ささやかな祝勝会

 銀貨23枚の報酬をもらい、僕らは解体施設から冒険者ギルドに戻ってきた。

 この冒険者ギルドは、レストランと宿屋が併設されていて、今は夕食の時間なので、レストランが混み合っている。


「このギルドは宿も経営してるんだよね。部屋を取らないと」


 僕がタカオに言うと、タカオはレストランの空いている席を指さしながら言う。


「先に食事にしようぜ。初めてのクエストに成功したし、お祝いも兼ねて豪勢ごうせいに行こう!」


 この先どうなるか分らないので、節約した方が良いと思ったが、タカオがあまりに嬉しそうに言うので、僕は無碍むげに断れない。


「うん、まあ、あまり高い物じゃなかったら良いんじゃないかな」


「よし、じゃあ、何にしようか、美味そうなヤツが良いな……」



 黒板に書かれたメニューを眺め、どれにしようか迷っていると、ウェイトレスさんが、黒板にある品を書き足した。


『ジャッカロープのグリル焼き、半身、銀貨3枚』


 それを見て、タカオが反応をする。


「おい、アレって俺らが取ってきたヤツだよな? アレを頼もうぜ、良いだろ?」


「良いよ、どんな味がするんだろうね」


 僕らはウェイトレスさんにジャッカロープとパン、あとエール酒を頼む。お値段は、合計で銀貨4枚ほどだ。タカオいわく、こういったファンタジーの世界では、エール酒を頼むのが常識らしい。



 料理を注文すると、すぐにエール酒が運ばれてきた。未知のお酒に恐る恐る口をつけてみる。ビールのような見た目だったが、あまり苦くなくフルーティーな味わいがする。チビチビと飲んでいると、15分ほど経った頃に、メインディッシュのジャッカロープのグリルがやってきた。


 ジャッカロープは、こんがりとキツネ色をしていて、香ばしい匂いが漂って来る。

 ドスンとテーブルの上に置かれると、さっそく僕らは食べ始める。


「「いただきます」」


 ブツ切りに切られた肉片にかじりつくと、あっさりとした脂と、旨みが口の中に広がる。肉質もやわからく、いくらでも食べられるくらい、とても美味しい。


「美味いな」「美味いね」「本当に美味いぜ」


 語彙力ごいりょくの無い会話をしながら、僕らはジャッカロープを平らげた。



 腹いっぱいになると、自然と眠くなってくる。僕らは食事代を支払うと、宿屋の受付の方へと移動をする。


「おばちゃん、俺たち部屋に泊まりたいんだけど、どんな種類の部屋があるんだい?」


 少し酔っ払ったタカオが、恰幅かっぷくの良いおばちゃんに声を掛けた。すると、おばちゃんは愛想良く答えてくれる。


「あんたらギルド員かい」


 僕がギルドの会員証を見せながら言う。


「ええ、そうです。今日、入会しました」


「新入りさんだね。ギルド員の宿泊料金は、大部屋で雑魚寝ざこねなら、一人につき銀貨1枚。ひとり部屋だと、一部屋につき銀貨3枚。二人部屋だと、銀貨4枚だよ」



 銀貨1枚は、およそ1000円程度の価値がある。ちなみに銅貨はおよそ100円だ。僕が、部屋についてさらに詳しい話を聞く。


「二人部屋って、二人でその料金なんですか?」


「そうだね。だから二人で割り勘をすれば、一人につき銀貨2枚ですむよ。若い女の子が、大部屋でむさ苦しい男どもと一緒に寝るのは嫌だろう? 懐に余裕があるのなら個室を進めるけど、どうする?」


 おばちゃんの言う通りだ。特にタカオは異性をきつけるスキルを持っている。個室の方が絶対に良いだろう。


「タカオ、二人部屋で良いよね? お得だし」


「あー、できれば一人部屋を二つ借りた方が良いんじゃないか。ほら、ユウリも体が変ったから、ひとりで色々と試したい事があるだろう」


 そう言って、タカオは鼻の下を伸ばした。こいつ、エロい事を考えているな。絶対に一人部屋にしてはダメだ。


「おばちゃん、二人部屋でお願いします」


 僕は強引に、二人部屋に決めてしまう。銀貨4枚を支払い、部屋の鍵を受け取る。



「あいよ、3階の302号室を使っておくれ。トイレとシャワーは1階にある。シャワーは別料金で、1回につき銅貨3枚だ」


「お風呂はないんですか?」


 僕が聞くと、おばちゃんは、外の街の通りをゆびさしながら教えてくれる。


「風呂はうちのギルドには無いね。入りたければ、あの通りを5分くらい歩けば、風呂屋が見えてくるよ。入浴料は、たしか銀貨1枚くらいだったね」


「意外と高いんですね」


「まあ、大抵のヤツは半日とか、一日中過すからね。そのくらい料金を取らないと、やってけないだろうさ」


 なるほど、汗を流す銭湯というより、一日ゆっくり過す、温泉ランドみたいな施設なのだろう。余裕があれば僕も行って見たい。



「なあ、ユウリ。俺たちは、当然『女湯』だよな。これから風呂に行かないか?」


 そう言って、タカオはまた鼻の下を伸ばす。そうだった、僕らは女湯に入らないといけないんだった。


「今日は疲れたからシャワーで済まそうよ。お風呂は高いから、ゆっくりと行ける時にしよう」


「まあ、そうするか。今日はかなり歩いたから疲れたぜ」


 適当に言いくるめて、なんとか風呂をあきらめさせた。男が女湯に入っちゃダメだろう。

 僕らは、受付のおばちゃんに軽く挨拶をすると、自分達の部屋へと移動をする。



 鍵を開け、部屋の中に入る。部屋は6畳ほどの大きさで、あまり広いとは言えないが、二人で使うには充分な大きさがある。家具は、二つのベッドと、小さなテーブルがあるだけで、豪華さは無いものの、清潔で過しやすそうな部屋だった。


 タカオは窓を開けて、街の通りを眺める。僕もタカオの横に並び、窓の外を眺めてみた。

 夜なので人通りはほとんど無いが、鎧を着た衛兵や、馬車が行き交っている。こうしてみると、僕らはファンタジーの世界に居ると、実感が沸いてくる。


「シャワーはどうする? ユウリが先に行くか?」


「あっ、うん。じゃあ、僕が先に行ってくるね」


「ゆっくり浴びてきて良いぜ」



 ……ゆっくり浴びてきてという事は、もしかして一人に居る時にナニかをやるつもりなのか?

 僕がシャワーを我慢して、監視をし続けるという手もあるが、今日一日、歩き回ったので、さすがにシャワーは浴びたい。


 僕は銅貨3枚を握りしめて、タカオに言う。


「シャワーを浴びて、すぐ戻ってくるからね、本当にすぐだからね」


 1階まで走り、その勢いでシャワーを浴びて、あっという間に出てきた。

 そして、急いで戻ってくると、タカオは僕にこう言った。


「髪、ちゃんと拭いてこないと風邪を引くぞ」


「あっ、うん。髪は今から拭くよ、タカオもシャワーを浴びてくれば」


「ああ、そうさせてもらうぜ」


 どうやら僕は、勘違いしていたようだ。さすがにそこまで非常識ではないらしい。


 この後、タカオが部屋に戻ってくると、僕たちはすぐに眠りについた。

 時刻は夜の9時くらいだと思うが、慣れない世界に来たので、意外と疲れていたらしい。

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