神への転生 2

「すいません『異世界』とか『ユニークスキル』ってなんですか?」


 謎の単語が出てきたので、僕は恐る恐る女神様に質問をすると、あきれた顔でこう言われた。


「『ユニークスキル』は知らなくても仕方がないですが、『異世界』も知らないんですか? いま流行はやりの『異世界』ですよ?」


「いや、すいません。知らないです」


「はぁ、仕方ないですね、説明してあげましょう。『異世界』とは、地球とは全く別の世界、異なる世界なのです。物語に出てくるような世界だと思って下さい」


「それは、地獄と天国、餓鬼界がきかい畜生界ちくしょうかいのような感じでしょうか?」


「また、ずいぶんと古典的なイメージですね。もっとゲームに出てくるような、ファンタジーな世界を思い浮かべて下さい」


 僕のよくやっているゲームを思い浮かべる。なるほど、モンスターの内蔵をぶちまけるようなゲームか。ああいう世界はゲームだから良いのであって、現実だと僕の精神はやられてしまうだろうな。この話は絶対に断ろう。



「あっ、えーっと、僕は異世界に行かなきゃダメですかね? できれば元の世界に帰りたいんですけど」


 すると女神様が驚いた様子で答える。


「うそでしょ! 今どきの子が、異世界行きを拒否するなんて…… 本当に行かなくてもいいのですか?」


「ええ、できれば元に戻りたいです。両親も心配すると思いますし」


「……うーん。それは困りましたね。肉体の損傷がひどくて、あなたを元の世界に戻す事はできないのですよ」


「……そんなに酷いんですか?」


「ええ、首が吹き飛んだり、胴体まっぷたつとか、そのレベルだったら修復できるのですが、ちょっと、このレベルの損傷だと無理ですね。映像を出して確認してみますか?」


「……勘弁して下さい。グロテスクな物は見たくありません」


 胴体まっぷたつより酷いレベルって、僕の体はどんな状態なんだろう。あまり想像したくないな……



 ここで、僕はふと、ある疑問が浮かんだ。


「あっ、僕の体がそんなになっているって事は、かなり大きな流星が落ちたんですよね。他に犠牲者とか出たのでしょうか?」


「いいえ、運悪く被害者はあなただけですね。野球ボールくらいの大きさの隕石が体に直撃して、四方に飛び散ってしまいました」


「ああ、まあ、そうですか。他に犠牲者がいないのは不幸中の幸いですね。その点だけは良かったです」


「……その様子だと、あなた、本当に冒険とか異世界に興味が無いようですね?」


「ええ、ありません」


「うーん、そうなのですか…… そうだ、あなたは他人に対して思いやりもあるみたいだし、新しく神様になりなさい。神界では最近、神様が不足ふそくしているので、こちらにも好都合です。もし神になるのなら、私がうまく話をまとめてあげましょう」


 女神様は、とんでもない事を言い出した。僕が神様になれるというのだろうか?



「あの…… 僕なんかに神様が務まるでしょうか?」


「その質問をすると言う事は、やる気があるみたいね。大丈夫ですよ、小さな仕事から少しずつ教えていきますから」


「それなら、やってみたいです」


「わかりました。では、まず現世げんせいのあなたの体をどうにかしましょう。復活させる事は無理ですが、残った体を材料に、新たな生命を作り出す事は可能です」


 女神様は手をクルクルと回しながら、呪文を唱える。



「『死者からの生誕せいたん』黄泉の世界から、新たな息吹いぶきを生み出したまえ!」


 そう言って、何やら手を動かし続けていたが、しばらくすると手を止めて、僕に向って言う。


「はい、これであなたの姿と記憶を持った、新しい人間を創りました。これをご覧なさい」


 女神様は鏡を持ち出してきた。鏡の中にはあの公園が映っていて、そこには確かに僕がいた。新しい僕は、キョロキョロと周りを見回して、何事も無いように公園を立ち去った。


「あの人間は、あなたの代わりとして、これから生きて行きます。記憶も体もあなたと変らないので、おそらく誰も気がつかないでしょう」


 どうやら僕と同じ人間を創り出してしまったらしい。この女神様はすごい神様なのかもしれない。



「さて、つぎに神様として、あなたの体を作らないといけませんね。何か希望はありますか?」


「いえ、希望なんてとんでもない。どんな姿でも結構です」


「わかりました。では、私の好みで作ります。金髪でイケメンと。はいできました」


 そう言い終ると、背中をドンと押される。次の瞬間、僕は新しい体の中に居た。

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