冒険者のお買い物 1

 窓から日が差し込んでくる。どうやら朝が来たようだ。

 眠たい目をこすりながら、体を起こすと、隣のベッドでパンツ丸出しで寝ているタカオの姿が見えた。掛けてあったはずの毛布は、ベッドの下に落ちていて酷い寝相だ。


「タカオ、朝だよ。早く起きて」


「あ、あと5分だけ……」


「ほら、いいから早く起きて」


 僕がタカオの体を強く揺さぶると、ようやく起きて来た。


「あれ? あっ、そうだ。ここは異世界だった」


「身支度をして、まずは朝食を食べようよ」


「おう、そうだな。ちょっと待ってくれ」


 タカオは寝ぼけながら、のそのそと身支度をする。

 10分くらい掛かっただろうか、準備の出来た僕たちは、ギルドのレストランへと向う。



 レストランは朝から賑わっていた。朝食セットが銅貨3枚という、日本円だと300円くらいの格安の値段で食べられるらしい。

 僕らはカウンターでそれを頼み、空いている席に着く。


 朝食セットは、大きなパンと、トマトと豆のスープ、あとサラダがついてきた。

 硬くて歯ごたえのするパンを、モソモソと食べながら、今日の予定を話す。


「タカオ、今日の予定はどうしよう?」


「レベルが上がるまで、ジャッカロープの狩りを続けようぜ」


「うん、それは良いと思うんだけど、その前に買い物をしない?」


「いいぜ、何を買うんだ? 武器か? 鎧か?」


「どちらも違うよ。行きたい場所は二つあって、ひとつ目は道具屋に行きたい。僕たち、冒険者としての道具を何にも持ってないだろう」


「そういえば、キャンプ道具とか、俺らは何も持ってないな」



 僕がタカオに説得するように言う。


「何かあった時に困るから、最低限の装備は買っておこうよ」


「そうだな。あるに超したことはないからな。それでもう一つの、行きたい場所ってどこだ?」


「服屋に行って服の予備を買っておかないと。僕らの下着とか、昨日のままだし」


「俺は三日くらい同じパンツをはいてても気にならないぜ」


「それは止めてよ、女性になったんだから、少なくても下着は毎日、変えよう。それに予備がないと洗濯もできないよ」


「まあ、それもそうか、じゃあ、午前中は買い物をして、それから狩りに出かけるか」


 こうして、今日の僕らの予定が決まった。



 ギルドを出発する時に、エノーラさんから店の場所を聞く。

 服に関しては『マシムラ』という店が、安くて良いらしい。

 冒険者の道具に関しては、ロジャーという人が、かなり大きな店を構えているらしく、そこを紹介された。


 僕らはまず、服の店『マシムラ』に向う。中央通りを3分ほど歩き、一本、奥の道に入ると、目的の店が見えた。


 店はそこそこ大きく、中に入ると、男性用、女性用、子供用、お年寄り向けと、別れていた。どうやら一通りの衣服を置いているみたいだ。僕は戸惑とまどいながら女性用コーナーへと向う。



 女性用コーナーには、シャツやズボンといった男性用とあまり変りのない服から、下着といった目のやり場に困るような物まで売っている。


 タカオが紫色のセクシーな下着を、服の上からあてて、僕に聞いてきた。


「どうよこれ? 俺ににあってるかな?」


 本人はふざけてやっているのだが、困った事に似合っていたりする。


「うん、似合ってるよ」


「えっ、あ、うん。そ、そうか」


 タカオの顔が真っ赤になった。僕が真面目に答えたので、急に素に戻ったらしい。どうやら女性である事を、いまさらながら自覚したようだ。



 タカオは、恥ずかしさを隠すように、特売品のワゴンを指さして、こう言った。


「ああ、もう、ワゴンセールのヤツでいいか」


「うん、僕らにはそれで十分だと思うよ」


 僕らはワゴンセールの服を適当に買っていく。


 この店の服は、銀貨2~3枚が相場らしい。二人で下着や部屋着など、10着ほど買って、銀貨24枚、およそ2万4千円を支払った。これで当分は平気だろう。


 服を買い終わった僕らは、冒険者の道具屋へと向う。



 街の中心から外れた場所に『ロジャーの道具屋。揃わない道具など無い!』と、看板をかかげた店がある。

 大げさなうた文句もんくに思えたが、かなり大きな店で、ちょっとしたホームセンターくらいの広さがあった。店の前には、ロープやはしご、スコップやツルハシといった物から、大きな物では馬車の荷台までもが売られている。


 タカオが店を見渡して言う。


「ここなら何でも揃いそうだな」


「そうだね、さっそく入ってみよう」


 僕らはキョロキョロを周りを見ながら、店の中へと入って行く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る