神様のお仕事

「えっ、これが新しい体?」


 僕は何度も鏡で顔を確認する。女神様の作った新しい体は、金髪のイケメンで、元の僕と似ても似つかない。


「神様をやるには、それなりに良い風貌ふうぼうがあった方が良いです。説得力が違いますからね」


 女神、マグリアノス様はそう言い切った。まあ、確かに前の姿の僕より、このイケメンに言われた方が、説得力が出るだろう。



「それで、僕は神様になって、何をすれば良いのでしょうか?」


「さっそく仕事の話ですか、勤勉なのは感心できますね。あなたには私と同じ、現世げんせいたましいを、勇者として異世界へ送り出す仕事をやってもらいます。勇者を送り出した後は、たまに監視をするくらいで良いので、とても楽な仕事ですよ」


「『異世界』について、僕は何も知らないのですが、大丈夫でしょうか?」


「大丈夫です。まずは攻略難易度の最も低い、とても簡単な『異世界』をあなたにお任せします。神々をサポートのシステムもありますし、私が手取り足取り教えるので問題ありません」


 良かった、いきなり無茶な仕事を任されたら、どうしようかと思っていたが、これなら何とかなりそうだ。



 異世界に魂を送り出すのか…… 待てよ? 相手はおそらく屈強くっきょうなモンスターだ、現代人を異世界に送り出した所で、現地で役に立つのだろうか?


「すいません。あの、現代人を異世界に送っても、大丈夫なんでしょうか? 大した戦力にならない気がするのですが……」


「良い点に気がつきましたね。確かに魂をそのまま送り出しても、大した戦力にはなりません。そこで、『ユニークスキル』という、強大な力を3つほど与えてから、異世界へ送り出すのです」


『ユニークスキル』という聞いた事のない単語が飛び出してきた。これは何だろう?



「すいません、『ユニークスキル』って何ですか?」


「『ユニークスキル』とは、神様が与えた特別な力ですね。攻撃力が上がったり、特別な武器や防具をさずけたりします。まあ、普通はたましいの方が要求してくるので、その希望にうようにして下さい」


「魂の方から、要求してくるのですか?」


「ええ、大抵たいていは言ってきますね。中には無茶な物もありますから、そういう場合は断るか、該当しそうな妥当なスキルを与えて下さい」


「どんな無茶を言われた事があるのですか、気になります」


「私の言われた中では、『取得する経験値が1億倍になるようにしてくれ』とか、『地球を壊せるくらいの武器が欲しい』とかですかね。取得する経験値の倍率の上限は10倍とルールが決まっているので、この要求に答えるのは無理です。『地球を壊せるくらいの武器』は、神の力を持ってしても作れません」


「上限が10倍とか、そう言ったルールを、僕は知らないんですけど……」


「大丈夫ですよ。神々をサポートするシステムがあるので、細かい事は覚えなくても平気です。そうですね、まずはサポートのシステムを説明しましょうか?」


「お願いします、教えて下さい」



「では説明しますね。こう呪文を唱えて下さい。『神託しんたくスクリーン、オン』」


神託しんたくスクリーン、オン」


 僕がそう唱えると、空中に画面が浮かび当った。それはまるでタブレット端末のようだった。

 画面が現われると、マグリアノス様が説明してくれる。


「下界でスマートフォンを使った事は?」


「ええ、あります。持っていました」


「それとだいたいそれと同じですね。ここに『自動サポート』のオンオフのアイコン、ここに検索システム『godgleゴッドグル』のアイコンがあります。操作は画面タッチか音声入力、もしくは思考入力といって、具体的に何をやりたいのか考えるだけで、結果が表示されますよ」


「へえ、考えるだけで使えるなんて便利なんですね」


「そうですね。ちなみにこのスクリーンは、神々しか見られないので、人の子に向って長い台詞せりふを喋る時など特に便利です」


 ……なるほど、他人に見えないなら、カンニングにも使えるわけか。僕も慣れないうちは、台詞を表示しておいた方が良いかもしれない。



 僕が『神託スクリーン』をイジり回し、一通り機能を把握すると、マグリアノス様は次の説明を開始する。


「次に、私ら神々が使えるスキルを説明します。心の声を聞いたり、送り出したりする『念話ねんわ』。ユニークスキルを授けたり、世界に新たな物を作り出す『創世魔法そうせいまほう』、あと、怪我をなおしたり、病気を回復できる『白魔法しろまほう』などが使えます」


「攻撃呪文などは使えないのでしょうか?」


「ええ、攻撃呪文の『黒魔法くろまほう』は使えません。学習すれば、一応は使えるようにはなりますが、『白魔法』のように、思うがままには使えないでしょう。ここら辺は属性の相性だと思って下さい」


『黒魔法』は使えるなら使ってみたかったが、僕は魂を異世界に送り出すだけなので、使えなくても問題ないだろう。



「なるほど、神様のスキルについては解ってきました。僕が受け持つ世界は、どんな感じなのでしょうか?」


「あなたが受け持つ世界は『ランバールズ・ワールド』という名前です。ちなみに、世界ごとに攻略難易度というのがありまして、これは相手の魔物の兵力で決まるんですが、この世界の難易度は最も簡単な『Zランク』となっています」


「『Zランク』ですか? それはかなり簡単そうですね」


「ええ、難易度が高い場合は、複数の勇者を送り込まないと戦力不足になってしまいますが、この世界は1人の勇者を送り込めば充分ですね。それも、かなり弱い勇者でも大丈夫でしょう」


 僕は先ほどの『神託スクリーン』で情報を確認をしてみる。なるほど、ほとんどが平和に暮らしていて、少しだけ悪さをする魔物が存在するくらいか。世界もそれほど広くなさそうだし、これなら1人でも何とかなるだろう。



 僕はデーターを確認した後、マグリアノス様に進言しんげんする。。


「確かにこれだと送り込む勇者は1人でも大丈夫そうですね」


「そうですね。勇者を送った後には、しばらく様子を見て手助けをして下さい。助言をしたり、もし戦力が足りなそうなら、さらに追加の勇者を送ってあげれば大丈夫ですよ。では、まずはやってみましょうか、迷える魂が、ちょうど来たみたいですし」


「いきなりですか? まだ台詞せりふとか覚えてませんが……」


「それっぽく振る舞えば大丈夫です。台詞は定型文ていけいぶんを、あのスクリーンに映し出すように設定しておきました。私は柱の陰から見守っていますね」


 そうい言ってマグノリアス様は柱の陰に隠れてしまった。


 次の瞬間、目の前に赤く揺らめく人魂ひとだまが現われた。僕がこの人魂を異世界に送り出さなくてはならないらしい。

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