解体と報酬

 日が暮れてきたので、僕らは街へと戻ってきた。

 城門の門番さんに、タカオが声を掛ける。


「ジャッカロープを4匹も狩ってきたぜ!」


「おお、なかなか凄いじゃないか」「やるなぁ、やはり、あの剣さばきは只者ただものではなかったか」


「今日はちょっと調子が悪かったけどな。明日はもっと狩ってみせるよ」


 タカオと門番さん達は、したしげに会話をする。タカオの持っているスキルのせいか、好感度がかなり上がっているようで、僕らは身分証明書を見せず、顔を見せただけで街に入れてもらえた。



 入り口近くの市場は、夕方になると、ほとんどの店も閉まっていた。人通りの寂しくなった通りを歩いて、僕らは冒険者ギルドに戻ってきた。

 ギルドの中に入ると、タカオが受付嬢のエノーラさんを見つけて、声を掛ける。


「エノーラさん、戻ってきたぜ。4匹、狩ってきたけど、どうすればいい?」


「4匹も狩れたのですか、初日なのに凄いですね。死骸は回収しましたか?」


「ああ、持ってきたぜ」


「では、こちらへ。ギルドの裏手に解体施設があります」


 僕らは案内されて、隣の建物へと移動をする。



 解体施設の建物は、倉庫のような作りをしていた。扉を抜けると、がらんとした天井の高い大きな部屋になっていて、氷漬けの肉や、大きな鳥の羽、奇妙な植物の花、でっかい牙や爪が整理されて置かれている。こういった光景を目にすると、改めて異世界に来たのを実感する。


 エノーラさんが、ゴッツいおっさんを紹介してくれる。


「こちら、解体部隊の隊長、ダルフさんです。狩ってきた獲物は、この方に渡して下さい。それでは私は受付の仕事がありますので」


 そう言ってエノーラさんはギルド本部の建物に戻っていく。


「よう嬢ちゃん達、獲物はどこにあるんだ? 『血抜き』はちゃんとしたか?」



「『血抜き』ってなんですか?」


 僕がそう聞くと、ダルフさんはあきれながらも説明してくれる。


「動物の頸動脈けいどうみゃくを切って、血を出し切る作業だな。殺してすぐやらないと、肉の臭みが出てきて価値が落ちるんだが…… その感じだとやってないな?」


「ええ、はい。やってません」


「それで、獲物はどこにあるんだ?」


「ええと、今、出しますね」


 僕は倉庫魔法を使って、収納していたジャッカロープを全て出した。



 ダルフさんが驚いた様子で声を上げる。


「お、お前、『倉庫魔法』が使えるのか。ジャッカロープを4匹も収納できるなんて、これは逸材いつざいだな」


「そんなに『倉庫魔法』は珍しいのですか?」


「ああ、『倉庫魔法』のスキルは、習得が難しい上に、使えるようになったとしても、大抵たいていは大きめの鞄、一つ分くらいしか入らない。普通だと、ちょっとした貴重品を入れておくのがせいぜいだな、これだけ収納するようになるには、相当スキルポイントをつぎ込まないと出来ないはずだ」


「そうなんですね。たまたま僕は運が良かったのかな?」


 これは僕が神様だからかもしれない。どうやら一般の冒険者と比べて、かなり優遇されているみたいだ。



 ダルフさんが取り出したジャッカロープの様子を見ながら言う。


「なるほど、これなら『血抜き』は要らないかもな」


「それってどういう意味ですか?」


 僕が聞くと、ダルフさんが実演をしてくれる。


「首筋に切り込みを入れてみよう。ほら、血がたくさん出てきた、まるで死んだばかりのような感じだな。『倉庫魔法』にしまわれているあいだは、ほとんど時間が経過しないと言われている。ある実験では、温かい飲み物をしまっておいて、1年後に取り出しても、まだぬくもりがあったとかいう話だ。死んだばかりなら、まだ『血抜き』は間に合うのさ」


 ダルフさんは4匹のジャッカロープを次々に処理しながら教えてくれた。なるほど時間が停止するのか。倉庫魔法は、もしかしたら現代の冷蔵庫よりも便利かもしれない。



「しかし、どれも頭に鈍器で一撃か。飛び道具や魔法を使わずよく倒せたな、コイツら人の気配がしたら、すぐ逃げ出すのに」


 ダルフさんがそう言うと、タカオが今日の狩りの出来事を説明する。


「俺が斬りかかって行っても、ソイツら逃げなかったぜ、むしろ立ち向かって来やがった」


「ああ、そうなのか。コイツらは、自分より格下の相手だと判断すると、襲いかかってくる事もあるんだが……」


「えっ? マジで?」


「お前らのレベルは幾つだ?」


 その質問には、僕が答える。


「まだ1レベルです」


「そうか。まあ1レベルだとめられても仕方ないな」


 ウサギに格下だと扱われて、タカオはショックを受けてないだろうか。僕は慰めの言葉をかける。


「大丈夫、タカオ? 気を落とさないで」


「なるほど。この異世界モノは、最底辺さいていへんからい上がるパターンと見た。ちょっと地味だがレベル上げをしよう。明日から忙しくなるぜ」


 親指を立てなら僕に向って言う。うん、落ち込んでは無さそうだ。タカオは常にポジティブなので助かる。



 ダルフさんが帳簿のような物を取り出して、僕らに言う。


「よし、買い取りの査定をするか。肉は血抜きをしたからAランク。毛皮は、体の部分にどこも傷が無いのでAランク。大きさは……Bランク3匹に、Cランク1匹だな。害獣駆除の料金と合わせて、銀貨23枚だ」


 タカオが出された報酬を受け取りながら言う。


「なんか、けっこうな金額に感じるんだが、これは報酬としてどうなんだ?」


 その質問にダルフさんが答えてくれる。


「なかなか良い稼ぎだと思うぜ。うちのギルドの宿屋だと、大部屋なら銀貨1枚で一泊できるし、メシも贅沢さえしなけりゃ、一日、銀貨1枚で過ごせる」


「なるほど、結構、稼いだのか」


「レベルが上がるまでは、ジャッカロープの狩りを続けたらどうだ。ジャッカロープが相手なら、小さな怪我はしても、死ぬ事はないだろうからな」


「そうだな、ありがとな、おっちゃん。明日からジャッカロープ狩りを続けてみるよ」


「ありがとうございます。明日もよろしくお願いします」


 タカオと僕はダルフさんに挨拶をすると、ギルドの方へと戻ってきた。

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