っ込んで行った。ジャッカロープはタカオを見ると、同じ様に突っ込んで来た。

 争いは同じレベルの者同士でしか起こらない。つまりジャッカロープから見れば、タカオも同レベルなのだろう。



 タカオとジャッカロープの角が、激突しようとした瞬間、タカオはスキルを使う。


「くらえ!『強撃きょうげき』」


 今までの攻撃よりも、かなり強烈な攻撃が繰り出され、激しい衝突音がした。この攻撃を受けたジャッカロープの頭が激しく揺さぶられる。


「まだだ、『強撃』『強撃』『強撃』」


 タカオはスキルを連続使用して追い込んでいく。ジャッカロープは防戦するしかない。今までの戦いだと、タカオが負けそうになっていたので、これは大きな変化だろう。


「『強撃』『きょう』……」


 攻撃の勢いが、急に緩くなった。心配になった僕は聞いてみる。


「どうしたのタカオ? 何か変な事でも起きた?」


MPマジックポイント切れだ、もうスキル攻撃ができない」


 急に攻撃の手が弱まると、ジャッカロープは、このチャンスを見逃さない。タカオを激しく突っつき始めた。


「いた、いたた。助けてくれユウリ」


 僕が慌てて横からメイスで殴り、ジャッカロープを仕留める。どうやらタカオはまだ、一人では勝てないらしい。



「とりあえずヒールを掛けておくね『回復の息吹ヒール』」


「ありがとうユウリ。もう一つのスキル『花吹雪はなふぶき』も試してみたいがMP切れだから無理だな。こんどはユウリが戦ってみたらどうだ? レベルが上がってステータスが上昇していれば、スキル無しでもジャッカロープに勝てると思うぞ」


「わかった、じゃあ、こんどジャッカロープが居たら試してみるね」


 戦闘が終わり、僕たちは再び歩き始めた。



 20分ほど歩いていたら、再びジャッカロープを見つける事が出来た。


「じゃあ、今度は僕が戦闘してみるよ。危なくなったら助けに来てね」


「おう、任せろ。いつでも助けに駆けつけるぜ」


 僕はジャッカロープに向って、真っ直ぐに走っていく。ジャッカロープは途中で気がついたらしく、僕の方をチラリと見ると、慌てて逃げ始めた。


「えっ、ちょっと、戦わないの?」


 僕は追いかけようとするが、相手はウサギだ。追い付くハズもなくどんどん離される。



「ええと、あっ、そうだ。地面を動かす『整地せいち』の生活魔法は、たしか隆起りゅうき沈降ちんこうさせる事ができたんだ。ジャッカロープの進行方向に出せば、移動が遅くなるかもしれない。試しにやってみよう、大地よ行く手をはばめ『隆起!』」


 僕が呪文と唱えると、幅5メートル、高さ1メートルくらいの土壁が地面からせり出して来た。ジャッカロープは目の前に現われた土壁にビクッと驚いたが、それを軽々と飛び越えて行く。


「あっ、逃げられた。もっとMPを消費して、高い壁を作らないと」


 僕も追いかけて、土壁の横を走り抜ける。すると再びジャッカロープが見えたので、また呪文を唱える。


「大地よ高き壁となって行く手をはばめ『隆起!』」


 今度は高さ3メートル、幅5メートルくらいの壁が出来上がった。さすがにこの高さは飛び越えられないようで、ジャッカロープは横に避けようとするが、僕がそれを阻止する。


『『隆起!』『隆起!』『隆起!』』


 呪文を連打して、ジャッカロープの逃げ道を塞ぐ。逃げ道を断たれたジャッカロープは僕に突進して来たが、これを正面からメイスで殴り倒した。ジャッカロープは「グェ」と断末魔だんまつまをあげて動かなくなる。



 タカオが駆けつけてくる。


「やったなユウリ。しかし、ジャッカロープのヤツ、かなり逃げ回ったな」


「うん、追い付くのが大変だったよ」


「この土の壁、どうするんだ?」


「あっ、うん。魔法で直せるのかな? 大地よ元の姿に戻りたまえ『整地せいち』」


 僕が魔法を掛けると、盛り上がっていた土の壁が、もとの平坦へいたんな地面に戻った。ただし、土の壁を作る時に消費したMPと、同じだけのMPを消費しなければならないようで、全て直した後に、どっと疲れがやってきた。ジャッカロープを一匹狩るのに、これは非効率すぎるだろう。今まで通り、タカオに戦ってもらった方が良さそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る