冒険者のお買い物 2

 僕らは大型の道具屋へとやってきた。ここには冒険者が使う道具も揃っているらしい。


 店の中に入ると、道具が規則正しく、びっしりと並べられている。鍋や食器といった見慣れたものから、何に使うか分らないものまで、ありとあらゆる物があるようだ。

 僕らがキョロキョロと店の中で迷っていると、少し無愛想な男がやってきて、声をかけられた。


「いらっしゃい、どんな物が必要なんだ?」


 タカオが異性としゃべりすぎると、後で大変な事になるので、僕が話し相手になる。


「あの、僕ら初心者の冒険者なんですが、冒険に役立つ道具が欲しいんです」


「なるほど、駆け出しの冒険者か。それだと金はあまりかけられないな。お嬢ちゃん達は、何か使える生活魔法せいかつまほうは使えるか?」


「生活魔法ってなんでしょう?」


「あー、火をつけたり、氷を作ったり、明かりを出したりする魔法なんだが、その調子だと使えそうにないな」


「ええ、そういった魔法は使えません」


「そうか、それじゃあ、その手の道具も必要だな。金さえあれば、便利な魔法道具って手もあるが…… お前ら駆け出しだから金を持って無さそうだな。よし、このロジャー様が安めの道具を見繕みつくろってってやろう」


 ロジャーと名乗った男は、店の中の道具を集め始めた。



「お前ら、調理器具や食器ぐらいは持ってるよな?」


 ロジャーさんに聞かれたので、素直に答える。


「いえ、もってません」


「基本的な道具、ランタンやロープやピッケルは、さすがに持ってるよな?」


「いえ、僕らは道具自体をほとんど持ってません」


「……よくそれで冒険者としてやっていけるな」


 ロジャーさんはあきれた様子で僕らに言う。


「ええ、はい、まあ、新人ですから」


 僕は愛想笑あいそわらいを浮かべてごまかす。



「まあ、その調子だと、当分はダンジョンには潜らないな。水筒と食器と小さな鍋、あとは火起こしの道具とランタンくらいで良いか」


 それを聞いて、タカオがこう言った。


「ユウリは収納魔法が使えるから、かなりの荷物が持てる。俺たち金はそこそこ持っているから、キャンプ道具とかも揃えておきたいんだ」


「ユウリって、このエルフのお嬢ちゃんかい? 倉庫魔法なんて珍しいスキルを持っていたのか…… うむ、そうなると、重たくかさばる道具でも、少しは大丈夫だな。表にキャンプ道具が並べてある、まずは見に行こうか」


 ロジャーさんに連れられて、僕らは店の外に移動した。



 店の外には、荷物をいれる木箱やたる、アウトドアのテーブルと椅子、小型のテントや馬車の荷台などが置かれている。

 物珍ものめずらしさから、それらを眺めていると、ある大型の馬車が目に止まった。僕はロジャーさんに聞いてみる。


「この馬車はなんですか?」


「ああ、それは『居住馬車きょじゅうばしゃ』って物だ、長旅をする商人が寝泊まりをする馬車だな。中古だからかなり安いが、それでもお前らには高くて買えないと思うぞ。でもまあ、ちょっと中を覗いてみるか?」


「はい、中を見せてください」


 ロジャーさんが馬車の扉を開けてくれたので、僕らは中に入った。



 馬車の中は2畳半ほどのスペースになっていて、3人掛けくらいの大きなソファーとテーブル、あと戸棚が設置されている。大きな窓も付いていて、ちょっとしたコテージの部屋のようだ。


「ここのソファーが、寝るときにはベッドになるんだ」


 ロジャーさんはそう言って、実演してくれる。テーブルの上にクッションを置き、ソファーは1分も経たずに、大きなベッドに変った。もしこの馬車があれば、旅は快適そのものだろう。


 これを見て、タカオがちょっとその気になる。


「この馬車はいくらなんだ?」


「金貨70枚だ、お前らには無理だろう」


「いや、金貨100枚持っているから、それなら払えるぜ。どうするユウリ買っちまうか?」


「えっ、そうだね。いいかもしれないね」


 金貨70枚、およそ70万円の高い買い物だが、これで異世界を旅行をしている妄想をしてみる。きっと快適な旅になるに違いない。



 会話を聞いていたロジャーさんが、心配そうに聞いてきた。


「お前ら、これは馬車だぞ、馬はもっているのか?」


「……持ってません」


 僕がそう言うと、タカオはロジャーさんにこんな質問をする。


「馬っていくらくらいするんだ?」


「そうだな。相場は1頭につき金貨80~120枚ってところか。この大きさの馬車だと、馬は2頭は必要だから金貨160~240枚は必要になるぞ」


 あっ、これは完全にお金が足りない。この馬車はあきらめるしかないだろう。



「ちょっと僕たちには手が届かないよ。有名な冒険者にでもなってから、出直すしかないね」


 僕がタカオに言うと、タカオはこんな事を言い出す。


「いや、大丈夫だろう。ユウリの倉庫魔法にしまって持ち歩けば、馬は要らないはずだ」


「えっ? こんなデカいの入らないんじゃない?」


「そうだ、倉庫魔法ってのは、せいぜい旅行カバンくらいしか容量がないんだ。こんな物が入るハズが無い。もし、これが入ったら馬車を3割引で売ってやるよ」


 ロジャーさんも僕と同じ意見らしい。




「フフフ、3割引と言ったな。やれユウリ、収納するんだ」


 なぜかタカオが得意気に言う。僕は不可能だと思いつつ、倉庫魔法を試してみる。


 すると、空中にゲートが現われ、馬車をフワッと飲み込み、消え去ってしまった。どうやら無事に格納できたらしい。


「馬鹿な!」


 驚くロジャーさんに、タカオが言った。


「ふふん。これで三割引の金貨49枚だぜ」


「……わかったよ。約束だ、金貨49枚で売ってやる。ただし、俺様が冒険者ギルドに依頼をだした時は、その依頼を引き受けてくれよな」


 そう言って、僕の両肩をがっちりとつかまれた。


「えっと、僕らのレベルでもできるなら、依頼は引き受けさせてもらいます」


「大丈夫だ、俺様が出すのは輸送の依頼だからな。嬢ちゃんは馬車より荷物が運べるんだぞ、それだけで冒険者として食っていける」


「わかりました、その時にはよろしくお願いします」


 この後、僕らはさらに色々な道具やキャンプ用品も、割引価格で購入した。

 装備だけは充実したので、ベテラン冒険者になった気分だ。

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